Excelは手軽で便利なツールだが、簡単にワークシートがコピーできてしまうため複数バージョンが生じやすく、運用管理が難しいともいわれている。また、Excelでの処理を個人に任せていると、複雑で専門的な業務であればあるほど、その知見が周囲のメンバーに共有されず、業務が属人化しやすくなるという側面もあるだろう。
今回は、まさにそんな課題に直面したハウスメーカーである敷島住宅株式会社が、Excelからの脱却を図るため、発注ナビを利用し、システム開発企業である株式会社神戸Cafeと出会い、見事に目的を達成した。
敷島住宅株式会社の財務部中尾氏、株式会社神戸Cafe代表の松本氏の両名に、詳しいお話を伺った。
デザインと品質の高い分譲住宅でお客様からの信頼も厚いブランド住宅の悩みは、Excelワークシートからの脱却だった。
――敷島住宅様はどのようなビジネスを展開されていらっしゃるのでしょうか。
敷島住宅株式会社 中尾氏:当社は1960年に創業し、大阪、京都、滋賀エリアで不動産開発を行うハウスメーカーです。品質とデザイン性の高さでご好評をいただいており、2014年から6年連続でグッドデザイン賞、5年連続でハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー賞の優秀賞を受賞しています。
棟数としては、年間で約250棟程度を販売。月平均にすると20棟ぐらいでしょうか。アフターフォローに力を入れており、お客様からも安心のブランドとして高い評価をいただいております。
――今回、発注ナビをご利用いただいたのはどのような経緯からでしょうか。
中尾氏:広い土地を仕入れて、30坪前後の分譲地に区画割りをし、お客様からご注文を受け、半年ほどで家を建てて販売していくという業務を行っています。その過程で、分譲地の区画と借入金とを紐づけるという業務があるのですが、数年前に私が入社した当時から、この作業をExcelの手作業で行ってきました。
実はこの業務は例外処理が非常に多く、手作業であり一つ一つのデータを目視確認するなど決済・登記・借入返済などに絡むため間違いは許されずとても神経を擦り減らし煩雑かつ手間がかかるもので、時間がいくらあっても足りません。また物件数が増えてきてExcelのワークシートでは対応に限界が生じてきたことと、ほかのシステムとのデータ連携や過去データの二次利用も思うように進んでいないことが大きな課題でした。
これをシステムソフトウェアでなんとか省力化を図りたいというアイデアがかねてより社内にありました。
また、この業務に必要な知識を新入社員に教えるのはかなり高いハードルがあります。この業務には、財務に関する知識と土地・建物に関する知識が必要になります。加えて、実務上、Excelの知識も必要になります。そうなるとこの業務を任せられる人材が限られてしまい、属人化しかねません。
理想としては、誰でもここに物件情報の数字を入力すれば、正しい結果がアプトプットされるというような仕組みを作り、またそのデータがほかのシステムと連携していて、かつ参照もしやすいというものにしたいと考えていました。
――もともとお付き合いのある開発会社さんなどはいらっしゃらなかったのでしょうか。
中尾氏:当社がシステムについての相談をしてきた業者さんにも相談してみました。しかし、開発してもらえる業者の当てはないようで、その業者さんからは「既存のアプリケーションソフトウェアを組み合わせたらどうか?」という提案もありましたが「それはちょっと違う」と感じていました。
さらに「借入金管理ができる」というパッケージシステムも探してみましたが、調べた限りではとてもニッチな領域で、有名なものでは2製品によるほぼ寡占状態でした。一応、どちらもパンフレットを取り寄せ、実際にデモの様子も見せてもらいましたが、いずれも上場企業の借入金管理の条件を満たすことを目的としており、不動産業において借入金と分譲地とを紐づけるような機能は持っておらず、カスタマイズについても相談の余地はありませんでした。
フォルダ内に1200個のファイルが。複雑な分譲住宅の借入金処理をこのままExcelワークシートで行うのはもはや限界に!
――不動産物件の借入金管理というのは複雑なのでしょうか。
中尾氏:一つの物件につき、次の六つの項目が関係してきます。
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担保抹消依頼書
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抹消予定表
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販売不動産明細表
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賃貸・自社物件一覧表
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借入残高推移表
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返済予定表(監査法人用)
これが、平均在庫残区画数で約700~800戸あり、さらに団地となると1~100区画で構成され、それぞれの団地毎にプロジェクト借入があります。
前任担当から引き継いだのですが、例えば担保抹消依頼書など一物件を一つのExcelファイルで処理しているため、物件数分のバージョンが出来てしまい、すでに管理できない状態でした。
実際に担保抹消依頼書のデータを参照しようとしたら、1200個近いファイルがフォルダ内に存在していました。この状態だと、たとえば同じ団地内のほかの物件が、いつどれぐらい価格で売れたのかを検索するといったことも叶わず、情報の二次活用がまったくできていませんでした。
――そして発注ナビをご利用いただき、神戸Cafe様と出会われました。
中尾氏:はい。発注ナビの存在を知り、現状と希望を伝えたところ、神戸Cafeさんをご紹介していただきました。
――株式会社神戸Cafe様は発注ナビをご利用いただく上で、普段、どのような案件にエントリーしていらっしゃるのでしょうか。
株式会社神戸Cafe 松本氏:Windowsアプリ(Webアプリ含む)、スマホアプリの開発を中心に行っていますが、この技術領域にこだわりがあるというのではなく、基本的にはお客様の要件に合わせたアプリケーションの開発を行っています。発注ナビでは、案件概要を読み「(このシステム開発が)お客様にとって大きなメリットがある」と判断できる案件に対して積極的にエントリーするように心掛けています。
今回の案件も、Excelで立ち行かなくなった業務のシステム化ということで、当社がお役に立てるものと考えエントリーしました。
――お客様のニーズに合わせた開発が得意とのことですね。
松本氏:神戸Cafeという会社名は、当社の強みである”Coaching” “Agile” “Facilitation” “Emergence”の4つの頭文字を取って名付けています。円滑なコミュニケーションを取るために、コーチング(Coaching)のスキルを活かして、仕様書に記載されていない部分までお客様の思いを引き出し、ファシリテーション(Facilitation)のスキルを活かして開発を進めていきます。そして、アジャイル(Agile)の開発プロセスを用いて、お客様の要望を取り入れながら柔軟に開発を進め、開発者とお客様の新しい関係を創発(Emergence)していくことを重視しております。
ヒアリングの際はお客様がどのようなことを考えているか過不足なく引き出すことを心掛け、イメージの共有に努めています。例えば、システム導入と一言でいっても、お客様が基盤のシステムとしての導入を考えているのか単なる業務改善のツールと捉えているのかによって、システムの作り方は変わってきます。提供するアプリの特徴によって、現場サイドに重きをおくのか経営者側に重きをおくのかなど、さまざまな点に違いがあるため、お客様の思いと齟齬がないように、きちんとコミュニケーションをとることを重視しています。
対面で打ち合わせをした結果、神戸Cafe社からの提案でAccessではなくWindowsアプリケーションでの構築に!ノートPCに合わせてUI/UXも工夫した。
――紹介後の商談は、どのように進んでいったのでしょうか。
松本氏:初回の打ち合わせは対面でお願いしました。当時はまだコロナ禍の時期でしたが、内容の複雑さもあり、要件定義をしっかりと行うために、詳しくヒアリングしたいという思いがあったので申し出たのですが、快く受けてもらえて、とても助かりました。
その場で、資料を見せていただきながら業務の説明を受けられたのは大きかったですね。分譲住宅というイメージは持っていたつもりなのですが、物件ごとにいろいろな種類の借入金が関わってくるというのは、説明を聞くまで知りませんでした。
――敷島住宅様の当初のご要望ではAccessでの構築とありました。
中尾氏:ExcelからAccessというのが自然な流れに感じていたのと、Accessで作ってもらっておけば、もしかすると将来的に内製もできるのではないかという考えからでしたが、松本さんから説明を受け、今回のケースは、Accessだけでは難しいことがよく分かりました。
松本氏:今回のケースに最適な構築技術については、要件定義を進める中で検討させて欲しいと、あらかじめお伝えしていました。そして詳しくお話をうかがっていくと、これはAccessでは難しいのではないか、という判断に至り、今回はクライアントサーバ型のWindowsアプリケーションという形をとらせていただきました。
具体的には、データベース管理にMicrosoft SQL Serverを利用し、クライアントサーバ型のWindowsアプリケーションとして構築しています。
――開発で苦心したところがありましたら、教えてください。
松本氏:UI/UXにもつながる部分として画面サイズの制限に苦心しました。複雑な業務ということもあり、多様な入力項目を画面遷移なく入力できるようにするには、フルHDの画面サイズ(1920×1080ピクセル)が欲しかったのですが、ノートPCで使うことも考慮する必要があるということで、多くのノートPCで採用されている1366×768ピクセル(FWXGA)に収めるのに苦心しました。
中尾氏:お陰様で次の入力項目が何か、あらかじめ分かるようになり、作業効率はとても良いと感じています。また、サーバについても、専門的なアドバイスをいただいて助かりました。
松本氏:社外からもシステムに接続して利用したいというご要望があり、当初は、Webサーバ(データベースも含む)を外部に準備し、そこにアクセスするWindowsアプリを提案しました。
が、ヒアリングをしていくうちに敷島住宅さん内にVPN(仮想専用網)の環境が既に存在していることが判りました。そこで、社内情報システム部門に依頼しもともと保有していたWindowsサーバに今回開発するアプリの導入許可をもらいました。
そのような経緯からクライアントサーバ型のWindowsアプリの構築となりました。
システム改修? 現場運用で対応? 運用開始後の課題は、例外処理をどうするか。ユーザー企業と開発会社の関係は今後も続く。
――システムはすでに完成し、今は運用段階ということでしょうか。
中尾氏:はい。すでにシステムは稼働し、運用のフェーズに入っています。このシステムを導入したことで、現場の状況は大きく改善されました。まずExcelファイルの山から解放されたことが大きいですが、業務に関するノウハウを広く共有できるようになったことも大きな収穫です。
ただし、システムだと画一的な処理しかできず、例外処理をどうするかという新たな課題も生じています。
松本氏:運用・保守の段階では、システムが対応していないパターンも発生します。イレギュラーな物件であっても、業務の上は対応しなければなりません。百件に一件、あるいは数百件に一件の割合で発生するようなケースをどう扱うかは大きな課題です。システムで対応するのか、現場の運用で対応するのかは敷島住宅さん次第ですが「システムで」ということであれば、そこも開発サイドで対応していくことになります。
中尾氏:物件には、たとえば、お客様に土地・建物を売る分譲もあれば、当社で抱えてお客様に賃貸でご提供する物件もあります。また、当初は賃貸で運用するけれど、何年か後には分譲するという物件もあります。法律や税制の改正などで、今後は、これまで想定していなかった処理も登場するかもしれません。神戸Cafeさんとは今後も長いお付き合いをお願い出来ればと思います。
松本氏:そうですね。当面は、運用で見つかったさまざまケースのうち、システムで対応させるものは情報をまとめ、改修フェーズで対応させていくことになります。借入金の返済についても区画が増えていて、期日も一括、半年ごと、シンジケートローンなどさまざまなケースがあり、見積もり時点ではそこまで増えるとは想定していなかったため、中尾さんに相談して「今回はここまでとさせてください」とお願いした部分もありました。そうした部分の対応も、これから対応していきます。今後ともよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
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