社会において重要でありながら、日常の中で見過ごされがちな課題に、真正面から取り組む認定NPO法人フローレンス。同団体は、日本国内のひとり親家庭や障害児を育てる家庭を支援するため、さまざまな事業を展開しています。
このたび、新規事業の立ち上げにあたり、システム開発を依頼したのが株式会社カスタメディアです。新たな事業の概要、求められるシステムの要件、そしてカスタメディアをパートナーに選定した理由について、認定NPO法人フローレンス「みんなで社会変革事業部こども冒険バンクチーム」にてシステム責任者を務める中島 亮氏と、同チームマネージャーの高森 千寿子氏にお話を伺いました。
認定NPO法人フローレンスの活動と体験格差を解消するための新事業「こども冒険バンク」とは?
―― 認定NPO法人フローレンス様は、どのような活動をしている団体ですか。
高森氏: 当団体は認定NPO法人として活動しています。日本国内にNPO法人は5万団体ほどあると言われていますが、その中で「認定」と付くのは2%程度。当団体は東京都の認定を比較的初期に取得し、その後も認定資格を更新し続けています。当社の事業は日本国内の子どもと、子育て領域にフォーカスしています。

マネージャー 高森千寿子氏
祖業は2004年、37.5度以上の熱が出た子を預かってくれる先が無いという、いわゆる「37.5度の壁」を解決するための、日本初の共済型・訪問型の病児保育事業でした。現在は、小規模保育、障害のあるお子さんの保育事業、経済的に厳しい家庭の支援、特別養子縁組サポートなど、10以上の事業を展開し、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。
事業展開だけではありません。こうした課題の根本には、ルールや制度面での不備、現状への対応の遅れなどがあることも少なくありません。そこで当団体では、政策提言など、ルールや文化を変えていく取組みも行っています。
―― 背景にある社会課題の解決にも取り組まれているのですね。
高森氏: おっしゃる通りです。
―― 今回、システム開発を発注するに至った新事業「こども冒険バンク」についても教えてください。
高森氏: 「こども冒険バンク」は、子どもたちの体験格差を解消する目的で、企業が無料で提供する体験コンテンツと、体験を臨む家庭とのマッチングを図るプラットフォーム事業として企画しました。
どうしてもひとり親家庭のお子さんや、障害のあるお子さんは、体験が少なくなりがちです。その格差を少しでも緩和したい。一方で、企業ではそうした体験を子どもたちに提供したくても、なかなか自社だけではやりきれないという悩みを抱えていらっしゃいます。そこで、この両者を結びつける仕組みを作ろうと考えました。
―― どのような体験が提供されているのですか。
高森氏: たとえば、自社工場や施設を持っている企業でしたら工場見学とか施設見学とか、動物園を運営している企業でしたら動物園のような遊興施設のチケットを提供してくださることもあります。一方で、手作りの企画を考えてくださる企業もあり、一般には提供されていないけれど、自社のオフィス見学を開催したり、ちょっとした職業体験企画のようなものを作って提供してくださったりするケースもあります。
―― 職業体験とは、どのようなものでしょうか。
高森氏: そうですね。たとえばある電力関連会社さんでは、(電柱の間に)電線を敷設する作業を疑似体験してもらうために、子どもたちに高所作業車に乗ってもらい、こんな仕事をしているのだということを知ってもらい、その後は社員の方々と一緒にお昼ご飯を食べるという、すごくアットホームな企画をご提供いただいています。
―― サイトでは飛行機の整備工場の見学や動物とのふれあい体験なども紹介されていました。今時はテレビやネット動画で見て知った気になってしまうけれど、実際に動物に触れたら温かいとか、画面には納まりきらないほど大きな空間を体験することができますね。
高森氏: はい。実際に体験して感じることが大切だと思います。
新規事業ということ、サブスク的な仕組みを採り入れたいというということで、システム開発経験豊富なカスタメディアを選んだ
―― こども冒険バンクと類似のサービスというのはあるのでしょうか。もしあるとすれば、その中でこども冒険バンクはどのような特徴がありますか。
高森氏: 体験格差という課題は最近注目度が上がってきたため、我々以外にも取り組んでいる団体はいらっしゃいます。
その中でも、1.永続的に、2.たくさんの体験が揃っていて、3.それを会員 が能動的に選べる、という3点が他のサービスと比べて、こども冒険バンクのユニークなポイントだと考えています。
「夏休み企画として100名のお子様をご招待」というような企画は他の団体もやられていますが、こども冒険バンクはマッチングプラットフォームなので、こうした企画をずっと提供し続けていく必要があります。また、今度はこれをやってみようとか、今はこういうことに興味があるからこっちをやろうとか、その時の興味関心で選べるようにしています。
―― そうしたアイデアはどこから生まれたのですか。
高森氏: 前身なる企画を2023年の夏に、ひと夏だけの体験企画として立案しました。さまざまな企業に声をかけ、約1000世帯分の体験企画を用意したのですが、数日で3倍以上の応募があり、急いで追加の体験をかき集めたということがありました。その時に感じたのは、私たちが参加者を集めて体験企画を構成して連れていくとなると、そこがボトルネックになってしまいかねず、それではサステナブルなサービスにならないだろうということでした。そこで参加者や体験企画数が増えても対応できるマッチングサービスにしようというアイデアに至りました。
―― マッチングサービスのシステムが必要になり、今回の発注に至ったということですが、すでに他の業務や事業で、お取引きのあるシステム開発会社様があったかもしれません。そうした既存の取引先に発注するという選択肢もあったのではありませんか。
高森氏: たしかに他の事業や寄付の管理などの業務では、他の開発会社さんのシステムを 利用していて 、そのように お取引のある開発会社さんもあります。
しかし、今回は新たな仕組みが必要でした。こども冒険バンクでは、毎月1日に、登録人数分の冒険チケットを発行しています。大人1人、子ども3人で登録しているご家庭には4枚のチケットが発行されます。このチケットは翌月に持ち越しはできません。ある種のサブスク的な仕組みを採用したいと考え、そういうサービスの開発経験を持つカスタメディアさんにお願いしました。
―― 世の中には数多くのシステム開発会社があります。複数の候補を比較検討したのであれば、その中からカスタメディア様を選んだ決め手はどこだったのでしょうか。

システム責任者 中島 亮氏
中島氏: 確かに複数の開発会社から提案をいただき 比較検討しました。その結果、ビジネスモデルに一番マッチした提案をもらえたのがカスタメディア様でした。提案内容も「こういうのはどうでしょう?」というように、私たちのビジョン(を良く理解した上で、それ)に寄り添ってくれたものだったことが決め手になりました。
もう一つは費用面です。他社と比べても、低予算でこちらの望むものを実現できるという点は大きかったと思います。
―― 開発中のやりとりなどで、カスタメディア様を選んで良かったと感じた部分はありましたか。
中島氏: 私は要件定義からプロジェクトに入りました。前職でもSEをしていたので、いろいろなベンダーさんともお付き合いがあったのですが、そのイメージをガラッと変えてくれました。「こんなことを言ったら無理だよね?」というようなことを、何度もお願いしたのですが、レスポンス良く回答をいただけました。この事業を何としてもローンチさせるんだ、成功させるんだという私たちの思いに寄り添っていただけたことが印象的でした。
―― 完成したサイトの見どころはどこでしょうか。
高森氏: 機能面ではないのですが、サイトのトーンをすごくワクワクするような見た目で楽しんでもらえるようにするべきだと思っていました。体験格差解消ということで、ユーザーさんに、いわゆるスティグマ(社会的に不名誉な状況)を感じさせないような、ワクワクしながら楽しく利用できるデザインをリクエストしました。実際に、そのように仕上がっていると思います。
―― 確かにロゴもポップで楽しげな感じですね。
●「こども冒険バンク」体験格差解消のため、会員家庭と企業が提供する体験企画とを結びつけるマッチングサービス。子どもたちにワクワクを感じさせるサイトデザインも見どころの一つ。
当初の想定会員数はリリース1週間で突破。会員様からも、体験提供企業様からも大きな反響。アンケートの回答を読み涙することも
―― サービスリリース後の反響などはいかがですか。
高森氏: 初月の会員数(世帯数)の目標を500世帯に設定していたのですが、2024年8月1日にローンチして、わずか1週間で突破し ました。そこから半年が経った現在では、会員数が1000世帯を超えており、体験を提供してくださった企業が27 社、これまでに累計4,360名分の体験をご家庭に届けています 。
―― 毎月、何らかの体験をしている子どもたちがいるのですね。エリアはどのようになっていますか。
高森氏: 現在、会員は43都道府県にいらっしゃいます。当団体の営業範囲が関東中心になってしまうこともあり体験企画も関東圏での開催が多く、会員の7割が関東圏です。ただ、最近では関西圏の会員も増えてきています。探究学舎さんがオンラインコンテンツをご提供くださっているので、そうしたものなら全国からご利用いただけます。
―― 参加型の体験はこれからエリアを拡大してくということですね。会員様からの声も届いていますか。
高森氏: 体験企画のたびにアンケートを回収しているので、いろいろな声に触れることができ、日々励まされています。
―― 具体的にどのような声がありますか。
高森氏: 「子どもの興味の対象が広がった」とか「新しい発見があった」というものから「こういう仕事があるんだと知り、子どもの将来の夢になった」という声もありました。子どもだけでなく、親御さんからも「自分たちはこういう風にして見守られているんだ」と実感でき「つながりを感じられる」とか「孤立していないということを感じた」という声がありました。
中島氏: アンケートを読んでいると泣いてしまうこともあります。今回の事業をやって良かったなと感じています。
高森氏: 体験を提供した企業様からも反響があります。「企画に従事した社員の意欲が高まって、エンゲージメントが高まった」といったものや「これまでCSR(企業の社会貢献)のハードルが高いと思っていたが、そんなことはなかった」「自分たちの仕事が、子どもに夢を与えられるんだ、という気づきになった」という声もありました。
カスタメディアさんでなければ無理だった! 新たな機能の追加やサーバ増強など、今後もお付き合いが続きます
―― フローレンス様の将来、こども冒険バンクの今後の展開については、どのように考えていますか。
中島氏: こども冒険バンクについては、まず、エリアの拡大をしていきたいですね。関西や九州で、体験企画をお待ちいただいている会員もいらっしゃいます。そのためにも全国の、より多くの企業様にアプローチしていければと思います。
―― 具体的にはどのような計画がありますか。
中島氏: このサービスには子どもたちのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされている状態)向上という目的があります。そこで体験 とウェルビーイングの相関などを調査し、報告していく必要があると考えています。他の団体や企業にも真似をしてもらうためには実証していくことが大事だと考えています。
また、サービスを提供するサーバ環境が500人規模を想定していたので、サーバの増強は必要ですね。現状、他のシステムと共存しているので単独の環境に移行することも考えています。いいコンテンツがあってもキャパシティオーバーによって待たされる、つながらないから使えないということは避けたいですから。
機能面では、現在、申し込み先着順で枠を押さえているのですが、働いていると募集に気づかず、気づいたときには枠が一杯になっているという声も多かったので抽選機能を追加します。今春に公開予定で、現在、カスタメディアさんに頑張ってもらっています。
高森氏: NPO団体では、できることに限界があります。しかしマッチングサービスならば、これを中心に据えて、他の団体や企業など仲間を増やしながら、レバレッジをかけて規模を大きくしていくことができるでしょう。
―― カスタメディア様とのお付き合いは今後も続きますね。今までを振り返って、カスタメディア様に発注した感想があれば教えてください。
中島氏: 実は、ローンチした時に部内では「カスタメディアさんでなければ無理だったよね」という話で持ち切りでした。開発期間中も、かなりの無理難題を伝えてきました。これが他社だったら「できません」とか「予算が倍になります」と言われたでしょう。でもカスタメディアさんからは「これはできないけれど、こうしたらどうですか」という答えがいただけました。SE経験があるからこそ、その大変さが分かります。今後とも、よろしくお願いします。