静岡県浜松市に拠点を置くWeb制作会社である株式会社ピクセル・アンド・ペーパーには、いわゆる「営業部門」がありません。同社では営業部門がないことや専任の営業担当者がいないことを弱点とは捉えずに、むしろそれを強みにして地元の新規顧客を獲得しています。どのようなことを大切に考え、どのような取り組みを実践しているのでしょうか。同社のチーフディレクターのH氏、マネージャーのS氏、ディレクターのI氏にお話を伺いました。
分社・独立にともない「営業部門を持たない」Web制作会社として再スタート
―― 2023年の設立と比較的、新しいWeb制作会社ですね。どのような経緯で設立されたのでしょうか。
H氏: ピクセル・アンド・ペーパーは、2023年に設立された静岡県浜松市に本社を置くWeb制作会社です。前身は2019年設立のWeb事業会社で、そこからクリエイティブに関する事業を分社化するかたちで現在のピクセル・アンド・ペーパーが誕生しました。
以前は、東京に営業拠点、浜松に制作部門という、いわば2拠点体制で事業を展開していましたが、分社化にともない営業拠点が別会社となりました。つまり、営業部門がなくなった状態で、制作部門だけで独立したかたちです。現在では、浜松を拠点に地元・静岡エリアから全国のお客様までを対象に、Webに関わる事業を展開しています。Webサイト制作のご相談やヒアリングの段階から、制作、実装、保守・運用までワンストップで対応しています。
―― ということは2023年時点では営業機能、営業部門がない状態だったということですね。新会社としては、厳しい状況の中でのスタートだったと思います。
H氏: はい、そうですね。営業部門がなく、しかも、営業経験者もいない状態でのスタートでした。設立したての頃は、以前からお付き合いのあったお客様からWeb制作案件をご依頼いただくことはありましたが、以前のお付き合いやその紹介、いわゆるリファラルだけでは新会社として事業を拡大していくことは難しい状況でした。
そこで、地場のお客様を新規に開拓していこうと考えました。ただ、新規の顧客開拓は非常にハードルが高いうえに、地元は地元で昔からの人と人、企業と企業とのつながりもあって、当社のような新規のWeb制作会社がすっと入っていける状態ではありませんでした。
Web制作をよく知るディレクターが、お客様のご要望に「誠実に」対応する
―― まさに逆風の中での船出ともいえますね。どう打開されたのですか?
S氏: 営業部門がない、営業経験者がいないのは確かに弱点ではあるのですが、一方で営業部門があっても、担当者がWeb制作について詳しく理解していなければ強みになるとは限りません。
当社には営業部門がないぶん、Web制作のディレクターが直接お客様とお話をすることになるのですが、そこでより良い提案、現実的な提案ができるようになりました。 実際、営業担当者だけでお客様とやり取りしてしまうと、技術的にできる・できないの判断があいまいなまま、見積りを提出して契約してしまうこともあります。そうなると、「この予算でこの機能の実装は難しい」、「この納期でここまで作り込むのはできない」といった、あとになって炎上しかねない案件を受注してしまうこともありえます。
その点、Web制作の経験のあるディレクターが、きちんとWeb制作の知識をベースにお客様と現実的にメリットのあるご提案をする、それができることが逆に営業部門のない当社の強みになりました。
お客様には、最初の段階から当社側で思いつく限りのご提案をして、費用面も納期も含めて詳細にお話をして「とにかく誠実に話し合ってご提案する」、そういった基本というか原点というか、そこに立ち戻って愚直にやっていくのが当社のスタイルになりました。
―― 実際、Web制作案件で炎上する、お客様とWeb制作会社が揉めるのは、実現できるかどうかわからないことを営業担当者が「やります」と契約してしまうことがあるからというのも聞いたことがあります。いわばWeb制作案件でのトラブルの「あるある」かもしれませんが、それをなくそうと取り組まれたのですね。
H氏: 以前は炎上案件の火消し作業もけっこうありました。火消し作業は、じつは非常に時間も手間も労力もかかり、簡単ではないことが多いのです。そのうえ、できることと言えばトラブルの解決なので、お客様にとっても当社にとってもメリットのあることではありません。
きちんと経験も知識も知見もあるディレクターがお客様とやりとりすることで、お客様も当社もよりWeb制作に集中して、より良いものを作り上げることができるようになります。それができることが、当社の強みといえると思っています。
拠点となるこの浜松で、地場のお客様に対して誠実にきちんとできることとできないことをお伝えしながらご提案し、「Webサイトをご一緒に作り上げていく」。そういう制作スタイルを打ち出すことで、じわじわかもしれませんがそれがお客様に浸透し、新規案件を獲得できていくという感覚を持っています。
Webサイトはカスタマージャーニーの中の1つの機能、その前後の機能も含めてお客様の課題解決に貢献したい
―― その成果はじわじわとでてきましたか。
H氏: はい、成果は徐々に感じています。当社は、とにかく誠実に対応することのほか、スピードも重視しています。お客様からは「以前のWeb制作会社よりも対応が早くて助かった」という声もいただいています。こうして地元の企業との信頼関係を少しずつ築いてきた結果、最近は「じつは、こういうことを考えているが相談に乗ってもらえないか」と声をかけていただくことも増えてきました。地元・静岡を中心としたつながりが徐々にできてきている実感があります。
I氏: もうひとつ、以前からお付き合いあるお客様とのつながりから、誠実に対応することの大切さを感じた出来事がありました。じつは、当社が分社・独立したとき、事情があって新会社になったことをお知らせできなかったお客様がいらっしゃったのですが、そのお客様が当社のことを検索して探し出し、「ちょっと頼みたいことがある」とご連絡をくださったのです。
お話を伺うと、少々手前味噌ですが、以前の当社の対応をご評価いただいていたからこそ、ご連絡をいただけたことがわかりました。日々誠実にお客様と関わっていくことが今後の関係性を築いていくうえでも大切なのだと感じた出来事でした。
―― これからますます地場のお客様、地元・静岡のお客様を新規に開拓していかれると思います。そこで、御社の強みをどうアピールされますか。
S氏: やはり「誠実に」というところにつながりますが、きちんとお客様のことを考えてWebサイトを制作するということだと思います。当社は他社と比較して、技術力が飛び抜けている、デザインも圧倒的に優れているなど、どこかに尖がったところがあるかというとそうとも言い切れないWeb制作会社だと思います。
そんな当社ですが、きちんと当たり前のことを丁寧に考えて実行して作ります。具体的には、Webサイトを見に来る人は、どうやってこのWebサイトを探し出し、どのページに入り、どういった動きでWebサイト内を回遊していくのか、いわゆるカスタマージャーニーマップをきちんと考えて、それをベースにお客様が目指していること、Webサイト制作の目的を実現できるようにご提案します。
Webサイトとは、じつはこのカスタマージャーニーマップを構成する、あるひとつの機能でしかないのです。Webサイトにやって来るにはGoogleで検索したり、Web広告をクリックしたりといったきっかけがあって、そこからWebサイトにきて、情報を得たりそのWebサイトで何かを購入したり、会員登録したりとアクションをして、次の工程に進んでいきます。
この一連の流れを考えると、Webサイトを作るだけではなくマーケティングの施策や、なんらかのコンバージョンを促す仕掛けの考案、その後のフォローなども必要です。つまり、お客様にしてみれば、Webサイトを作ったから目的達成ではないということ。そこをしっかりと考えてWebサイト制作だけでなく、カスタマージャーニーマップにおけるその前後の取り組みも含めてご提案を考えているところは、当社の強みと言えると思います。
H氏: お客様が気づいていない、明確には認識していない課題や問題点を洗い出すことができるのも当社の強みのひとつだと感じています。打ち合わせのときなど、当社から見て「ここは課題では」と思えることをストレートに正直にお客様にお伝えしています。その中にはお客様が気づいていなかったことや、場合によっては耳が痛いと思われることなどもあるのですが、それでも多くの場合、「言われてみれば確かにそうですね」という反応をいただきます。
お客様の言った通りのこと、お客様に言われた通りに作れば良いという考えではなく、お客様と一緒に作っていくというスタンスを当社が大切にしているからかもしれません。
また、地方にあるWeb制作会社だからこその強みもあると思っています。例えば、通勤・通学などの移動手段を考えたとき、大都市圏では電車、バスが中心ですが、地方では自家用車が当たり前です。通勤も自家用車で通う人が圧倒的に多いのです。そうなると、大都市圏の人たちのように通勤・通学時間帯にスマートフォンを見ることは、それほど多くはありません。地元の商店街がセールをするときなど、WebやSNSでセールの告知や広告を配信するよりも、地域に折り込みチラシを配布したほうが効果的ということも十分にあるのです。
S氏: 今後は、そういった地方都市ならではの事情も加味して、Webサイト制作にとどまらず、Webサイト制作をフックにしたマーケティングやセールスプロモーションもご提案していきたいと考えています。
I氏: Webサイトは制作が終わっても、それで終わりではありません。その後に、例えばさらにこういったページを作りたい、 SNSも運用したいというようにご要望やアイデアがでてくることもあると思います。そんなときに頼りたいと思える、そんな存在でありたいですね。
H氏: そうですね。Webにかかわる「便利屋さん」で良いかなと思っています。多くの人がやろうと思えばできるけど、実際にやるには時間も労力もかかるということ、例えばインスタグラムなどのSNS運用でも、なかなか自社で担当者に任せて実施するのは大変です。 そういったものを頼みたいときに最初に頭に浮かぶ「便利屋さん」、そんな存在になりたいと考えています。