「SIer(エスアイヤー)」や「受託開発」という言葉を耳にしたことがあっても、その違いや特徴を正しく説明できる人は多くありません。受注者として自社の強みや特長を明確にし、競争力を高めるためのヒントとしてご活用ください。
本記事では、SIerと受託開発の違いを分かりやすく整理し、自社開発やSESとの比較、そしてSIerが評価される理由や抱える課題、これから選ばれるSIerになるためのポイントまでを具体的に解説します。今後の発注やシステム開発のパートナー選びの参考にぜひご活用ください。
目次
新規案件開拓の課題は「発注ナビ」で解決システム開発に特化したビジネスマッチング
SIerと受託開発の違いとは
IT業界の中でも「SIer」と「受託開発」はよく耳にする言葉ですが、どちらも企業のシステム構築に欠かせない存在です。似ているようで実は役割や契約の仕組みが異なるため、両者の違いを理解することは自社の営業や提案活動に活かすことができます。ここではまず、それぞれの特徴について解説します。
●SIer=受託開発を行う企業
SIer(エスアイヤー)は、「System Integrator」の略で、企業や組織のITシステムの企画から設計・開発・導入・運用・保守まで、ワンストップで対応する事業者を指します。特にシステム開発の全工程を一括で請け負う点が特徴で、顧客の要望をしっかりヒアリングし、その課題をITで解決する最適な方法を提案します。SIerにはエンジニアだけでなく、営業や企画、プロジェクト管理、経理など幅広い専門スタッフが在籍しています。技術力だけでなく、顧客との折衝やプロジェクト全体の調整力も問われる職種です。
たとえば、次のような流れで業務が進みます。
主な工程 | 具体的な内容 |
---|---|
企画・要件定義 | 顧客の要望や課題をヒアリングし、必要なシステム像を明確にする |
基本設計・詳細設計 | 要件をもとに、システムの仕組みや機能の詳細を設計 |
実装(プログラミング) | 設計書に沿ってシステムを開発 |
テスト | 不具合や課題がないか確認し、必要に応じて修正 |
導入・運用・保守 | システムを現場で稼働させ、日常的な運用やトラブル対応まで対応する |
SIerの多くは自社でシステムを運用することは少なく、主に顧客企業のためにオーダーメイドのシステムを開発しています。SIerは、顧客に安心して任せてもらえる体制や、プロジェクト管理・品質管理のノウハウを持つことが求められます。こうした強みをアピールすることで、信頼獲得につながります。
●受託開発=契約のかたち
受託開発とは、企業や団体が自分たちのシステムやソフトウェアの開発を専門の業者(SIerなど)に委託し、成果物として納品を受ける契約形態です。最も一般的なのは「請負契約」で、発注者が要望を伝え、開発会社がそれに沿ってシステムを作り上げます。納品の品質や期限、必要な機能などは、事前に契約書でしっかりと取り決めるのが特徴です。
たとえば、請負契約の場合は以下のような内容が決められます。
-
必要な機能や品質基準
-
いつまでに完成させるかという納期
-
どんな状態で納品し、どのように検収するか
-
支払い条件(どのタイミングでいくら支払うか)
開発が終わり、納品・検収が完了した後も、システムの保守や追加開発が発生する場合は新たな契約(保守契約、追加開発契約など)を結ぶことが一般的です。受託開発は、顧客の要望に沿って作業を進めるため、開発会社の裁量は比較的限定されます。そのため、受注者としては、発注側と密にコミュニケーションを取り、仕様の認識違いが起こらないよう調整を重ねることが大切です。
自社開発やSESとの違いを知る
IT開発の形態には、SIerや受託開発のほかにも「自社開発」や「SES(システムエンジニアリングサービス)」があります。それぞれどんな違いがあるのか、ポイントを整理してみましょう。
●自社開発との違い
自社開発は、自社ブランドのサービスやシステムを自分たちで企画・開発・提供する形態です。ユーザーの声を直接聞き、サービスの改善に素早く活かせるのが特徴です。また、機能追加や方針変更なども自社の判断で決定できるため、市場の動きやトレンドに柔軟に対応しやすくなっています。
一方、SIerはクライアント企業の要望や条件に基づき開発を進めます。そのため、途中で仕様変更や新機能の追加が発生した場合も、契約やスケジュールの制約から、即座に柔軟な対応が難しい場合があります。受注者としては、開発の途中で仕様変更や新機能追加など、クライアント承認が必要な場合も多く、柔軟な対応力や調整力が重要です。
●SESとの違い
SESは、「システムエンジニアリングサービス」と呼ばれ、エンジニアや技術者を企業に派遣し、その現場でクライアントの指示に従って作業を行う契約形態です。SIerとの大きな違いは、「成果物」を納品するか、「労働力」を提供するかという点です。
SIerはシステム開発の成果物を納品する責任があり、納期や品質管理、スケジュールなども主体的にコントロールします。SESの場合は、クライアント先で実務スキルを発揮し、あくまで現場の指示に従って作業するため、全体像や企画に深く関与しにくいことがあります。
以下は、SIer・自社開発・SESの比較です。
ポイント | SIer | 自社開発 | SES |
---|---|---|---|
主な目的 | 顧客課題の解決、オーダーメイド開発 | 自社事業の成長、自社製品・サービス開発 | 技術力や労働力の提供 |
契約 | 請負契約 | 自社内開発 | 準委任契約 |
裁量・自由度 | 顧客の仕様に依存 | 自社判断で決められる | クライアント指示に従う |
必要スキル | マネジメント、要件定義など | 技術専門性、企画力 | プログラミング等の実務力 |
SIerが評価される強み
多くの企業がSIerにシステム構築を依頼するのは、SIerならではの強みがあるからです。ここでは主な評価ポイントを2つ紹介します。
●多様な業界経験と提案力
SIerは、医療・製造・物流・金融など幅広い業界で多くのシステム開発を経験しています。そのため、それぞれの業界特有のルールや業務フローに詳しく、顧客の課題を整理しやすいのが大きなメリットです。
さらに、IT導入だけでなく、業務効率化や自動化といった「業務そのものの見直し」も積極的に提案できます。顧客との初回打ち合わせから要件定義まで丁寧に関与し、気付いていなかった課題や潜在的なニーズを掘り起こし、最適なシステムを提案することも可能です。
●プロジェクトマネジメント能力
大規模なシステム開発では、多くの工程と担当者が関わるため、進捗や品質をしっかりと管理する力が重要です。SIerはチームごとの役割分担や進行管理、成果物のレビューやチェック体制まで、全体を調整するノウハウを持っています。
また、急な人員の変更や顧客からの仕様変更といった不測の事態にも柔軟に対応できるリスク管理能力も備えています。外部パートナーやベンダーとの連携を含めて全体をコントロールできる点もSIerの強みです。
現代のSIerが抱える課題
一方で、SIerには近年ならではの悩みや課題もあります。特に、技術の進歩や働き方の変化が速い現代社会では、次のような点が注目されています。
●最新技術へのキャッチアップ
SIerの多くは、大規模かつ長期のプロジェクトを多く手がけてきたため、従来型の開発手法(ウォーターフォール型)が主流です。そのため、クラウドやAIなど新しい技術や手法をすぐに取り入れにくい傾向があります。
また、プロジェクトの期間が長いと、開発開始時に選んだ技術が古くなってしまうこともあり、最新技術を現場で試す機会が限られることも課題です。エンジニアが自主的に勉強を続けるための仕組みや、社内で知識共有の機会を増やす取り組みも求められています。
一方で、発注側の顧客が新技術に詳しくない場合、提案しても理解されず導入に至らないこともあります。SIerには、最新技術の価値やメリットを分かりやすく説明し、顧客と一緒に新しいIT活用方法を探る姿勢が必要とされています。
●営業リソースの確保
SIerが安定して案件を受注し続けるには、新規顧客の開拓や営業活動が欠かせません。しかし、多くのSIerでは営業専門の人員や時間が不足しやすい傾向があります。そのため、既存の顧客や元請け企業(大手SIerなど)からの下請け案件に依存するケースが多くなっています。
このような構造では、中間業者を挟むことで利益率が下がったり、顧客ニーズを直接聞きにくくなったりします。また、案件獲得のチャンスが限られると、社内のエンジニアを十分に活かしきれない状況も発生します。
営業活動の一例をまとめると、次のようになります。
選ばれるSIerになるために
これからのSIerは、ただ開発を受託するだけでなく、独自の強みや透明性を持ち、発注者から信頼される存在になることが大切です。そのために必要な取り組みを2つご紹介します。
●自社の得意分野を明文化する
まずは、自社が強みを持つ分野や業界を整理し、それを明確に発信することが重要です。たとえば「金融機関向けシステムに強い」「医療現場のIT化に実績がある」といった具体的な得意分野を明らかにしましょう。
これまで手がけた案件の事例を使い、「どんな課題にどのように取り組み、どんな成果が得られたか」をストーリー仕立てで紹介すると、見込み顧客に自社の魅力を効果的に伝えられます。 また、社内の営業やエンジニアが同じ認識を持ち、どの現場でも一貫した提案ができるように情報共有を進めると良いでしょう。
●チーム体制の透明化
発注者が安心して任せられるSIerであるためには、どんなメンバーがプロジェクトに関わるのかを事前にきちんと説明することが大切です。主要な担当者の顔ぶれや専門スキル、経験年数、過去のプロジェクト実績などを分かりやすくまとめて伝えると、信頼感につながります。 また、どの工程で誰がどんな役割を担うのかも明確に示しましょう。 外部パートナーが関わる場合も、その担当範囲や管理体制をしっかり説明することで、プロジェクトの透明性を高めることができます。
SIerの価値を見直し、営業効率を最大化しよう
これからのSIerには、待ちの姿勢だけでなく積極的に市場や顧客とつながる「攻め」の営業活動が求められます。自社サイトや技術ブログ、ホワイトペーパーなどの情報発信を強化し、セミナーや展示会への参加を通じて新たな顧客と直接つながる機会を増やしましょう。
また、顧客の真の課題を引き出せるヒアリング力や、潜在的な課題まで見抜く提案型営業への転換も重要です。さらに、サービス設計や保守サポート体制を柔軟にし、顧客の変化に合わせて対応できる力を身につけることが、競争の激しい市場で生き残るカギとなります。こうした取り組みを進めることで、発注者から「この会社に相談したい」「このSIerなら任せられる」と選ばれる存在になれます。
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