中小IT企業にとって、受託開発は長年にわたり身近なビジネスモデルとなっています。しかし、実際には多層構造の下請け関係が続くことで、企業の成長やエンジニアの働きやすさにさまざまな問題が生じています。本記事では、多重下請け構造が生む課題を紐解き、その脱却に向けた現実的な方策を提案します。今後の経営方針や事業戦略を見直したい方は、ぜひ具体的なアクションに繋げてください。
目次
新規案件開拓の課題は「発注ナビ」で解決システム開発に特化したビジネスマッチング
多重下請け構造が抱える問題とは
多重下請け構造とは、仕事の発注が複数の会社を経由して、最終的に実作業を行う企業に届く仕組みのことです。一見効率的な分業体制のように思えるかもしれませんが、実際には利益率や働く環境に深刻な歪みをもたらしています。ここでは、主に三つの視点からその問題点を整理します。
●価格競争に巻き込まれやすい構造
多重下請け構造の最大の問題は、上流から順に中間マージンが引かれ、末端に行くほど報酬が減るという仕組みにあります。例えば、元請け企業が80万円で受けた案件が、一次、二次、三次と階層を経るごとにマージンを差し引かれ、最終的にエンジニアには40万円しか渡らない場合も珍しくありません。
このような構造は、「中間搾取」や「買いたたき」と呼ばれます。下位の企業やエンジニアは、低単価・低利益の案件をやむなく受け入れざるを得ず、厳しいコスト削減圧力にさらされます。その結果、人材育成や技術投資の余裕がなくなり、成長の機会も失われがちです。
問題点 | 具体的な内容 | 企業・エンジニアへの影響 |
---|---|---|
価格競争 | マージン搾取、低単価 | 投資余力低下、賃金停滞 |
品質責任 | 責任所在不明、伝達の歪み | 品質低下、顧客信頼失墜 |
現場負荷 | 短納期・低報酬・長時間労働 | エンジニア疲弊、人材流出、生産性低下 |
また、下請法により買いたたき行為は禁止されていますが、実態として力関係から下請けが常態し、下請け企業が泣き寝入りするケースもあります。この低マージン構造が企業経営を圧迫し、業界全体の健全な価格形成を妨げる要因になっているのです。
●品質責任が不透明になりやすい
多重下請け構造では、案件の進行中に「誰がどの部分の責任を持つのか」が曖昧になりやすく、トラブル時に責任の所在がはっきりしないことが大きなリスクとなります。指示系統が複雑化し、情報伝達が遅れたり、誤った内容が伝わったりしやすくなります。
特に、元請け企業が実質的にプロジェクトに関与しない「丸投げ」状態が発生すると、現場では十分なテストや品質検証の時間が確保できなくなり、品質の低下を招きやすくなります。情報漏洩のリスクも高まり、エンドユーザーの信頼を損なう事例も報告されています。
このような環境下では、現場のエンジニアが自らの担当範囲だけに責任を限定しがちで、プロジェクト全体を俯瞰する意識が薄れてしまいます。結果として、品質トラブルの発生時に迅速な対応が取れず、問題が拡大しやすくなります。
●現場にかかる負荷が大きい
下請けの現場では、短納期・低報酬という二重の圧力がかかるため、エンジニアの負担は非常に重くなります。プロジェクトが下層に進むほど実質的な開発期間も削られ、例えば6ヶ月のプロジェクトであっても末端企業には3ヶ月しか与えられないこともあります。
さらに、急な仕様変更や追加要望にも限られたリソースで対応しなければならず、長時間労働や休日出勤が常態化しやすい環境が生まれています。元請けと下請け間には明確な給与格差も存在し、優秀な人材ほど離職しやすくなっているのです。
特に下請けエンジニアはキャリアアップの機会も限られており、成長を実感しづらい仕事に追われがちです。こうした現場の疲弊が、人材流出や業界全体の慢性的な人手不足をさらに加速させています。
なぜ下請けを抜け出せないのか?
「もっと上流案件を受けたい」「元請けとして直接クライアントと取引したい」と考える経営者やエンジニアは多いですが、実際にはさまざまな壁が立ちはだかります。その主な理由を整理します。
●実績のなさが壁になる
直請け案件の獲得を目指す際、大きな障壁となるのが「元請けとしての実績不足」です。発注者は、過去の直請け経験や上流工程の実績を重視します。特に大規模案件や基幹システム開発では、信頼性やマネジメント力の証明が求められるため、実績がなければ有利な条件で案件を獲得しにくくなります。
また、下請け案件では自社名義での実績公開ができない場合も多く、元請け案件の新規開拓が困難になるという「鶏と卵」のジレンマも起こりやすい状況です。
●営業リソースの不足
技術力が高い企業であっても、営業活動に必要なノウハウや人材が不足していると直請け案件の獲得は難しくなります。多くの中小IT企業は元請けからの紹介や継続案件で事業が回るため、積極的な営業やマーケティングの経験が蓄積されていません。
実際、営業担当者のスキル不足や新規開拓のためのリソース不足が商談成立の妨げになるケースは少なくありません。攻めの営業を社内に根付かせることが重要ですが、そのスタート自体が大きなハードルになることもあります。
●開発以外の体制が整っていない
直請け案件の受注・遂行には、開発以外にも多くの業務体制が必要です。例えば、提案書や見積書の作成、契約書のリーガルチェック、プロジェクト全体をマネジメントするPM(プロジェクトマネージャー)の配置などが挙げられます。
下請けでは元請けがこれらの業務を担うため、経験やノウハウの蓄積が不足しがちです。直請けが増えると、請求や入金管理、経理、人事労務管理などのバックオフィス業務も煩雑化します。これらを効率的にこなす体制がなければ、直請けの比率を高めることが難しくなります。
下請け脱却に必要な3つの視点
下請け構造から脱却し、成長軌道に乗るためには、短期的な利益だけにとらわれず、長期的・戦略的な視点で事業を見直すことが欠かせません。ここでは、特に重視すべき三つの視点を紹介します。
●案件選びのポートフォリオを見直す
まず取り組みたいのが、案件ポートフォリオの戦略的見直しです。収益性の高い案件、将来の元請けにつながる案件を意識的に選び、単なる売上だけに目を奪われないようにしましょう。
ニッチ市場に特化したり、エンドクライアントと直接コミュニケーションできる案件、上流工程に関われる案件を選ぶことで、将来的な元請け経験やノウハウを蓄積できます。また、利益率の低い案件や自社成長につながらない案件は勇気を持って断る判断も大切です。
●技術力×コンサル力で付加価値を高める
下請け脱却には、「ただ作るだけ」の受動的な姿勢から、「提案できる会社」への進化が求められます。技術力だけでなく、顧客のビジネス課題を発見し、最適な解決策を提案できるコンサルティング力を磨くことがカギです。
例えば、DX推進支援やITインフラ整備、データ活用などの課題解決型サービスを提供し、顧客と長期的なパートナー関係を築くことを意識しましょう。単なる開発会社ではなく、顧客の事業成長に伴走する「DXパートナー」を目指してみてください。
●ブランディングと情報発信を強化する
どれだけ高い技術や提案力があっても、それが世の中に認知されなければ新たな案件獲得にはつながりません。自社の強みや実績を明確に言語化し、Webサイトや技術ブログ、展示会、SNSなどで積極的に発信することが不可欠です。
会社のビジョンやミッション、過去の成功事例などをわかりやすく発信し、専門家としての信頼性やブランドイメージを高めていきましょう。こうした活動がエンドクライアントとの新たな接点を生み、直請け案件へのチャンスを広げます。
脱下請けを加速させる現実的な手段
理想論だけではなく、今すぐ実践できる具体的な選択肢に目を向けましょう。自社のリソース状況に合わせた段階的な脱却策を提案します。
●少数精鋭の直請け特化チームをつくる
全事業を一気に直請けへシフトするのはリスクが大きいため、まずは社内に直請け専門の少数精鋭チームを設置する方法が現実的です。既存の受託開発を一部継続しながら、新しい直請けチームで小規模案件から実績を積み上げていきましょう。
チームには開発スキルだけでなく、営業、提案、プロジェクトマネジメントなど多様な能力を持つ人材を配置し、リーダーシップの下で目的を共有します。社内ベンチャー制度のように、既存事業と分離しつつ、社内リソースの連携も意識しましょう。
項目 | メリット | デメリット/注意点 | 対策/考慮点 |
---|---|---|---|
リスク管理 | 段階的移行、収益安定化 | 初期投資、成果の不確実性 | 小規模スタート、KPI設定 |
ノウハウ蓄積 | 直請けスキル向上、社内教育 | 既存業務とのリソース競合 | 専任化、外部研修活用 |
組織文化 | チャレンジ精神醸成、成功体験共有 | 既存部門との軋轢の可能性 | ビジョン共有、透明化 |
収益性 | 高利益率案件へのアクセス | 案件獲得の不安定さ | ターゲット明確化、営業戦略 |
●エージェントや業界マッチングサービスの活用
自社の営業力に不安がある場合、外部のエージェントや業界特化マッチングサービスを活用するのも現実的です。営業代行や案件紹介を受けることで、効率よく直請け案件を獲得できます。手数料や依存リスクもありますが、初期段階で新たな市場やターゲット層へのアクセス手段として有効です。
サービスタイプ | 主なメリット | 主なデメリット/注意点 | 重要チェック項目 |
---|---|---|---|
営業エージェント | 案件紹介、営業代行、高単価案件 | 手数料、依存リスク | 得意業界、実績、手数料率 |
業界マッチングサービス | 幅広い接点、効率的リード獲得 | 成約保証なし、成果まで時間 | 登録企業数、機能、信頼性 |
案件獲得の経験を積み重ね、自社の営業・マーケティング力を並行して強化していくことで、長期的には自立した新規開拓体制を目指すのが理想的です。
●得意領域の特化サービス化
幅広い開発案件を受けるよりも、自社の強みや経験を活かした特化サービスを打ち出すことで、価格競争を回避し、高付加価値なビジネスに成長できます。たとえば、特定の業界・技術・課題解決に絞った「専門パートナー」としてのブランディングが有効です。
過去の実績やエンジニアのスキルを分析し、「この分野ならこの会社」と指名される存在を目指しましょう。得意領域のソリューションをサービスメニューとしてパッケージ化し、Webサイトや営業資料もそれに合わせて再構成することで、引き合いが大きく変わってきます。
自立した受託企業へ向けて
下請け構造から脱却するには、いきなり大手と肩を並べる必要はありません。自社に合った「小さな一歩」から始めることが重要です。まずは市場調査や自社の強みの洗い出し、案件ポートフォリオの見直しなど、現状分析からスタートしましょう。
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