システム開発の現場では、元請けから何層にも業務が委託される「多重下請け構造」が当たり前になりつつあります。しかし、業務が細分化されるほどに責任の所在はあいまいになり、エンジニアの報酬や成長機会も得づらくなりがちです。本記事では、元請け・下請けそれぞれの役割を整理したうえで、多重下請け構造が引き起こす主な課題を解説。さらに、優秀な人材を直接確保し、発注者自身がプロジェクトに主体的に関わることで実現できる脱却のポイントをご紹介します。
目次
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「元請け」と「下請け」――まずは言葉の定義から
IT業界の多重下請け構造を読み解くためには、まず「元請け」と「下請け」という言葉をしっかり整理する必要があります。どちらの立場がどんな役割を担い、どの範囲まで責任を負うのかを理解することが、複雑な構造を解消する第一歩になります。
●元請けの役割とは?
元請け企業は、クライアントである発注者から直接開発案件を受注し、プロジェクト全体を統括する窓口を担当します。開発の大枠を設計し、要件定義や基本設計などの上流工程を策定することで、プロジェクトの方向性を決定します。そのうえで、自社だけでは対応しきれない専門的な業務や大規模案件については外部パートナーを選定し、契約を結んだうえで進捗や品質を管理します。元請けは最終的な成果物の責任を負う立場にあるため、高度な提案力やマネジメント能力が求められます。
●下請けの役割と元請けとのちがい
下請け企業は、元請けの設計書や仕様書に沿ってプログラミングや動作テスト、ドキュメント作成などの実務を担当します。クライアントとは直接やり取りせず、すべての情報は元請け経由で伝達されるため、仕様変更や要望があった場合は元請けを通じて対応します。プロジェクト全体を俯瞰する立場ではなく、与えられたタスクを着実にこなす「実行部隊」として重要な役割を果たします。
●代表的な契約形態
IT業界で多用される契約形態には主に「請負契約」と「準委任契約」の二つがあり、成果物の完成責任や報酬発生の基準、再委託の可否などで大きく異なります。契約締結前に、それぞれの特徴を正しく把握しておくことが不可欠です。
項目 | 請負契約 | 準委任契約 |
---|---|---|
目的 | 成果物の完成と納品 | 一定の業務遂行 |
受注者の義務 | 完成義務 | 適切なプロセスを遂行する義務 |
報酬発生 | 納品時 | 作業時間や成果に応じて |
納品後に不備が見つかった際の責任 (契約不適合責任) |
あり | 原則なし |
再委託の可否 | 原則可能(契約で制限される場合あり) | 原則不可(事前許諾が必要) |
多重下請け構造とは?IT業界に広がる仕組みの実態
プロジェクトの一部を別企業に委託し、その先でもさらに再委託が繰り返されることで生まれるのが「多重下請け構造」です。次の項では、その具体像と生まれた背景を探ります。
●そもそも多重下請け構造とは
多重下請け構造では、発注企業から一次請け、二次請け、三次請け…と階層的に委託が続きます。一社だけではカバーしきれない専門技術や大量の人員を短期間で確保する必要から、それぞれの工程が細分化され、ピラミッド型に企業同士の委託関係が形成されるのです。
●この構造が生まれた背景
1980年代以降、大規模システム開発の需要が急増したことで、多様なスキルを持つエンジニアを短期間に集める手段として下請け構造が活用されるようになりました。さらに日本特有の雇用慣行の中で固定費を抑えたい企業側の判断や、中小企業が大手から受注を得るルートとして機能するなど、経済的・構造的な要因が複合的に作用して今日に至ります。
多重下請け構造がもたらす主な課題
階層が深くなるほど情報伝達の遅延や情報のロス、中間マージンの累積など非効率が顕在化し、プロジェクトの品質やエンジニアの働き方に影響します。
●責任の所在が不明確になりやすい
細かな業務分担が進むと、トラブル発生時にどの階層で問題が起きたのか特定しにくくなります。また、情報は元請けを介して伝わるため、下位の企業ではクライアントの真意を正確に把握しにくく、問題解決が遅れるリスクが高まります。
●中間マージンがエンジニアの待遇を圧迫しやすい
発注予算から各社が利益と管理費を差し引くことで、末端のエンジニアに支払われる報酬は大きく目減りします。その結果、同じスキルレベルでも所属する階層によって年収に差が生じ、長時間労働や低賃金を余儀なくされる環境が常態化しやすい傾向にあります。
●エンジニアの成長機会が奪われやすい
下請けの下位層ではプログラミングやテストなど下流工程の業務に限定されるため、要件定義や基本設計といった上流工程を経験する機会が乏しくなります。視野が狭まり、キャリアの幅を広げにくい状況は、個人の成長だけでなく業界全体の技術力向上をも阻害します。
●再委託ルールの形骸化しやすい
契約上は再委託を制限していても、実際のプロジェクトでは規模や納期の都合から黙認されるケースが散見されます。契約と実態の乖離は、取引慣行への不信感や紛争リスクを高め、構造的な問題を温存してしまう悪循環を生んでいます。
多重下請け構造を維持する企業のリスク
短期的にはコスト調整や人員確保の手段となっても、長期的には人材流出やプロジェクト品質の低下といった大きなリスクを抱え込むことになります。
●人材流出と採用難による将来的な人員不足
待遇や成長機会を求める優秀なエンジニアは、直接契約や上流企業へ転職する傾向が強まります。下請け企業は離職率が高く、育成コストが無駄になりやすいため、定着・継続的な技術承継が困難になります。
●プロジェクト品質の悪化と炎上リスク
情報伝達の遅れや担当範囲の曖昧さは手戻りや納期遅延を招きやすく、経験不足の人材が担当することで成果物の品質にばらつきが生じます。長期的にはセキュリティ脆弱性や技術的負債を増大させ、企業評価にも悪影響を及ぼしかねません。
多重下請け構造脱却の鍵は「人材の確保」と「主体性の取り戻し」
構造を変えるためには、優秀な人材を直接契約で確保すると同時に、発注側もプロジェクトへの関与を強める意識改革が必要です。
●上流工程に携われるエンジニアとの直接契約
企業としては要件定義や基本設計といった上流工程を担当できる人材と直接契約を結ぶことで、中間マージンを排除して報酬を適正化でき、優秀な人材を長期的に確保しやすくなります。フリーランスや業務委託といった多様な働き方を柔軟に活用することも有効です。
●発注者側の「丸投げ体質」の見直し
発注者自身がシステムの目的や経営課題を深く理解し、要件定義からレビューまで主体的に関与することで、開発会社は単なる下請けではなく「パートナー」として連携が強化され、品質向上や納期順守にもつながります。
構造改革の第一歩は「今の体制を疑う」こと
自社がどの階層に位置し、どこからどこまで再委託されているのかを可視化し、ムダなマージンや情報ロスの原因を洗い出しましょう。受注社側としては、1次請け案件を受注したり、多重下請けにならないような受注の仕方、発注元との交渉が必要です。小規模案件で経験を積みながら、「なぜこの構造が必要なのか」を常に問い直す姿勢が、真の変革を実現する出発点となります。
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