システムソフトウェアの開発は一般に、業務分析→システム提案→要件定義→基本設計→詳細設計→製造(コーディング)→テストというプロセスを踏みます。このうち基本設計までが上流工程、製造以降を下流工程と呼びます。多くの場合、開発会社がこれらの開発プロセスをすべて一貫して行いますが、たとえば情報システム部門が社内にあるユーザー企業ならば、要件定義までは自社内で行い、それ以降を開発会社に発注するというケースもあります。また、一部のITコンサル系企業では、ユーザー企業から上流工程までを受注し、下流工程以降は別の会社に任せるというケースもあります。
そのような中、システム開発のみならず多様なITサービスを提供するALION株式会社が、上流工程の月額制サブスクサービスの提供を開始しました。同サービスについて、代表取締役の邱 世偉氏にお話を伺いました。
月額10万円で業務分析、要件定義、設計までの上流工程をしっかり行う新サービスで、見積額と実際の費用の乖離を抑止!
――― 御社では、どのようなビジネスを展開されていらっしゃるのでしょうか。
ALION 邱氏: 当社は、お客様から依頼を受けた各種の業務システムやWebサービス、アプリの開発を手掛けるほか、自社サービスとしてSaaSによる「バーチャルオフィス」の運営も行っています。システムの開発では大阪と台湾に拠点を構え、お客様のご要望や開発規模などに応じて、オフショア開発なども行います。また、ユニークな取り組みとしては「開発のサブスク」という、月額性で開発力をご提供するメニューもご用意しています。
―― 今回新たにスタートしたサービスについて教えてください。
邱氏: 中小企業向けに、システム開発のアイデア段階から上流工程の設計をサポートするサブスクリプションサービスを新たに提供開始しました。月額10万円で、お客様が求めるシステムの適切なITコンサルティングと明確な設計書の作成を提供します。ちょうど「開発のサブスク」の前工程に当たる上流工程をサポートするかたちになります。
―― なぜ、このようなサービスの提供に至ったのでしょうか。
邱氏: 企業がシステム導入に失敗した例として、よく耳にするのが次のようなケースです。
- 出来がったシステムが思っていたのと違っていた
- 開発費が当初の見積を大幅に超えて後からもめた
- 納期が遅れて予定の導入時期に間に合わなかった
こうした失敗は、事前に現場業務や業務上の課題をうまく伝えられていない、見落としていた作業工程が後から見つかってしまう、あるいは、当初は必要ないと判断した機能を後から追加したくなったなどが原因で、いずれも当初の要件定義にしっかりと時間をかけておけば、未然に防げるケースがほとんどです。
当社のサブスクプランは、このような不透明な費用負担を解消し、開発の下流工程へスムーズに移行できるよう明確な設計書を提供します。設計書をしっかり作り込むことでスケジュールも明確になり、納期遅れも発生しにくくなるほか、補助金申請などの手続きも迅速に進めるなど、さまざまなメリットが享受できます。
設計段階を軽視すると、後から機能を追加したくなり、見積と実際の開発費の乖離が大きくなってしまう
―― 実際に設計を見積と開発費用の乖離が大きくなることはあるのでしょうか。
邱氏: 設計の段階を軽視している場合、そうしたことは珍しくありません。
設計段階を軽視すると、後から機能を追加したくなり、見積もりと実際の開発費の乖離が大きくなってしまうということは、車を買う際の例えで説明できます。
あなたが自動車メーカーに行って新しい車を購入しようとしているとします。最初に、自分のニーズや予算に合った車種を選びます。これが設計段階に相当します。その後、営業担当者と話し合って、標準装備やオプションを選択し、見積もりをもらいます。しかし、見積もりを受けても、最初には気にしていなかった特定の機能が後から欲しくなることがあります。
例えば、最初はナビゲーションシステムを搭載しないと決めていたかもしれませんが、後で必要になって追加したいと思うかもしれません。その結果、本来の見積もりよりも追加料金がかかり、最終的な車の価格が予算を超えてしまうことがあります。設計段階で機能やオプションを十分に検討せず、後から追加したり変更したりすることで、開発費用の乖離が生じ、予期せぬ追加費用が発生することになります。
このように、設計段階での機能や要件の十分な検討がなされないと、後からの変更や追加が必要になり、それに伴う費用の増加が生じることがあります。こうしたことは、本来なら、あらかじめ設計段階で詰めておくべきなのです。
当社は、バーチャルオフィスなど自社でサービスを運営しているため、サービス運営ノウハウを豊富に蓄積しているほか、サービス利用者からの声も直接耳にしています。そのため、新たなサービスの仕様を策定する際も、実運用まで見据えた、多角的な視点に基づくご提案が可能です。後から必要になりそうなことを先回りしてご提案できるのは当社の強みだと考えています。
失敗の理由はオフショアだからではない。オフショア開発に不安を感じていらっしゃるお客様にもお勧め!
―― 同サービスの利用はオフショア開発にも効果があると聞きました。
邱氏: 近年は少なくなったものの、まだまだオフショア開発について抵抗を感じられているお客様もいらっしゃいます。中には「オフショア開発NG」と明確に表明されて発注されるお客様もいらっしゃいます。
しかし開発コストを抑制する方法としてオフショア開発は無視できません。また、日本では少子化が進んでおり、次第にエンジニアの数を確保していくことが難しくなることが予測されます。ソフトウェア開発に限ったことではありませんが、コストを考えた場合、今後は海外での製造という選択肢を避けて通ることが難しくなっていくのではないでしょうか。
当社も台湾でのオフショア開発を手掛けていますが、現在、台湾でも人手不足が起きており、大規模な開発などでは、インドの開発会社と契約しています。将来的には、複数の海外拠点におけるオフショア開発も珍しくなくなるかもしれません。
それでもオフショアを敬遠されるのは、先に挙げた失敗の理由が「オフショアだったから」という文脈で語られることが少なくないからではないでしょうか。
―― 失敗の理由はオフショアではない。
邱氏: もちろんオフショアだから失敗したというケースも多少はあるかもしれませんが、品質については、開発が国内か海外かということより、きちんと設計されているかどうかが重要です。
システムソフトウェアの品質は、動作の安定性、UI/UX等の操作性、情報セキュリティに関する安全性をはじめ、さまざまな評価基準がありますが、いずれも設計をしっかり行っていれば品質面はクリアできます。
そして設計より後の、いわゆる製造工程では、設計書に従ってプログラムを実装していくため、国内と海外でそれほど大きな差は生じません。
それでもなおオフショア開発に不安を感じる方がいらっしゃるのは、おそらく言語や文化の違いから生じるコミュニケーションのハードルを不安視されているのではないでしょうか。「こちらの要望が相手にきちんと伝わっているだろうか」というものです。
それならば、自社内で要件定義や設計の部分をしっかり時間をかけて行うことで、そうした不安を払拭できるかもしれません。実際、社内に情報システム(情シス)部門を持つ大手企業では、そうしています。社内で要件定義を行い、それ以降を外部の開発会社に発注するというやり方は珍しくありません。
しかし、情シス部門を持たない中小企業ではそのような手法がとれません。
当社がご提供するサブスク型の要件定義サービスは、そうした情シス部門を持たないお客様にも最適な選択肢になるものと考えています。
―― なるほど。設計をしっかり行っておけばオフショア開発でも、必要以上に不安になる必要はなさそうです。
邱氏: はい。一般的にシステム開発の工程では、製造したものが、設計通りかどうかを検証するテスト工程があります。このテスト項目も、設計段階の仕様に基づいて作成されるため、やはり設計の良し悪しが問われます。
ですから発注企業側としては、自社の業務や、業務上の課題を漏れなくSE(システムエンジニア)に伝えることが重要になります。
週1回のミーティングを通じて仕様を詰め、設計書を作成。設計が固まれば製造工程の発注先選びも幅が広がる!
―― 今回のサービスを利用すると、具体的にどのような感じになるのでしょうか。
邱氏: はい。当社のサブスク型の要件定義作成サービスでは、当社のSEがお客様企業の情シス担当者として動き、週1回のペースでミーティングを実施します。
そうして業務フローを把握し、現場課題をヒアリングしながら、システム要件に落とし込み、ソフトウェアの仕様を作成していきます。時間をかけて、コミュニケーションを密にとりながら、しっかりと作り込んでいくので、納得がいくまで仕様を詰めることができます。
内容も、システムソフトウェアの設計、サーバー等のシステムインフラの設計、Figma等によるサイトマップの設計など、多様なニーズにお応えしています。
設計書が出来上がれば、その後の製造工程以降については、当社にご依頼いただければそれに越したことはありませんが、もちろん他社に発注していただいても構いません。
設計書を基に、製造の見積をとれば開発費用との大きな乖離もなく、納期遅れも抑止できますので、発注先の選択肢が大きく広がるはずです。
―― このサービスを利用した場合のシステム開発予算はどのようになりますでしょうか。
邱氏: 上流工程が月額10万円なのでかかった月数分、それと開発費用は開発するシステムの規模や開発にかかる工数により異なりますが、設計書が確定した上で見積をとるので確度の高いものになるでしょう。また、忘れてはならないのが導入後の運用にかかる費用です。こちらはケースバイケースですが、一般に開発費の10~20%というのが相場です。
―― とてもわかりやすいですね。最後に、お客様に向けたメッセージがあればお願いします。
邱氏: 情シス部門がなくて困っているお客様、システム導入を失敗したくないお客様は、明確な予算があり、何としてもそこに収めたいというお客様は、ぜひ当社がご提供するサブスクによる要件定義サービスをご検討ください。
―― ありがとうございました。
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