官公庁や政府機関、自治体などでは外部に発注する際に、公開入札を行うのが一般的だ。しかし、特殊な事案では応札業者が集まらず、発注できないというケースもある。
医薬品や食品の安全性を研究する国の研究機関である国立医薬品食品衛生研究所は、機械学習を使ったプログラム開発のために発注ナビを利用した。
高度で複雑な開発をする案件だったため、応札してくれそうな開発会社探しが難航しそうな中、発注ナビで対応可能な開発会社を探すことで、短期間に応札してくれる発注先が見つかったという。
発注ナビからご紹介した株式会社pluszeroは、AI分野の開発を得意とし、機械学習から深層学習(ディープラーニング)まで手掛ける技術集団だ。
国立医薬品食品衛生研究所のどのような課題があり、発注ナビの利用でどう解決されていったのか、同研究所の近藤一成氏にお話を伺った。
医療品や食品の安全性を研究し、国民の健康と生活環境の維持・向上に貢献する機関
――国立医薬品食品衛生研究所様はどのような機関でしょうか。
近藤氏:医薬品や食品のほか、生活環境中に存在する多くの化学物質について、その品質、安全性および有効性を正しく評価するための試験・研究や調査を行っています。それらの成果は、主に厚生行政に反映され、国民の健康と生活環境を維持・向上させることに役立っています。私たちの業務は、すべて国民生活に密接に関係していて、その成果は国民生活に還元されています。
――身近な例で言うと、どのような調査・研究をされているのでしょうか。
近藤氏:たとえば遺伝子由来食品の安全性ですね。食物アレルギーのアレルゲンに関する研究などがそれに当たりますが、現在、遺伝子組み換え作物などが新規に開発されている中で、そうした作物のたんぱく質のアレルゲンをどう評価していくか、といったものがテーマです。
研究で使っていたツールを広く一般にも使ってもらうため改良+新規開発の必要があった
――今回、どのような課題があり、発注ナビのご利用に至ったのでしょうか。
近藤氏:当研究所が3年間にわたり大学と共同研究しながら開発した機械学習を用いたアレルゲン性予測ツールがあり、これを世の中のユーザーに使ってもらうために、プログラムの最適化や使い勝手の向上、将来のメンテナンス性を考慮した改良、さらには機械学習の判定法の追加を依頼したい、というものでした。
――そのままでは世の中のユーザーに使ってもらえなかったのでしょうか。
近藤氏:研究に使用しているだけだったので、プログラムはコマンドラインベースでした。出力も単に数値を表示するだけで、一緒に作った人たちはその数値が何を意味するかが分かるのですが、いきなり使った人はコマンドにどんな引数を指定すれば良いのか、表示された数値が何であるかが分かりません。食品メーカーなどに広く使ってもらうことを想定していたのですが、そのためにはUI/UXの部分を大幅に改善する必要がありました。
――コマンドラインプログラムにUIのラッパーを被せるというレベルではなく、もっと使いやすくしたいということですね。
近藤氏:そうですね。結果の数値をどうビジュアル化するかというのも課題でした。また、1つの評価アプローチだけなく、もう少し試して精度を高めることもやりたいと考えていましたので、機械学習部分の新たな追加開発も発生します。研究に使うツールは作っていましたが、一般の人たちにも使いやすく改修した上で、さらに精度を高めるために設計し直す必要があると考えました。
――開発先探しに発注ナビを選ばれたのは、どういう経緯だったのでしょうか。
近藤氏:今回の発注先に求められる要件が高度かつ複雑で、公開入札をしてもなかなか応札業者が現れません。対応できそうな開発会社さんに入札していただこうにも、1社1社開発会社さんを探して、条件に合う開発会社を見つける時間的な余裕がありませんでした。そのような時に、ネット上でたまたま発注ナビの存在を知り、使ってみようということになりました。
高度で複雑な案件ながら、発注ナビのヒアリング後すぐに心強い発注先と出会えた
――発注ナビにご依頼された内容には、いくつかポイントとなる条件がありました。
近藤氏:PythonとC言語による開発ができ、機械学習分野にも精通していること。それから成果を公開することが前提で、ソースコードについてもGitHub+Dockerで公開するという前提条件を付けさせていただきました。また、国の研究機関からの発注なので、規定に沿って、入札に参加していただくことも条件に加えさせていただいています。高度で複雑な内容でしたが、発注ナビの担当者がきちんとヒアリングしてくれたので、紹介された会社に齟齬はありませんでした。
――発注ナビから複数ご紹介させていただきました。
近藤氏:はい。条件に合致する企業がすぐに見つかったことに驚きました。紹介いただいた開発会社とメールでやりとりをさせていただくうちに、だんだんと一社に絞り込まれていきました。
――結果としてpluszero様が残ったということですね。
近藤氏:はい。しかしpluszeroさんに出会えたことは大きかったと思います。pluszeroさんとは、今回のプロジェクトができるかどうかミーティングをさせていただきました。機械学習に強く、よく把握していることが確認できたので、共同研究のプログラムをお渡しして実際に可能かどうかを判断してもらったところ、「可能」という返事をいただきました。一社ずつ探していたら、これほど心強い開発先が見つかったかどうか分かりません。発注ナビを使ったのは正解だったと思います。
開発はスムーズに進んだ。予測結果が良くない部分に深層学習を使うといった試みも
――入札を経てpluszero様に発注の運びとなったわけですが、開発中で苦心したところなどはありましたか。
近藤氏:当研究所はバイオが専門、pluszeroさんはITが専門ということで、認識のすり合わせに時間がかかることが何度かありました。作った後にいろいろ試したいので、パラメータを変えられるようにしていただきましたが、「このパラメータが」と言われても、どのパラメータが何なのかこちらが分からずにいると、丁寧にかみ砕いて説明してくださいました。
――開発プロジェクトの進行はいかがでしたか。
近藤氏:毎回、ミーティング前に説明資料を送ってくれたので、とてもスムーズでした。ビジュアルなども、こうしてはどうかという提案がされていて、あらかじめ検討しておき、ここは弊社の考えはこうですと言えるのは良かったと思います。スケジュールについても、開発に時間がかかる部分はありましたが、全体のスケジュールは変わらず、当初の予定よりも遅れることはありませんでした。
――新しい試みもあったそうですね。
近藤氏:はい。機械学習による結果の数値を見て、ピーナッツアレルギーの予測数値が良くありませんでした。いくつかのアプローチを追加で組み込んでいただいたのですが、そこだけは改善できませんでした。そこで深層学習を使ってみようということになりました。これはpluszeroさんだからこそ実現した試みだと思います。
ただし、深層学習には課題もあります。それまでは機械学習で、結果の理由(つまり、判断過程)が分かるカタチで作ってきました。どこに着目するかという判断基準が明確だったのです。しかし深層学習では、機械側が独自の視点で独自の判断基準を持つため、その結果がどう導き出されているのかが分かりません。現状、深層学習と機械学習を併行してツールに乗せていますが、判断基準をどう検証するかは今後の課題です。
――開発成果はすでに公開されたのですか。
近藤氏:実はまだです。深層学習のプログラムを動かすには多大な計算が必要なのですが、研究所内で利用できるコンピュータリソースでは処理能力が足りておらず、新たなワークステーションを導入して、そちらで検証してからということになります。現在、導入のための申請書を提出している段階です。
発注先紹介後も、発注ナビの担当者が、商談やプロジェクトの進捗を気にしてくれるので安心感があった
――発注ナビを使ってみた感想はいかがだったでしょうか。
近藤氏:申し込みから紹介されるまでの流れもスムーズで、特に難しいことはありませんでした。発注先を紹介された後も、発注ナビの担当者が進捗を気にしてくれて、何度か連絡をくださいました。「どこまで進みましたか」「お困りのことはありませんか」と、必ず聞いてもらえるので、気にしてもらえているという安心感がありました。
――pluszero様とは今後もお付き合いが続きそうですか。
近藤氏:今回のプログラムも、本当は、Web上で利用できるようにすれば理想的なのですが、その場合はセキュリティが大きな課題になります。また新しいテーマとしては、当研究所のホームページにアレルゲンデータベースがあるのですが、Excel形式のファイルにまとめたものを置いているのですが、これをデータ比較や検索などもっとユーザーに利用しやすいカタチで提供できれば、というのはあります。
また現在、キノコ等の自然毒のデータベースも作成しているのですが、こちらも同様です。海外の大学や研究機関では、Web上で研究結果やデータベースをインタラクティブな手法を用いてとても見やすいカタチで公開しています。可能であれば、そうしたこともしていきたいですね。pluszeroさんはJavascriptにも精通していらっしゃるので、Web展開などでもお願いできれば心強いですね。ただし、その都度、入札に応じて、落札していただく必要があります。
――ありがとうございました。
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