最初から発注するシステムのイメージが細部まで固まっているというケースは、それほど多くはない。むしろ、やりたいことは明確だがどう実現すれば良いのか分からないというケースの方が、圧倒的に多いだろう。株式会社サーベイリサーチセンターの報告書作成システムも、当初はフワっとしたイメージの、明確な仕様や要件が固まっていないものだった。しかし発注ナビを通じて、伴走型の開発を得意とする株式会社Border Zと出会い、打ち合わせを繰り返すうちに仕様が固まり、具体的なシステムを作り上げることに成功した。
今回は報告書作成システムの開発を発注した株式会社サーベイリサーチセンターの岩崎氏、木田氏、そして開発を担当した株式会社Border Zの石岡氏の3名に、その開発プロセスについて詳しくお話を伺った。
属人化していた自治体や官公庁向けの複雑な調査報告書の作成をシステム化したい!
――サーベイリサーチセンター様は普段どのようなビジネスを展開されているのでしょうか。
株式会社サーベイリサーチセンター 岩崎氏:当社は、来年2025年で50周年を迎えるリサーチ会社です。業界の中でもやや特殊で、民間のマーケティングリサーチも行いますが、官公庁・自治体向けの業務比率がとても高いという特徴があります。また、全国に拠点を展開していることも業界では珍しいかもしれません。
当社のリサーチ分野は、世論・計画分野、都市・交通分野、マーケティングリサーチ分野の3つの柱から構成されており、世論・計画分野は主に官公庁・自治体がクライアントになります。自治体には根拠法に沿って見直しが必要な行政計画のための調査があり、その周期が重なる年度には、多くの住民調査、企業・事業所などへの調査やその結果を分析した報告書の作成が必要になります。
こうした官公庁向けの仕事では、集計には汎用のアンケート集計システムを利用します。集計結果からグラフを作成し、分析コメントを付記するのですが、最終的な納品形式は仕様書記載の要望に従ってWordの文書ファイルにするのが一般的です。集計データを使用してグラフ化するテンプレートと、報告書そのものの様式のテンプレートがそれぞれあるのですが、図の貼り付け自体は手作業で行っているため、修正や調整を含めた作業は完全に属人化していました。
自治体からの報告書の仕事は幅広い分野にわたっているのですが、いずれの場合も仕様書には書いていない細かな要求事項が多く、手作業から離れられないため、自治体・官公庁向けの報告書作成は労働集約的な作業となっています。これをシステム化し、精度の向上と業務の効率化を図りたいというのが、今回発注に至った背景です。
数ページのマニュアルを読み1回使えば覚えられる、誰もが使いやすいシステムを導入したい!
――今回、発注ナビをご利用いただくに至った経緯を教えてください。
岩崎氏:報告書作成の作業をシステム化できないかというのは、社内でも課題として認識されていました。実際に、グラフの作成やそれを貼り付けるバッチを作成して利用しているという拠点もありました。そのような折、名古屋事務所の木田から「業務を効率化するシステムを所属事務所の中で予算化して作りたい」という申し出がありました。2022年のことだったと思います。
ちょうど法定計画の周期的な見直しが重なっており、報告書作成のシステム化は全社的な課題でもありました。そこで、「まずは社内にあるツールを試してほしい、その上で開発するのであれば全社で使えるシステムを手掛けてほしい」と伝えました。
株式会社サーベイリサーチセンター 木田氏:その通達を受けて、私の方で各事務所が使っているツールを取り寄せて試してみたのですが、現場の人間がExcelのマクロで組んだものが多く、大半は使い方が複雑でマニュアルも分厚く、使いこなせるようになるまでにかなりの時間を要するものばかりでした。
私が考えるシステムは、『分かりやすくまとめられたマニュアルを読んで、1回試してみれば誰もが使えるようになる』というような、運用へのハードルが低いものでした。そこで、そんなシステムの開発をどこかに依頼しようということになりました。
――それまで、名古屋事務所では何らかのソフトウェアを外部に発注したことはなかったのでしょうか。
木田氏:ツールを外部に発注した経験はありませんでしたので、ネットで開発先を探すことにしました。とはいえ、『グラフを作成して報告書を作成する業務』をシステム化できるのかどうかも、よく分かっていませんでした。
いろいろ調べていくと、『発注ナビ』というサービスがあることが分かりました。ざっくりと「こういうものが作りたい」と入力して申し込んだのですが、私たちの求めるものが果たして実現できるものなのかどうか、実際に開発会社を紹介してもらうまでの間は、とても不安でした。
日本とベトナムに優秀なエンジニアを配置。伴走型の開発で高品質なオフショア開発を実現する株式会社Border Z
――Border Z様は、普段どのような開発をされているのでしょうか。
株式会社Border Z 石岡氏:当社は2020年に設立された会社で、日本側に5名のスタッフ、ベトナム側に16名程度のスタッフを置き、いわゆるオフショア開発で日本のお客様向けにソフトウェアの受託開発を行っています。要件定義や設計を日本側で、製造やテストをベトナム側で行い、最終的な受け入れテストを再度日本側で行うことで、高い品質を保ったまま、素早い納品やコストの削減を可能にしています。
日本側にはDeNA出身のメンバーを含め、経験豊富なエンジニアが揃っています。ベトナム側も現地で優秀なエンジニアを揃えており、さらに現地で育成も行っていますのでソフトウェアを実装する技術も高いレベルにあります。
当社の得意分野はWebシステムの開発です。フロントエンドからバックエンドまでトータルに開発できるのが強みといえるでしょう。新規サービスの立ち上げや、お客様の課題に対する解決策の模索、DX推進の支援など、お客様と一丸となり、仕様を固めながら開発を進めていく伴走型の開発も得意としています。
――発注ナビに寄せられる案件の中では、どのような案件にエントリーされているのでしょうか。
石岡氏:作るものが決まっている案件には、あまりエントリーしていません。『やりたいことは決まっているが、それをどう実現するかは決まっていない』というケースや、『バックグランドはハッキリしているが、具体的にどのようなシステムで解決するかはイメージできていない』というケースには積極的にエントリーするようにしています。
お客様といろいろ相談しながら、豊かな発想で開発を進められそうな案件、一緒になって開発を進めていけそうな案件を中心に選んでいます。
要件を満たした提案と、早い段階でのプロトタイプを使ったデモが発注先選定の決め手に!
――発注ナビから5社ほどご紹介させていただきました。そこからBorder Z様を選ばれた決め手はどこにあったのでしょうか。
木田氏:はじめに、ご紹介いただいた会社全てとオンラインでお話をさせていただきました。その際、報告書のサンプルを作って共有し、白黒で印刷しても判断できることなど、こちらの要望をお伝えしています。
その結果、グラフをExcelで作成しWordで提出するという条件を満たした提案をくださったのは、Border Zさんを含めた2社で、しかもBorder Zさんは3回目の打ち合わせの時にデモを作ってきてくれました。この対応の速さが決め手となり、Border Zさんへ依頼することにしました。実際に動くものを見せてもらった時のインパクトは大きかったですね。
――Border Z様では、そうしたデモ用のプロトタイプを作るのは慣れていらっしゃるのでしょうか。
石岡氏:やりたいことがフワっとしているお客様が多いので、具体的にどのような形で実現していくのかは、デモ版を作りながらイメージを詰めていくことが多いですね。そのため当社も早めの段階でプロトタイプを作成し、デモンストレーションを行うように心掛けています。
伴走型開発の本領発揮。週1回のミーティングが仕様の決定にも大いに役立った
――イメージを詰めていく過程は、実際にどのようなものだったのでしょうか。
木田氏:最初はグラフ作成を含めて完全に自動化し、ボタン一つで報告書の作成まで行えるようなシステムを考えていたのですが、途中で考えが変わり、「この設問はこのグラフで」というようにユーザーが決められるシステムを作ろうという話になりました。Border Zさんとは週1回の定期的なミーティングを行いながら最終的な仕様を詰めていきましたが、これがとても役立ちました。
名古屋事務所内においても『人によって報告書の作り方が違う』というのはかなり多く、ある週のミーティング結果を社内に伝えると「自分はコメントをこう書きたい」など、さまざまな意見が出てきました。事務所内では、これらを翌週のミーティングで検討していくということを繰り返し、そのおかげで事務所内の意見をまとめることができました。
今回は実装を見送った機能もありましたが、最終的にはみんながこれで満足という形に持っていくことができました。
岩崎氏:今回のシステムについては、名古屋発で全社展開をしたいと考えています。それもあり、Border Zさんとの週1回のミーティングはとても助かりました。今回のシステムがほかの事務所でも運用可能かどうかを確かめるため、毎週のミーティング結果をフィードバックしてもらい、別事務所でも検証することができました。
限られた開発期間との戦いの中で、要望を広く受け止め、そこから何を優先するべきか提案してくれたのもありがたかった
――開発上で苦心したところがあれば教えてください。
石岡氏:技術的に難しいところはありませんでした。むしろ、報告書の仕様をシステムに落とし込むところでいくつかポイントがありました。
たとえばグラフの細かい点について、この文字は左寄せ、ここは点線でなければならないなどの細かなルールが多く、その実装には苦心したかもしれません。今回は日本側でヒアリングを行いベトナム側で実装したのですが、向こうのエンジニアにとっては「なぜ、ここは左寄せなのだろう?」という思いがあったのではないでしょうか。
今回の開発は、限られた開発期間と実装の優先度の戦いでした。これらを解決できたのも、やはり週1回のミーティングの効果が大きいですね。実際にミーティングにおいて「これは難しいから、まずはこちらの優先度を上げませんか」というやりとりもありました。
木田氏:そうですね。3か月という短い開発期間で実現できることは限られていたので「これは時間がかかるので次で実現しましょう」と、先送りした仕様もあります。年度末の繁忙期に使えることが最優先なので、Border Zさんからのそうしたご提案も助かりました。
――Border Z様に発注されて、いかがでしたか。
木田氏:こちらの要望を検討していただき「これはできる」「これはこのままではなく、こうすれば実現できる」という説明を丁寧にしてくれたのは、とてもありがたかったです。
また、事前に整理することなく思うままに出したにもかかわらず、Border Zさんがこちらの要望をきちんとリスト化してくださったのですが、これがとても的確で助かりました。本来なら、私たちの側である程度仕様を検討し、整理してお伝えするのが筋だったと思うのですが、Border Zさんは全て受け止めてくださいまして、信頼感が一気に高まりました。
石岡氏:どういう仕様を実現するのかを判断するのは、プロダクトオーナーであるサーベイリサーチセンターさんです。当社のリスト出しはあくまでも決断のための資料であり、それをサポートする作業は当たり前のこと。特別なことではありません。
納品後も次回の改修に向けて意見を集約中。これからも伴走しながら開発していく両社の関係は続く
――今後も開発が続くとお聞きしました。
岩崎氏:すでに一度納品していただきましたが、次回改修に向けて動いています。
自治体・官公庁向けの仕事は年度末に向かって秋から繁忙期に差し掛かります。次の改修に向けて動いてはいるのですが、事務所によって抱えているプロジェクトが異なるため、段階的に全拠点に展開していければと考えました。まずは、まだ試せていない事務所で集めた意見を次の改修に反映できればと考えています。
石岡氏:当社としても、今回、開発期間の都合で実現し切れなかった部分を次回には実装していきたいと考えています。新たな意見もうかがいながら、伴走型で開発していきたいですね。
――Border Z様の得意とする開発スタイルということですね。
石岡氏:お客様のビジネスパートナーとして、一緒になってDX推進をしていくというのは当社の得意なスタイルです。開発期間や予算が潤沢ならば、一気に作り上げることも可能ですが、こうして少しずつ検証しながら、理想のイメージに仕上げていくというスタイルの方が、当社には合っていると思います。
――最後に発注ナビを利用した感想はいかがでしたでしょうか。
木田氏:どういうシステムにするか明確に定まっていない段階でも受け付けてくれる発注ナビの姿勢は、発注未経験の私たちにとって、とてもありがたいなと感じました。発注ナビの担当者が、私たちのやりたいことを詳しく聞き取ってくれたのも心強かったですね。発注先の選定や、プロジェクトが進行し始めた後も連絡をくれるのは、信頼が置けると感じました。
――ありがとうございました。
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