技術力では負けてはいない、実績もある、それなのに『なぜか成約できない』。そう悩むシステム開発会社は多いだろう。発注ナビの加盟企業である株式会社Undershaftは、『さまざまな工夫』で成約率アップを実現している。どんなことをしているのか。同社取締役の伊藤 一記氏に伺ったノウハウを3回連載でお届けする。第1回は、『最初のメールを送るときから初回ミーティングまで』の間の成約率を高めるTipsだ。
<本連載の話者紹介>
株式会社Undershaft 取締役 伊藤一記氏
大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社。
大手電機メーカーや保険会社を対象に、組織開発やIT戦略のプロジェクトに従事。中⻑期的な成⻑戦略に基づいたIT組織立ち上げや内製化をテーマに、アジャイル開発や、組織変革を支援。
2020年 株式会社Undershaftを設立し、現取締役。
製造業・リース業をクライアントに、大型業務システムや新規サービスの、戦略定義・要件定義・開発・ 運用から内製化までを一気通貫で支援。
とにかく素早くメールを返し発注者の受信ボックスに『自社名を残す』
成約率をいかにして高めるか。まず重要となるのは、最初のメールは『即レス』で返すことだ。
システム開発会社が新規顧客(発注者)と接点を持つパターンはさまざまだ。既存のお客様からの紹介、自社ホームページのお問合せフォームからの連絡、発注ナビを利用している場合には自社がエントリーした案件に対して『紹介』を受けた発注者。いずれのパターンでも、発注者にはまず『初めまして』の挨拶を兼ねて初回ミーティングの日程調整のためにメールを送ることになる。
伊藤氏は「このメールを『いつ送るか』がポイント。紹介を受けたり、お問い合わせフォームに連絡が来たりしたら、とにかく素早くメールで連絡することが大切。理想的には即日、遅くとも翌営業日には、発注者に必ず連絡するようにしています」と説明する。
なぜ、このように素早いレスポンスが重要となるのか。理由は大きく2つある。
まずは「発注者にとって『最初に連絡をくれたシステム開発会社』として記憶してもらうため」(伊藤氏)だ。ひとつの開発案件に複数のシステム開発会社が競合する中にあっては、自社を少しでも強く印象づけることが重要になる。「イメージとしては、発注者のメールの受信ボックスで自分たちが送ったメールが常に存在感を示しているような感じが理想です。そのためには、『こんなにすぐに返信メールをくれていた』とわかるように受信履歴を残す、これが大切になります」(伊藤氏)。
素早い返信メールの本当の役割とは?それがわかれば次のアクションも見えてくる
とはいえ、最初に送るメールだからこそ良い印象を持って欲しい、その内容にもこだわりたいというシステム開発会社もあるかもしれない。『スピードよりも内容重視』で、これまでの自社の実績などの資料をきちんと揃えて送ろうとして時間がかかってしまうこともあるだろう。それに対して伊藤氏は「最初に送るメールの役割は、初回ミーティングの日程調整であると割り切っていいでしょう」という。実際、伊藤氏も「自社の簡単な紹介と初回ミーティングの候補日を送る程度」だという。
ここに、最初のメールを『即レス』で送ることがなぜ大切なのか、その本質的な答えともいえる2つめの理由がある。つまり、本当に大切なのは最初に発注者と顔を合わせる初回ミーティングであり、『その重要な初回ミーティングを競合他社よりも先に実施してもらうための約束を取り付ける』のが最初のメールの役割なのだ。「だからこそ、とにかく早く連絡をしなければならないのです。そして、他社より先に会ってもらえるようにアポイントを取る、これが成約率を高める第一歩です」(伊藤氏)。
最初に送るメールの本当の役割が『初回ミーティングの日程調整』だとすると、メールを送ったのに返信がない場合の次のアクションをどうすべきか自ずとわかってくる。「電話をします。電話をして、できればその電話でアポイントを確定してしまいます」(伊藤氏)。ようするに、新規顧客となんらかの接点を持てた場合には、とにかく競合他社よりも早く会ってもらい、提案をさせてもらえる機会を作ることが大切になる。早くメールを送り、返信がなければ電話をして、日程調整をする、ここまでの一連の流れをとにかく素早く実践することが成約率を高めるうえで重要となるのだ。
初めてのミーティングで何を話すか?ポイントは『仮説を立てる』こと
初回ミーティングの日程が決まったら、次はミーティングで話すことの準備をする。そこで重要となるのは「仮説を立てること」と伊藤氏は話す。具体的に説明する。
多くのシステム開発会社では、最初のミーティングでは、自社の紹介資料を用意し、(発注者からの案件には直接関係しなくても)過去の実績などを説明しようとするだろう。初対面なので、自社を発注者に知っていただくためにも、それらは重要ではある。ただし、それだけでは競合他社を抑えて受注するには至らない。伊藤氏は、「紹介を受けた際に聞いた情報や、お問い合わせフォームに書き込まれている内容をヒントに仮説を立てることが大切」と説明する。
仮説を立てるために、同社では過去の対応事例の中から、今回の案件にも当てはまると思われるものをいくつか洗い出すそうだ。業種や企業規模、作ってほしいシステムの種類や内容、システム規模などが近いものを探す。そして、紹介された内容やお問い合わせフォームに書き込まれている内容をもとに、『この発注者は、本当はこういうことにお悩んでいて、こういった解決策を望んでいるのではないか』、『お問合せフォームにはこう書いてあるが、本質的な課題は別のところにあり、その解決策としてこういったシステムを提案できないか』といったことに考えを巡らせる。つまり、初回のミーティングとはいえ、「決して『ご挨拶とご紹介』だけには終わらせない」(伊藤氏)のだ。
例えば、顧客管理システム開発の依頼なら、過去に顧客管理システムを開発した際、その発注者にはどのような希望があったのか、どのような要件定義のもとにどのような構成のシステムに仕上げていったかといったことを見直し、そこからいくつか仮説を立てて、『もしお客様がこういったことにお困りならこう話してみる、もしこっちに課題があるならこのシステム構成を提案してみる』というように、複数の『仮説+提案パターン』を用意しておくという。
しかも、そのための資料の準備が同社の場合は非常に周到だ。「PowerPointの資料でだいたい30ページくらいにはなります。それを初回ミーティングまでに準備しています」(伊藤氏)。初回ミーティングといえば、まだお互いの自己紹介も終わっていない段階だ。発注者からの要望も詳細には聞いていない。そのため他社は自社紹介や実績紹介の資料くらいしか持参しないだろう。それに対して、PowerPointの30ページにも及ぶ「仮説+提案」の資料が出てきたらどうだろう。「間違いなく、発注者は『えっ』と思うでしょう。まだ何も話していないのに、この会社はここまでうちのことを考えてくれているの?と。だから印象に残るのです」(伊藤氏)。
成約率を高めるために初回ミーティングまでに何をすべきか。『仮説を立てる』、その仮説をもとに『先走り』で『提案資料を作る』のだ。この準備をしておけば、初回ミーティングで「他社とは全然違うという印象、つまり、こんなシステム開発会社が来た、という『爪痕』をしっかりと残せるはずです」(伊藤氏)。
発注者から「そう、それです!」という反応を引き出す
初回ミーティングでは、お互いに会社紹介や実績の紹介などをするのが基本だ。一般的には会社の概要、従業員数、対応言語、過去の実績などを説明する。それはそれで必要ではあるが、ここで発注者の視線に立って考えてみる。「何社からも同じようなパターンで説明を聞かされることになります。果たして興味を持って聞いていただけるか。ましてやアポイントを確定するのに時間がかかってしまい、お会いできるのが他社より遅れた場合、先に好印象のシステム開発会社があれば、ほとんど『会うだけ会うか』になってしまいがちです。そんなときでもちょっと違うぞと思っていただける工夫が重要です」(伊藤氏)。
その工夫が、先に説明したPowerPointで30ページにもなる『仮説+提案』の資料となるのだが、伊藤氏によれば「実際に話す内容にも工夫をしている」という。「会社紹介のときには、会社の紹介もしますが、メインで担当するプロジェクトマネージャーやシステムエンジニアが『どんな人柄か』を話します」(伊藤氏)。システム開発のプロジェクトは、数カ月から1年以上に及ぶこともある。長い付き合いとなるだけに『人となり』もプロジェクト成否の重要な要素になるだろう。そこで、『もしご発注いただけたら、御社の担当になるのはこんなメンバーです』と感じていただけるように人柄を紹介しているという。
発注者の視線に立つことは、初回ミーティングで発注者から案件の説明を受けるときにも忘れてはならないという。発注者からしてみれば、例えば、発注ナビに登録をしたとき、システム開発会社のお問い合わせフォームに記載したときなどに、『既に案件の概要は伝えている』と思っているかもしれない。そんな時に、既に知らされているような基本的な内容を再度、説明してくださいというのでは、発注者の印象も良くはない。
既に知らされている内容は簡単に確認する程度に留め、それよりも持参した『仮説+提案』資料を使い、「こういうことでお困りなのではないですか」と話を進めていくという。もし発注者から「そうそう、こういうことに困っているのです」という反応があったら、そこに対してその場でさらに深くヒアリングをしていけばいい。
発注者を疲れさせず、よりスムーズに詳しい話を引き出すためにも、事前準備の過程からの『仮説+提案』を複数パターン、考えておくことが大切なのだ。
事前情報が何もなく、『仮説をもって対応』できないときはどうするのか
ただし、案件によっては事前情報が何もなく、仮説も提案もできないケースも多いだろう。そんなとき伊藤氏は、「初回ミーティングのその場で話をしながら仮説を立て、その場で解決策をご提示できるように『引き出し』をたくさん用意しておく」のだそうだ。
なかなか高度なノウハウだが、常日頃から、さまざまなシステム開発案件に触れ、ユニークなシステムで課題を解決してビジネスを成功させている企業の事例などの情報を取集し、ストックしておくことが大切になる。『引き出し』に過去の対応事例や実績だけでなく、外部のセミナーやメディアから得た情報も含めてしまっておけば、初回ミーティングのその場でのやりとりに柔軟かつ的確に対応できるようになる。
同社では、この引き出しを満杯にするための工夫もかかさない。「レストランにいけば必ずメニューがありますよね。料理の内容と価格がわかるもの。システム開発会社にもメニューは必要で、例えば過去に別の会社で使った提案書の社名と金額を変えるだけでも、メニュー記載する『料理』のひとつにはなるでしょう。こういった工夫でメニューを作り、それを引き出しに入れて初回ミーティングに臨む、これも成約率を高めるために当社が実践していることです」(伊藤氏)。
ミーティングでは、提示した説明資料に、その場の言葉を書き足して議事録へ
ここまで、伊藤氏のお話をもとに、最初のメールを送るところから初回ミーティングまでで、成約率を高めるノウハウを示してきた。第1回の最後に、初回ミーティングを成功させるため、成約率アップのために伊藤氏がよく実行しているという工夫を紹介しよう。
それは、『PowerPointによるアジェンダの活用』だ。初回ミーティングに向けて、用意周到に準備できるとは限らない。通常の業務をこなしながら資料を用意するには手間も時間もかかるし、発注者からの情報が不十分なときもある。そんなとき、伊藤氏は「わかる範囲で仮説や提案を、いわば箇条書きし、あえて余白いっぱいのアジェンダ的な資料を用意します」という。そして、初回ミーティングではそのPowerPointを投影し、参加者全員が見えるかたちにして、「話が進んでいく中で、余白をどんどん埋めていくのです。例えば『課題』とだけ書いておいて、『現状、システムが遅いのですね』というように書き込んでいくのです」(伊藤氏)。発注者のビジネス上の課題や中長期的なビジネス目標、KPIも聞いて書き込んでいくという。初回ミーティングが終わったときには、それが議事録にもなり、参加者の共通認識となる。発注者とシステム開発会社側の認識の齟齬をなくすのにも有効だ。次回ミーティングから参加する別の担当者にも容易に情報共有できる。
同社は、30ページにもなるPowerPointの資料や、その場で作成した議事録を「成果物として、発注者のところに置いてくる」(伊藤氏)そうだ。たしかに発注者からすれば、まだなにも提出を求めていない段階で30ぺージほどにもなる分厚い資料が手元に残れば、「初回からこんな立派な納品物がある、ここはしっかりやってくれるシステム開発会社だな」と感じてくれるだろう。「求められなくても成果物を納品することで、発注者と会ったことの証明、自分たちの存在証明になります。発注者の記憶の中にきちんととどまること、それが大切なのです」(伊藤氏)。
次回は成約率を高めるための『見積り作成術』を紹介する。同社は見積もりを『1回作って出して終わり』ではないようだ。どんなやり方なのか、ノウハウに迫ってみる。
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