システム開発会社にとって、お問い合わせから受注・失注が確定するまでの時間、すなわちリードタイムを短くすることは重要な意味を持つ。受注か失注かの『結果待ち』の時間が長いと新規営業の機会損失となり、しかも結果がわからない中では営業戦略が正しいのかどうかも判断しにくい。リードタイムを短くするには、どのような工夫が必要なのだろうか。株式会社クロスゲームズのセールスマーケティングシニアマネージャーである関口 秀樹氏にリードタイムを短くするTipsを聞いた。
<本連載の話者紹介>
株式会社クロスゲームズ
セールスマーケティングシニアマネージャー 関口秀樹
大学卒業後、通信機器メーカーに入社。
その後2006年にゲームポータルを運営していたNHN Japan株式会社に入社しカスタマーサポートを担当。
2017年に現在のクロスゲームズに転職してカスタマーサポート事業の立ち上げを行い、デバッグ事業やアセット制作事業など幅広く経験をしたのちに2023年から営業を担当。
幅広い経験からクライアントへ適切なご提案を心がけサポートを行っている。
リードタイムの短縮は大切な営業戦略
一般的にリードタイムとは、ある商品やサービスを発注してから納品されるまでにかかる時間のことを示す。ただし製造、流通、物流、ITなど業種や業界によって、個別の言い回しをすることも多い。例えば、製造業での『製造リードタイム』といえば、工場が製造指示を受けてから製品が完成するまでの時間のことになる。
今回のテーマであるリードタイムとは、システム開発会社が顧客から開発に関する問い合わせを受けてから、商談やプレゼンなどの過程を経て、受注か失注かが確定するまでにかかる時間のことだ。この時間を短くできるかどうかは、実はシステム開発会社にとって大きな問題だ。
リードタイムが長くなってしまうと、受注か失注かわからない『結果待ち』の期間も長くなり、その間は新規案件獲得の営業活動を積極的に展開できない。結果待ち案件と新規案件の両方を安易に受注すると、人的リソースが足りずに対応できないケースが出てくるリスクもある。だからといって、結果待ちの間に新規営業を完全にストップすると、最終的な失注続きによる営業機会の損失につながり、やがてジリ貧になってしまう。こうしたことから、リードタイムを短くすることは多くのシステム開発会社にとって大切な営業戦略といえるのだ。
新規営業をかけるときから、リードタイム短縮を視野に
それでは、どのようにすればリードタイムを短くできるのか。関口氏は、「新規顧客開拓の営業スタイルから見直すべき」という。今回フォーカスしているリードタイムとは、問い合わせを受け取ってから受注か失注かが確定するまでの時間だ。つまり、システム開発会社が問い合わせを受け取ったタイミングが起点になる。しかし関口氏は、「大切なのはその前段階。まずはお問い合わせのもらい方、それを工夫することが大切です」というのだ。
どういうことか。一言で示すと『絞り込み』だ。多くのシステム開発会社では、例えば展示会やイベントなどに出展して名刺情報を集めたり、発注ナビのようなマッチングサービスを活用したりすることで新規営業の候補を得ているだろうが、「その中から『自社に問い合わせをして欲しい』と思える相手を絞り込み、そこを狙って営業を仕掛けることが最初のステップであり、1つめのTipsです」(関口氏)という。
つまり、新規営業候補から優良顧客になり得そうなところに絞り込んで営業を展開することにより、必然的に『自分たちがこの会社のシステムを作りたい』と思える内容の問い合わせが集まるのだ。「自社の強みを活かせたり、実績をアピールできたりするお客様であることも多いので、話がスムーズに進み、結果的にリードタイムの短縮につながる可能性が高まるのです」(関口氏)。
この言葉通り、同社では発注ナビの利用方法も工夫している。日々、発注ナビがメールでお送りする開発案件を確認し、自社の強みを活かせる案件などに絞り込んでエントリーをしている。できるものならなんでもやるという闇雲なエントリーはしていない。自社にとって『良い案件の良い顧客』から問い合わせをもらう、これがリードタイムを短くすることにつながるのだ。
営業・マーケ・開発の3部門が素早く連携できる体制を
さらに同社では、自社にとって『良い案件の良い顧客』から問い合わせをしてもらえるように、新規顧客開拓の営業体制づくりにも工夫をしている。具体的には、営業部門の中にマーケティング部門やシステム開発部門を置いているのだ。営業部門の中で営業、マーケティング、システム開発が共存しているようなイメージで、関口氏は「システム開発会社の核ともいえる3つの部門が同じ組織の中にあるので、お客様からの要望や問い合わせに対応するときに、いちいち組織間を横断する必要がなくなります。スピード感を持って対応できるのが大きなメリットです」と説明する。
このように営業部門の中にマーケティング部門やシステム開発部門を内包することは、実はリードタイムを短くするためには重要な意味を持つ。ただし、どのような組織・体制を作るのかは各社の事業展開の方向性によって異なり、すでにある組織・体制を簡単に変えることは難しい。
そこで、ここでは、営業部門がマーケティング部門とシステム開発部門を内包する組織体制を作るというより、リードタイムを短くするには営業部門、マーケティング部門、システム開発部門のそれぞれが迅速に連携できるようにすることが大切であると理解していただきたい。そして、迅速に連携できる体制を整えておくことを2つめのTipsと考えていただきたい。
こうすることで『良い案件の良い顧客』を絞り込むときにも、営業部門だけの視点ではなく、マーケティングやシステム開発からの意見も集約して絞り込める。また、マーケティング部門がWebマーケティングなどで新規営業候補を獲得するときにも、どのような新規顧客が自社にとって適しているのかを営業部門やシステム開発部門と一緒に検討することができる。
さらに、同社の場合は営業部門、マーケティング部門、システム開発部門が同じ組織なので、例えば新規開拓した顧客との初回の打ち合わせからシステム開発担当者を同席させることもできる。打ち合わせの場ですぐに顧客からの疑問に回答できるようになるので、システム開発担当者がその場にいることで、すぐに回答すべきこととすぐに回答しない方が良いことの判断もより正確になるだろう。
返信には必ず商談の日時候補を記載し、主導権を渡さない
ここまで、リードタイムを短くするためには、新規営業をかける案件を絞り込み、自社にとって『良い案件の良い顧客』から問い合わせをもらうこと、そしてそのためには社内の体制作りも大切であることを説明してきた。
次は実際にお問い合わせをもらった後のアクションだ。問い合わせにはできるだけ素早く返信することが3つめのTipsだ。当たり前ともいえるTipsだが、同社ではそこにも工夫をしている。まずは、問い合わせが全てChatwork上に流れていくようにして、さらに新規顧客からの問い合わせは自動的に担当者宛てにメンション付きの連絡が入るようにしている。メンションが付いていれば、担当者も返信漏れを起こすことはなくなり、返信が遅くなることもない。「返信をする時間を明確に決めているわけではありませんが、その日の間のうちには必ず返信するということは心がけています」(関口氏)という。
さらに、問い合わせへの返信をするときには文面内に必ず打ち合わせの候補日程や時間帯を入れるようにしている。「候補日程や時間帯を入れずに返信するのは、相手に主導権を渡すようなもの。そもそもお問い合わせをもらうということは、こちらから営業をかけたのではなく、お客様側からアプローチをしてこられたということ。せっかくこちらにあるはずの主導権を簡単に渡してしまうのではなく、打ち合わせや商談の候補日程や時間帯を打診し、必ず『この日程や時間帯でいかがでしょうか?』と確認しながら進めていくことが肝心です」(関口氏)。
受注でも失注でも、『結果』がわからないと次の一歩が踏み出せない
同社ではエンジニアでシステム開発の担当者が営業も兼務していることが多い。そんな同社だからできるのかもしれないが、同社では「初回の商談や打ち合わせ時に、できる限り企画提案書を作成して提出するようにしています」(関口氏)という。しかも事前に「初回ですが企画提案書を持参します」と連絡をしておくこともあるという。「このように伝えておくことでお客様側としても、『提案があるなら、その場でフィードバックしよう』と心積もりをしてくださるようになり、交渉が一気にスピードアップします」(関口氏)。多くのシステム開発会社では、まずは顧客へのヒアリングをしてから企画提案書を作り、それを確認してもらうという流れが一般的だが、それでは当然ながらリードタイムが長くなる。
顧客側にしても、具体的な企画提案書があれば『ここに書かれている内容は要望に近いが、ここは違う』など、より具体的に話し合うことができるので、あとは費用感さえわかれば初回の打ち合わせだけも発注するかどうかの大方は判断できるケースもあるという。打ち合わせや商談の日時を決めるのと同様に初回から企画提案書をお見せして、うまく主導権を持ちながら、顧客の要望をしっかりと聞いて進めていくことで、リードタイムを短くできるのだ。
リードタイムを短くするということは『受注か失注かの結果』がわかるまでの時間が短くなるということだ。当然だが受注することも失注することもある。そこで最後に、失注したときの結果の受け止め方で心がけていることを関口氏に尋ねてみた。関口氏は「失注や失敗という『結果がわかったことが良かったよね』と考えています』と語った。一般的に失注したらどうしようと不安に思うこともあるかもしれないが、受注か失注か「結果がわからないと次には進めません」(関口氏)というのだ。受注でも失注でも結果がわかること、それが次の一歩を素早く踏み出すために必要なことといえるのだ。
新規案件開拓の課題は「発注ナビ」で解決システム開発に特化したビジネスマッチング
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