経済産業省が民間企業のDX化推進に向けてガイドラインを打ち出して以降、日本では様々な業界が積極的にDXを推し進めるようになりました。人材業界も同様で、業務の様々なシーンでDX化が進められています。
本記事では、人材業界におけるDXの重要性や現状、課題を理解しながら、具体的なDXの導入方法を考えていきます。DXを導入するうえで注意すべき点についてもまとめて紹介していますので、ぜひ自社のDX推進にお役立てください。
目次
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人材業界におけるDXの重要性
現在、企業が競争力を維持し成長を持続させるためにDXは欠かせない要素となっており、人材業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進行しています。
人材業界におけるDXにおいても、機械学習やディープラーニングなどのAI技術、IoTを活用した新たなサービスの創出や人材マッチング精度向上など、独自のDX化を進めることが重要です。
ほかにも、採用プロセスの効率化やデータ駆動型の意思決定、リモートワークの推進など、様々なアプローチによって人材業に新たな価値を生み出せる可能性があります。
人材業界におけるDXの現状
人材業界におけるDXは、デジタル技術の活用によって業務プロセスやビジネスモデルを革新するための取り組みです。具体的には、デジタル技術の導入による業務効率化やリモートワークの推進などが挙げられます。
今日のビジネスにおいて必須ともいえるDXですが、人材業界はほか業界に比べてデジタル化が遅れているのが現状です。
まずは、DXの基本を振り返りながら人材業界のDXが進まない理由を考えていきましょう。
●DXとは何か
そもそもDXとは、データやデジタル技術による業務プロセスやビジネスモデルの抜本的な革新を意味しています。市場での競争力を維持し、持続的な成長を目指すために重要な要素となるものであり、単なる「デジタル化」による業務効率化ではありません。
大きく変化する社会の動向やユーザーニーズを加味したうえで、競争力を獲得する手段としてデジタル技術を活かす取り組みです。
●人材業界におけるDXの現状と課題
多くの企業がDXの必要性を認識してはいるものの、実際の導入には様々な課題を抱えています。まず障害となっているのが、デジタルリテラシーの不足です。契約の電子化が認められていなかったこともあり、アナログな管理方法や属人化によって、デジタルへの移行が遅れてしまっています。
具体的には、以下のような業務プロセスやアプローチがデジタル化の遅れを招いているといわれています。
非効率な業務プロセスから脱却できていない
求職者のスクリーニングやマッチング、面接の調整などのオペレーション業務を手作業でしているところが多く、非効率さが顕著です。従業員に対する業務負荷もかかるため、コスト増大や利益率の低下につながります。
顧客ニーズに即応できていない
データが適切に管理されていない、コミュニケーションのプロセスが古いといった理由により、顧客のニーズに即応できていない現状があります。デジタル化が進む現代では、求職者も企業もより迅速で一貫したサービスの提供を期待しています。
オンライン面談や面接を実施する、求職者や企業のデータを適切に管理・分析してニーズに応じたサービスを創出するといったシームレスな顧客体験を提供する対策が必要です。
ビッグデータやAIを活用できていない
DXを進めた企業の中には、AIによるスキルマッチングや自動スカウトサービスなど、新たなサービスやビジネスモデルを生み出しているところもありますが、デジタル化が遅れている企業はこれらの革新的なサービスを取り入れることができていません。DXを進めないと、次第に市場における競争力を失ってしまう可能性があります。
人材業界でDXを導入するメリット・デメリット
人材業界におけるDXの導入には、様々なメリットとデメリットが存在します。以下では、その具体的な点について詳しく説明します。
●DX導入のメリット
まずは、メリットについて紹介します。
業務効率化と生産性の向上
DXを導入すると、業務の自動化やデジタルツールの活用によって業務効率化や生産性の向上が実現します。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化やクラウドシステムによるデータの一元管理が可能です。これらデジタルツールによる業務管理や自動化は、作業ミスを減少させ、効率を大幅に向上させる効果があります。
データ活用の促進
蓄積されたデータを有効活用できるようになります。AIを活用した高度な分析により、新たな知見を得ることが可能となります。それに基づき新しいサービスをすぐに市場へ投入したりビジネスの意思決定に役立てたりすることができます。データを活用したビジネスのスピードアップは、企業の競争優位性を高めるためにも重要な戦略です。
市場変化への柔軟な対応
デジタル技術が進歩するごとに、社会やビジネスを取り巻く環境は大きく変化します。企業が生き残りつつ、成長し続けるためには、目ざましい市場変化にも柔軟に対応できるかが鍵です。
DXを導入すれば、市場の変化や顧客ニーズの変化に迅速に対応できるようになります。
新規ビジネスの創出
求職者や企業に自社のサービスを選んでもらうためには、これまで以上に利便性の高いサービスやビジネスモデルを創り出さなくてはなりません。
DXによってデジタル技術を活用できれば、新しいビジネスモデルを生み出しやすくなります。これにより既存のビジネスを拡大し、新たな市場へ参入するチャンスが増えます。
働き方改革の実現
クラウドやコミュニケーションツールを導入すれば、従業員が場所にとらわれず仕事ができます。リモートワークやフレキシブルな働き方を導入できるようになり、政府が推進する働き方改革に取り組めるでしょう。
また、経理やデータ入力、顧客対応の一部を自動化できれば、従業員はより重要度の高いほかの業務に集中できます。これにより従業員の満足度やモチベーションが高まれば、離職防止や定着率の向上も期待できます。
BCP(事業継続計画)の強化
BCP(Business Continuity Planning)とは、自然災害や感染病、テロ攻撃などの事態における対応方法や手段をまとめた事業継続計画です。
DXを導入すれば、災害や緊急時にも柔軟に対応できる体制を構築でき、有事におけるリスクを最小限に抑えられます。例えば、必要なデータとソフトウェアをクラウド環境に構築することで、場所を問わず仕事を続けられるでしょう。また、不測の事態が生じた際も被害を抑えられるBCP対策を十分に行なっている企業は社会的信用も得やすくなります。
レガシーシステムからの脱却
古い技術や仕組みで作られているシステムから最新技術を導入したシステムに移行すると、維持管理コスト削減や運用効率アップにつながります。データの取り扱い能力が高まることによって、セキュリティリスクの低減にもつながります。人材業は特に個人情報を取り扱うことが多いため、セキュリティ対策がしっかりとされた新しいシステムへの乗り換えは大きなメリットです。
●DX導入のデメリット
次にデメリットについて解説します。あらかじめデメリットを知っておくことで、事前に対策が打てるでしょう。
初期投資とランニングコストの負担
DX導入には、初期投資やランニングコストがかかります。新しいシステムやツールの導入には当然費用が必要ですが、DXの規模によっては企業の財政に負担をかけることも少なくありません。
DXは継続的な運用も必要なため、導入の際には費用対効果の高さが重要となります。導入コストを低く抑えられ、かつランニングコストを制御しやすいサービスを選定できるかが成功のポイントです。
デジタル人材の確保が困難
DXを推進するためにはデジタル技術に精通した人材が必要ですが、これらの人材を確保するのは容易ではありません。デジタル人材は獲得の競争が激しく、多くの企業が人材不足に直面しているためです。
特に中小企業やスタートアップなどの場合、報酬面や職場環境などにおいて大企業よりも好条件を整えることが難しく、より不利な状況です。自社で人材を育成する戦略もありますが、人材開発には時間とコストを要します。
組織全体での取り組みが必要
DXは一部の部門だけでなく、組織全体が理解し、全社的に取り組む必要があります。DXの導入には試行錯誤する場面や予期しない技術的課題も多いため、組織の理解が不十分だと、いつまで経ってもDXを推進できないためです。これらを乗り越えるには組織全体の理解と協力が不可欠です。
既存業務プロセスの見直しが必要
DXを推進するためには、既存の業務プロセスを見直す必要があります。まずは現状の業務課題を洗い出し、新システムに移行することによって課題を解決できるかを考えていかなくてはなりません。DXをはじめる前のこの作業には時間と労力がかかりますし、従業員にとっても大きな変革となるため、抵抗感が生まれることがあります。
人材業界における具体的なDXの導入方法
ここからは、人材業界でDXを導入する具体的な方法を紹介します。これらの方法を効果的に活用することで、業務の効率化や生産性の向上を図ることができます。
●社員情報システム(HRIS)の導入
HRISとは、従業員の基本情報や評価情報、異動情報、教育履歴などを一元管理するデータベースで、企業の意思決定に必要な情報を提供するシステムです。HRISの導入により、従業員の「見える化」が実現し効率的な人材管理ができるようになります。
●タレントマネジメントシステムの導入
タレントマネジメントシステムは、従業員のスキルや能力を見える化し、最適な人材配置を実現するツールです。これにより、ジョブローテーションの効率化や特定スキルを持つ従業員の検索が容易になります。
●クラウドサービスの活用
クラウドサービスの活用もDX推進には欠かせません。クラウドを利用することで、データやアプリケーションをネットワーク経由で利用でき、柔軟な働き方をサポートします。これにより、リモートワークの導入や業務のペーパーレス化が可能となり、業務効率が向上します。
●RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入
RPAを活用することで、定型業務の自動化が実現します。例えば、データ入力やスケジュール管理などの繰り返し作業などです。これらの定型業務を自動化することで、業務全体の効率を大幅に向上させることができます。
●データ分析とAIの活用
データ分析とAIを活用することで、蓄積されたデータから新たな知見を得られます。AIを活用した予測分析や意思決定支援システムにより、戦略的な意思決定が行いやすくなるでしょう。また、データ分析とAIは、新たなサービスを創出するのにも役立ちます。
●業務プロセスのデジタル化
業務プロセスのデジタル化も重要です。これには、ペーパーレス化や電子署名の導入、オンライン会議システムの活用などが含まれます。人材業界では従来、労働者派遣契約の締結は書面で行う必要があり、書類作成や郵送手続きに手間を要していました。しかし、2021年の法改正からは労働者派遣契約も電子化が認められています。これら契約のペーパーレス化によって、業務の大幅な効率化とコスト削減が期待できます。
人材業界でDXを導入するうえで注意すべき点
人材業界でDXを導入する際には、いくつかの重要な注意点があります。DXの効果を最大化し、失敗のリスクを最小限に抑えるためにも、以下の注意点を理解しておき、適切な対応策を講じましょう。
●既存システムの老朽化とブラックボックス化
日本では、多くの企業が既存システムの老朽化やブラックボックス化に直面しています。これらのシステムは複雑で、現在の担当者でも全容を把握できないことが多く、DX推進の障害となります。
DXの運用を持続可能なものにするためにも、開発においては設計者個人のノウハウに依存しないモジュラーアプローチを採用しましょう。各部分が独立していても、全体としての機能が損なわれないようにすることが大切です。設計から実装の各段階で透明性を保ち、関係者全員が共通の概念や用語で理解できるように文書化しておくことで、ブラックボックス化を防げます。
●デジタル人材の確保と育成
DXを成功させるためにはデジタル技術に精通した人材が必要ですが、多くの企業がデジタル人材の不足に悩んでいます。人材獲得は年々困難になってきているため、単に外部からの採用に頼るだけでなく内部での教育プログラムやキャリア開発の機会を整えることも大切です。研修プログラムなどで社内のスキルアップや人材教育を継続的に行えば、技術の進化に対応し続けられる体制を構築できます。
●社内の文化と意識改革
DXは単なる技術導入ではなく、企業文化や業務プロセスの根本的な変革を伴います。そのため、経営層から現場の従業員まで、全員がDXの意義を理解し、協力して進めることが重要です。特に、トップダウンでの強力なリーダーシップが求められます。まずはトップの経営層が全社方針としてDX推進を掲げましょう。そのうえで社員にDXを導入するメリットを説明し、導入のステップを共有します。
●データの一元管理とセキュリティ
DXでは大量のデータを扱うため、データの一元管理とセキュリティが重要な課題となります。適切なデータ管理システムを導入し、データの安全性を確保することで、情報漏洩のリスクを防ぎます。安全かつ自社に合ったデータ管理システムを選ぶには、同業種や同分野において、検討しているシステムが導入されているか・評価されているかなどで比較すると良いでしょう。
●コストとROIの明確化
DX導入には初期投資が必要ですが、長期的なROI(投資対効果)を見据えた計画も求められます。特に、徐々にデジタルへ移行していく計画の場合、DXに対する投資額も徐々に増えていくため、どの程度の効果が見込めるかは重要です。
既存業務の効率化を図る短期的なコスト削減だけでなく、新規事業の創出にかかわる長期的なビジネス価値も考慮したうえで投資対効果を明確にしましょう。
自社に合う形でDXを推進する
DXの導入は、企業の競争力を強化し成長を促進するために不可欠です。しかし、アナログなシステムからデジタル化し、さらにその先のDXを目指す場合、特にシステム移行の負担が大きくなります。無理のないスケジュールを立て、ペーパーレス化やリモートワークの導入など、まずは小規模なプロジェクトから始めて成功体験を積み重ねることが重要です。
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