イメージスキャナーで世界トップクラスのシェアを持ち、情報KIOSK端末、組込みコンピュータ、各種業務用システムやパッケージシステム、ドキュメントソリューションなど、幅広いソリューションを提供するPFU。同社の社員のアイデア実現支援制度である「Rising-V活動」を利用して、社内の有志が目指した新たなソリューションの模索とは? 株式会社PFUの石原氏、桑原氏、そして開発を行った株式会社ゴーガの田村氏、福田氏にお話を伺いました。
■社員のアイデア実現支援制度「Rising-V活動」から生まれた部署を超えたプロジェクト
――石原さんと桑原さんは同じ部署ではありませんね。そもそも、今回の開発プロジェクトはどのようにして立ち上がったのか、その経緯からお聞かせ願えますでしょうか?
PFU 石原氏 当社には「Rising-V活動」という、新規事業の芽を生み出すための社員のアイデアを実現する制度があります。社内の誰でも応募が可能で、企画が通れば最大で500万円の予算が付きます。同制度を利用して、桑原と私、そして社内のSEを巻き込んで申請したのが、そもそもの始まりです。
PFU 桑原氏 私は、損保会社をお客様に営業活動をしているのですが、お客さまから「事故車両の調査をもっと効率的に行えないものか?」という声があるのを、普段からよく耳にしていました。お客様に常に最適なソリューションをご提供していく当社として、何か新しい技術を使って今までに無いご提案ができないものだろうかと考えました。そのような中、GoogleのTango(※1)という3D空間認識技術があるというのを、SEが見つけてきてくれました。
石原氏 Tangoを使うことは早々に決まったのですが、「どう使うか」というアイデアが出ず、計画が頓挫しかけます。2カ月ほど社内各部署の潜在ニーズを探った結果、営業スタッフの拡販ツールはどの部署でも欲していました。あくまでも可能性を探るという位置づけなので、仕様をガチガチに固めることはせず、共通項を括り出し、RFP(提案依頼書)上は、要求仕様を「3Dで表示」「AR空間上に物が置ける」「壁を表示する」という3点に絞り、具体的な内容については、当社の業態をお伝えした上で、開発会社からの提案を求めていくことになりました。
――「発注ナビ」を使おうと考えられた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
石原氏 当初、新規顧客開拓のために発注ナビが活用できないか検討したことがありましたが、今度は逆に発注側の立場で利用することで、弊社の要求に応えて頂ける開発会社が見つかるのではないかと考えました。
(※1)Tangoは、2014年にGoogle社のR&D部門であるATAPグループが開発をスタートさせたAndroid向け3D空間認識およびAR(拡張現実)/MR(複合現実)フレームワーク。赤外線カメラやMotion Tracking(運動解析)センサーなど、専用のハードウェアを必要とする。2016年~2017年にかけ、LenovoやASUSから、同技術に対応するAndroid端末が市販された。
――いっぽうのゴーガさんは発注ナビを今回初めて利用されたそうですが、この案件に手を挙げたのは、どういう理由からでしょうか?
ゴーガ 田村氏 当社はGoogle Maps APIを利活用した位置情報システムの開発を得意としていて、マーケティング分析やデータの可視化、各種のサービスなど、さまざまなシステムを手掛けており、2013年には「2013 JAPAC Partner of the Year」を、2014年には「2014 Google Enterprise Japan Partner Award」を受賞しています。3D空間認識技術は、位置情報システムの延長上に新たなサービスを提供していく上でも興味深いもので、当然、Tangoの存在も知っていましたが、開発実績はありませんでした。そのような中、今回のPFUさんの案件が舞い込んできました。
ゴーガ 福田氏 新規開拓の一環で、営業部門として発注ナビに登録していたのですが、今回の案件を見た瞬間、これは、すぐにエンジニアに知らせなければと思いました。
田村氏 私も興味があるテーマだったので、二つ返事で「ぜひ、やりたい」と伝えました。
■開発実績よりも提案内容で選んだベストパートナー
――PFUさんには発注ナビから5社ほどご案内させていただきましたが、ゴーガさんを選ばれた決め手は、どこでしたか?
石原氏 まずは見積り額や提案内容を基準に2社に絞り込みました。ゴーガさんの提案はUIも含めたデザインコンセプトがしっかりしていて、イメージしやすかったのが大きなポイントでした。2社とも恐らく開発はできるだろうと感じていたので、最終的な決め手は今回の開発のその先の提案をしてくれた点ですね。
桑原氏 もう1社は技術力が高い印象がありました。けれどもゴーガさんの提案は、当社の業態を考えた上で機能が盛り込まれており、熱意が感じられました。私たちが目指したのは今までに無いもの。それなら実績よりも、提案内容を重視すべきと判断しました。当社のSEも「ゴーガさんとであればアプリ開発に留まらずいろいろ議論できるのでは」と太鼓判を押したので、それならゴーガさんにお願いしようということになりました。
――ゴーガさん側は受注して、いかがでしたか?
福田氏 最初にPFUの方々とお会いしたときに、このプロジェクトにかける思いがしっかりと伝わってきました。その日はみんな興奮して社に戻り、エンジニアも営業もデザイナーも一緒になって、すぐに提案を作り始めました(笑)。正式にご発注いただいた後、PFUさん側で、キックオフ会を開催してくださったのも嬉しかったですね。「一緒に開発していく」という一体感を醸成することができました。
■開発段階での不安もなく完成した「ハリポR」
――開発段階での不安や、苦心した点などはありましたか?
桑原氏 当所は、私たちの思いが本当に伝わっているだろうかという不安がありました。しかし、ゴーガさんが2週間に1度の割合できちんとアウトプットを提示してくれたので、すべて杞憂に終わりました。課題も含め、きちんと情報共有できていたことが大きいと思います。
田村氏 苦心したところは、あまりありません。私は普段、Webアプリケーションを開発していますが、リサーチを兼ねて趣味でAndroidアプリ開発やUnityに触れていましたので。Tangoについては、プロジェクトがスタートしてから本格的にドキュメントを読み込み始めましたが、Googleの他の技術を多数利用していたこともあり、開発が行き詰ってしまうというようなことはありませんでした。
――完成したアプリケーションは、どのようなものですか?
石原氏 Tangoに対応したスマートフォンで動作するアプリケーション「ハリポR」です。これは、スマートフォンに搭載されているカメラにより、リアルタイムに映し出される空間映像に、AR技術でKIOSK端末やドキュメントスキャナ、サーバラックといった製品を配置し、実際に設置できるかどうかを確認できます。Tangoの優れた点は、赤外線センサーにより、正確に奥行が測れるところ。従来のAR技術のように背景と画像がずれて表示されてしまうといったことがありません。また、「ハリポR」の特長は壁だけでなく、床や卓上も認識して表示するところです。これは「置けるかどうか」を確認するのにとても重要な要素です。さらに、ゴーガさんが提案・実装してくださった機能として、画面上でタッチした2点間の距離をcm単位で示してくれるのも嬉しい機能ですね。間口や通路の狭いところに実際に製品を搬入できるかどうかという、搬入見積りにも利用できます。完成後は、社内の営業スタッフ数人に持ち歩いてもらい、いろいろ試してもらいました。
●Memo:今回開発したアプリ
『開発コード名:ハリポR』
Google社の3D空間認識技術Tangoの新たなソリューションへの応用を調査する目的で開発。スマートフォンに搭載されているカメラにより、リアルタイムに映し出される空間映像に、AR技術でKIOSK端末やドキュメントスキャナー、サーバラックといった製品を配置し、実際に設置できるスペースがあるかどうかや、設置した際のイメージを確認できる。営業スタッフが持ち歩き、顧客との商談の際に利用するなど、さまざまなシーンでの活用を想定している。
■一つひとつ実績を積み上げることで生まれるパートナーシップ
――このプロジェクトの今後の展開はどのようなものになりますか?
石原氏 本プロジェクトは2018年3月に「Rising-V活動」の成果発表を行い、会社からユニーク賞を受賞したことで、終了しました。実はTangoに関する技術は、開発中止の方向性となっており、今後は同じGoogle社のARCoreという技術がこの分野を担っていきます。こちらは特別なセンサーユニットを必要とせず、通常のスマートフォンの単眼カメラでも利用できます。Tangoほど正確にセンシングできるかは定かではないので、この辺の技術的な見極めを図りながら、今後このプロジェクトをどう進めていくか、検討していきたいと考えています。
田村氏 PFUさんとは今回のお話がきっかけとなり、その後もお付き合いが続いていて、現在はPFUさんがお客様にご提供しているGoogleアプリケーションの開発などでも、ご一緒させていただいております。
――最後に、発注ナビを利用された感想をお聞かせください。
石原氏 自分たちで発注先を探すとなると、その会社の信用情報を含め、発注先として妥当かどうかを自前で調査しなければなりませんが、発注ナビから紹介される時点で、一定の水準が担保されているという安心感がありますね。
福田氏 発注ナビのサービスを利用することによって、通常ならばなかなかキャッチできないような新規案件情報を得ることができ、選定先の1社として土俵に上げて頂けるのがありがたいです。
――実績がなくても一つひとつ丁寧に積み上げていくことで、より良いプロダクトや、より良いパートナーシップが生まれるのですね。ありがとうございました。
■今回学んだ発注が上手くいく3つのポイント
◆新しいものを生み出すためには、実績以外の観点で選定が必要
◆発注側と受注側の一体感を醸成する機会を積極的に設ける
◆短い周期でミーティングをし、課題を含めた情報共有を欠かさない
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