
会社経営において欠かせない業務のひとつが経費精算です。
毎月のように発生し、その際に必要となる領収書は、契約書や請求書と同じく取引を証明する「証憑(しょうひょう)書類」として重要な役割を担っています。
従来は、経費を申請する際に紙の領収書を経理担当へ提出するのが一般的でした。
しかし、近年の税制改正により、紙の領収書の代わりに電子データを正式な領収書として使用できるようになりました。
今回は、紙の領収書と比較した電子化のメリットや移行にあたっての注意点、電子化に伴い利用される機会の増えているクラウド会計システムの基礎知識などについてご紹介します。
目次
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領収書は電子データで保存可能

領収書は紙の原本を保存するのが原則でしたが、1998年に電子帳簿保存法が施行され、これまで紙媒体での保存を義務付けられていた領収書が、電子データ(電磁的記録)で保存できるようになりました。
電子帳簿保存法は、納税者の帳簿保存に係る負担を軽減するために制定されました。制定された背景には、ソフトウェアを利用したPC上の帳簿書類作成が普及し、ペーパーレス化が可能になったことが挙げられます。
しかし、当初は電子化できる領収書の条件が厳しかったため、あまり普及しませんでした。電子化できる領収書は3万円以下だったのに加え、電子データと併せて原則7年の原本保存が必要と定められていたためです。
その後、何度も税制改正による規制緩和が進められ、2015年の改正では3万円という上限がなくなり、すべての領収書を電子化できるようになりました。2017年には、スマホやデジカメで撮影した領収書やレシートの電子保存が可能になりました。機器の性能が良くなり、スマホの画像でも鮮明に撮影できるようになったことが規制緩和が進んだ理由とされています。同時に、原則7年の原本保存も撤廃されました。
これによって、電子証明書(ある時刻に確実にデータが存在していたことを証明するタイムスタンプ)を付与すれば、電子データのみで領収書の保存が認められるようになりました。
電子帳簿保存法に対応した保存要件

領収書を電子データとして保存する場合には、電子帳簿保存法に対応した保存要件を満たす必要があります。
自社で発行した領収書や電子データで電子データで受領した領収書、紙媒体で発行した領収書や紙媒体で受領した領収書は、取り扱い要件が異なるため注意が必要です。
●電子取引における保存要件
電子データで受領した領収書は、原則として電子データのままで保存することが義務付けられています。
電子取引を行う際は「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たす必要があります。
| 真実性の確保 | 【改ざん防止の措置】 ① タイムスタンプが付与されたデータを授受 ② 受領したデータにタイムスタンプを付与 ③ 訂正・削除の履歴が残るシステム等でデータを授受・保存 ④ 改ざん防⽌のための事務処理規程を策定、運用、備え付け |
| 可視性の確保 | ①パソコン、ディスプレイ・プリンタを備え付けている ②「取引年⽉⽇」、「取引⾦額」及び「取引先」の3項⽬で検索ができる |
参照元:電子取引データ保存要件チェックシート(令和6年11月)|国税庁
●スキャナ保存における保存要件
スキャナ保存では、「重要書類」「一般書類」「過去分重要書類」の3つに区分して、それぞれの区分の真実性・可視性を確保するための要件を満たす必要があります。
スキャナ保存における区分ごとの要件には、入力期間の制限や200dpi以上の解像度での読み取り、カラー画像による読み取り、タイムスタンプの付与、スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持などの細かい要件があります。
これらの保存要件を満たすために、スキャナ保存対応のシステムを活用することが一般的です。
電子データでの保存のメリット

紙の書類管理から解放されることで、煩雑な作業がなくなるだけでなく、会計処理までスムーズに行えます。
●コスト削減
領収書を電子データに置き換えることで、大幅なコストカットが期待できます。例えば、経費精算に関わる人件費や領収書をファイリングする作業時間、書類を保管しておくスペースなどの削減が可能です。
●確実に保存可能
電子データはバックアップ管理を行うことで、万が一データが消失した際にも復旧ができ、確実にデータの保存が可能です。紙での保存の場合は紛失したり、大きな災害が発生した際に消失したりする危険性があります。非常時に紙の書類を持ち出すことは難しいですが、電子データであれば、遠隔地にバックアップとして保存しておけば安心です。
●経費精算の効率化
紙媒体の場合は、支払いを終えた社員が各自で領収書を保存し、帰社後に経理担当に提出する必要がありました。電子データならば、外出先からでもスマホで撮影し、すぐに領収書を電子化することが可能です。ただし、スマホを使用して電子データを管理するためには、対応する会計システムが必要になります。
電子データでの保存のデメリット

電子データでの保存には、2つのデメリットがあります。
●コストがかかる
電子データの保存のためには、電子データを保存するためのシステムの導入コストやセキュリティ対策を講じるためのコストがかかります。
紙媒体での取引では、紙媒体の領収書を保管する場所があれば管理ができ、領収書は社内で管理されるため、システムに対するセキュリティ対策は不要です。
電子データで管理する場合は、データ流出や改ざんを防ぐために、セキュリティ対策が必要不可欠となり、その分の費用が発生します。
●電子帳簿保存法に対応するコストとリソースが必要
電子帳簿保存法に対応した保存要件を満たすためには、ディスプレイやプリンタを備え付ける必要があり、電子機器を用意するコストもかかります。
また、紙媒体の領収書をスキャナで読み取って電子データ化するためには、リソースが必要となるため、人手不足の企業は対応が困難になると考えられます。
電子化する前に知っておきたい注意点

領収書を電子化して運用する場合には、注意点が3つあります。重要な点なので、あらかじめ頭に入れておきましょう。
●税務署からの承認が必要
領収書の電子化は、すぐに実現できるわけではありません。紙で保存していた領収書を電子データでの保存に移行するためには、事前に税務署に申請し、承認を受ける必要があります。国税庁のWebサイトから申請書をダウンロードし、必要事項を記入して、データ保存を開始する3カ月までには税務署に申請しなければなりません。
●撮影した書類はすぐに廃棄できない
電子データとして保存するために撮影した紙の領収書は、撮影後すぐに廃棄できるわけではありません。これは、領収書の画像と紙の原本を比べて、正しく電子データ化できているかを確認するためのルールです。破棄できるのは、税理士などの第三者による電子データの確認後と決まっています。
●電子データには「タイムスタンプ」が必要
領収書の電子データには「タイムスタンプ」と呼ばれる電子署名が必要です。これは撮影した時刻を証明するために必要なデータで、タイムスタンプの発行は、認定された事業者が行うことになっています。会計システムの中には、データをアップロードすると自動的に「タイムスタンプ」が付与されるものもあります。
領収書の受領者本人が電子化する場合の期限は、受領後3日以内と定められていて、その間に「タイムスタンプ」を付与し、電子化を完了させる必要があります。
ただし、海外出張でインターネットが使用できずアップロードできない、会社が長期休業に入る前日に領収書を受領し、スキャナを使用できなかったなどの「やむを得ない事情」がある場合は、3日間を過ぎても電子化が認められるケースがあります。ただし、あくまでも原則は3日間ということを覚えておきましょう。
電子データ化する方法

領収書の電子データ化は、以下の方法があります。
- スキャナを活用する
- PDFを作成する
- 電子領収書発行システムを活用する
- 紙媒体での領収書発行をすべて電子取引にて行う
紙媒体の領収書はスキャナで読み取り、PDFファイルなどの形式で電子データ化が可能です。
また、WordやExcelで作成された領収書はPDFファイルの形式にして、電子データ化できます。
自社や取引先が紙媒体の領収書発行をやめることができる場合は、電子取引が行えるようになります。
電子データでの領収書のやりとりが可能な場合は、電子領収書発行システムの活用が可能です。
クラウド会計システムとの併用でさらに便利に

領収書の電子化は、クラウド会計システムと相性が良いことが知られています。クラウド会計システムを選ぶポイントと併せてご紹介します。
●クラウド会計システムと電子化の相性
クラウド会計システムとは、Web環境を利用して、インターネット上で会計処理を行うシステムです。クラウド会計システムと領収書の電子データを併用すると、領収書をスキャンするだけで、電子化した明細を会計システムに自動登録できるようになります。
また、クラウド会計システムの中にはタイムスタンプの付与や管理が可能なサービスが登場しています。そのため、わざわざ認定事業者に頼ることなく、データ化した書類に事業者側でタイムスタンプを付与することが可能になりました。
タイムスタンプの一括検証に対応したサービスでは、一度付与されたタイムスタンプがその後、改ざんされていないかどうかをチェックすることもできます。法律の定める保存期間は通常7年と長期間にわたるため、保存された明細が有効かどうかを素早く確かめる手段としても、クラウド会計システムは優れています。
●クラウド会計システムを選ぶポイント
クラウド会計システムを導入する際は、自社がどのような機能を必要としているのかを整理した上で選びましょう。スマホからの経費登録に対応しているか、タイムスタンプの付与や一括検証機能があるかどうか、ほかの会計サービスと連携ができるかなどがチェック項目として挙げられます。
業務コストの大幅改善を実現する領収書の電子化
メリットの多い領収書の電子化ですが、1998年に施行された当初は、条件が厳しすぎたことで普及しませんでした。 徐々に規制は緩和されていますが、まだ一般的ではありません。領収書への自署や3日以内の電子化が必要というルールが、システム導入の阻害要因になっているといわれています。
しかし、領収書を電子化することによって業務コストの大幅改善を実現できるというメリットは大きく、電子化の流れが加速するのは間違いないでしょう。オフィスのペーパーレス化を見据えて、領収書の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
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