「目指したのは、単なる基幹システムの移行ではなく、DX」。そう語ったのは、総合印刷サービスを展開する株式会社セントラルプロフィックスの大嶋一矢氏だ。オンプレミスの基幹システムをクラウドへ移行するために、フルスクラッチでのマイグレーションを決行。データの可視化や社内連携を強化することで、“ものづくり”そのものの強化を目指す。プロジェクトを進めるうえでは、DXという将来像を思い描きながら、着実にタスクを推進できる開発会社が必要だった。
大嶋氏とともに、本プロジェクトの開発を担った株式会社Undershaftの取締役 伊藤一記氏にインタビューし、プロジェクトの発足の背景から、発注ナビでの両社の出会い、請負開発を進めた感想まで詳しく伺った。
多様な印刷ニーズに応える総合印刷会社。古い基幹システムが、DXの足かせに
株式会社セントラルプロフィックス
執行役員 大嶋一矢氏
―― セントラルプロフィックス様の事業について教えてください。
株式会社セントラルプロフィックス 大嶋氏：当社は総合印刷サービスの会社として最新鋭の設備と長年にわたり培ってきた技術を活かし、お客様のさまざまなニーズに応える高品質な印刷ソリューションを提供しています。特に、大手企業様の広告宣伝やエンターテインメント系の印刷物に強く、ポスター、リーフレット、映画プログラム、入場者プレゼント、ポップアップバナー、パネルのほか、ブランドブックなども数多く手掛けています。印刷業界は斜陽産業とも言われますが、このような逆風にも負けず、業績を伸ばしています。
―― 今回、発注ナビへご依頼したのはどのような案件でしたか。
大嶋氏：具体的には、案件情報を管理する基幹システム（MIS）のマイグレーションになります。特に印刷業界の基幹システムは、単なる案件管理や収支管理に留まらず、製版～印刷～加工などの生産管理の側面も持ち合わせなくてはなりません。従前は、オンプレミスサーバーでFileMakerをベースとしたパッケージ製品を使っていましたが、カスタマイズを繰り返したためにFileMakerのバージョンアップに追従できない状態でした。私は2年前に入社したのですが、あまりに前時代的で驚いたほどです。
当社にはITソリューションを担う立場で参画しており、当初からDXを進めることを目標の一つに掲げていました。データドリブンや情報の可視化を進め、ものづくりを強化するにはDX推進しかない、と。しかしながら、旧基幹システムではこの領域に到達できないレベルなので、フルスクラッチで作り直すことを考えていました。
●今回開発した基幹システムのロゴ
クラウド移行の開発フェーズを任せたい。複数社を比較するために、発注ナビを利用
―― フルスクラッチで開発ということですが、パッケージ製品は検討しなかったのですか。
大嶋氏：印刷業界向けのMISのパッケージ製品があることは存じており、実際に当社のグループ会社ではそうした製品を導入しています。一方、当社は日頃の業務が多様なことから、独特のロジックやワークフローを多く取り入れているため、パッケージ製品を選択した場合には相当量のカスタマイズを敢行することになります。
そこで、これを機に現場の課題などもヒアリングして必要な機能を洗い出し、全体的な棚卸をしたうえで、当社の業務にマッチする基幹システムをフルスクラッチで作り上げたいと考えました。
―― 本件を発注ナビにご依頼するまでの経緯を教えてください。
大嶋氏：要件定義や基本設計は私自身が進められるため、その先の開発・テスト・リリースまで伴走してもらえる開発会社を探していました。知り合いの開発会社にも相談しましたが、できるだけコストを抑えるために複数社から相見積もりを取りたいと思い、発注ナビを利用しました。
発注ナビからは、かつて前職で開発会社にいた際、「開発会社として掲載しないか」という提案をもらったことがあります。私は当時の直接的な担当ではありませんでしたが、その際に資料などを見て仕組みを知っていたので、安心して問い合わせができました。
今回は6社紹介いただき、最終的にUndershaftさんへ発注しました。
●今回開発した基幹システムの概念図
難易度が高いからこそ技術力を活かせる。半年近く議論を重ね、信頼関係を築く
―― Undershaft様の事業について教えてください。
株式会社Undershaft 伊藤氏：当社はアジャイル開発を中心にシステム開発を手掛けており、上流工程から設計・開発、PoC、運用保守まで一気通貫で対応できることを強みとしています。社員のほかは、直接契約のエンジニアのみで対応しており、レベルの高いエンジニアを揃えていると自負しています。一つの開発案件に関わって終わりではなく、開発後も事業パートナーとしてお客様へ中長期的な支援ができる存在を目指しています。
―― 今回の案件にエントリーした理由をお聞かせください。
伊藤氏：最初に公開された情報を見て、「既存の基幹システムに課題があり、移行・刷新したい」というのは難易度の高い案件だなと思いました。ただ、簡単な案件ではどうしても価格競争になりがちですが、難易度が高ければ、そうはなりません。今回は、提示された要件などを見ただけでも、発注者がITに精通しており、しっかり開発を検討していることが分かりました。
実際にお会いした大嶋様は予想通りの方で、社内の状況や中長期的な構想を伺い、そこから何をやるべきか、半年ほどかけて議論を重ねていきました。
大嶋氏：RFPをお出しするまで、それくらいかかりましたね。実は発注ナビに依頼した時点では、まだ予算化できておらず、社内調整に時間がかかったところもあります。RFPを作成したときにはUndershaftさんに頼もうとほぼ決めており、「Undershaftさんならここから先は任せられる」とイメージしながら作成していました。
発注先の選定はセキュリティ要件を重視。DXに踏み込んだ提案力も決め手に
―― Undershaft様への発注を決めた理由を教えてください。
大嶋氏：当社は前出のとおり広告宣伝の案件を多く手掛けているため、公開前の重要な情報を扱う機会が多くあります。たとえば、未発表のコンテンツに基づいたポスターやグッズの制作など、取り扱う情報に秘匿性が高いのが特徴です。
そのため今回のプロジェクトでは、開発を担当する会社にも厳格な情報管理体制を求めました。セキュリティに関する基準や体制が明確で、当社の求める機密管理レベルを満たすかどうかは、パートナー選定における重要な判断軸となりました。
また、今回の開発では上流工程を内製で進めるため、上流から下流まですべての工程に対応するウォーターフォール型の提案ではなく、必要な工程に対して柔軟に対応できる開発体制を求めていました。その点で、Undershaftさんは当社の体制を深く理解したうえで、DXの視点を取り入れた提案をしてくれたことが決め手となりました。
どの開発会社にもDXの全体像についてお話ししましたが、Undershaftさんは伊藤さんが大手コンサルファームの出身であることもあり、システム開発だけではなく、DXまで一歩二歩踏み込んだ話ができました。長期にわたるプロジェクトであっても、Undershaftさんとならやっていけると確信したことが決め手です。2024年の4月から準委任契約の設計支援に入ってもらい、この成果物をもとに9月から請負開発をスタートしました。
伊藤氏：要件定義・設計という言葉も、開発会社の解釈に委ねられているところがあるので、見積もりでは透明性を大切にしています。提示いただいたRFPは「ここまで作れるなら、なぜご自身で開発しないのか」と思うほど完璧なクオリティでしたし、依頼したい作業や中長期的に目指すところなども明確になっていたことから、その中で自分たちができることを提案しました。システム開発では、作った後に「思っていたものと違う」となってしまうのが怖いのですが、ここまで用意されていればその可能性は低いと思い、自信をもって受注できました。
予定や役割も柔軟にアレンジしながら、ワンチームとなって成功を目指せた
―― 今回の開発は、全体的にいかがでしたか。
伊藤氏：外部のBIツール連携など、一部Undershaft側では触れない領域がありましたが、ある程度柔軟性をもった契約としていたため、担当箇所を入れ替えたりしながら、ワンチームとなって最適な動きができました。当初の予定や役割もアレンジしながら、お互いが成功にコミットできたプロジェクトだったと感じています。
大嶋氏：Undershaftさんとの関係で困ったことはまったくありませんでした。プロジェクトマネージャーの方も含め2～3割の内容を伝えれば、すべてが伝わるような感覚で、とてもやりやすかったです。むしろ、苦労しているのは社内調整の方で、既存の業務フローや社内ルールとのすり合わせに時間がかかった影響で2025年4月のローンチ予定が遅れています。現在、業務フローに対応するための改修をお願いしていて、2ヶ月遅れの6月のローンチを目指しています。
今後は、内製化を進めつつ、自動化やスマートファクトリー化などDXを加速させる
―― 発注ナビを使った印象を教えてください。
大嶋氏：発注ナビは管理画面なども使いやすく、全体的に好印象です。紹介された開発会社とのやり取りも、メールなどではなく発注ナビの管理画面内で完結できるのが特にいいですね。お断りする場合も、対面やメールではやりづらいところがありますが、管理画面の「お断りボタン」一つでできるのも、心理的な負担が少なくて済みます。
今回は6社の紹介を受けましたが、中にはこちらの意図がうまく伝わっていないのではと感じる提案もありました。こういったところは相性も大きいと思うのですが、その相性を探るうえで、発注ナビは有効だと思います。
―― それぞれの今後の予定をお聞かせください。
大嶋氏：基幹システムをクラウド化して、BIツールでデータを可視化するための礎を築くところまで到達しました。次は、『RPA/AIなどによる在庫管理の自動化』と、『外回りが多いルート営業の方がスマートフォンから基幹システムのデータを登録・更新できるスマホアプリの開発』にも着手したいと考えています。そのうえで、最終的には自社工場のスマートファクトリー化まで目指したいですね。
今回は、基幹システムとデータベースを密結合ながらも切り分けており、可視化のためのBI連携は内製できる環境が整いました。並行してIT人材の採用も模索しており、ラボ型開発やSESの活用を含めて、システム開発の内製化を進めていければと考えています。
こうした取り組みの一つの目標として、経済産業省が実施する『DXセレクション』でのグランプリ受賞を目指します。受賞が話題になれば、人材定着や新規採用にもつながりますので。
伊藤氏：大嶋様は内製化を掲げていることから、私たちがお手伝いできる範囲は限られるかもしれないのですが、大型アップデートなど、内製ではどうしても対応しきれないところが出てくると思います。足りないところが出たときのリスクヘッジとして、Undershaftもうまく使っていただければと思います。
―― ありがとうございました。
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