医療分野において、AI技術の導入は急速に進展しており、その役割は日々拡大しています。医療AIは、画像診断や手術支援、医薬品開発に至るまで幅広い領域で活用されており、医療の質の向上や業務の効率化に寄与しています。また、AI技術の進化によって、医師不足や地域医療の格差といった課題の解決にも期待が寄せられています。
本記事では、医療AIの基本的な定義や役割、さらに導入のメリットや注意点、最新のトレンドに至るまで、医療AIに関する基礎知識をわかりやすく解説します。
目次
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医療AIとは?
医療AIを活用するうえで土台となる、医療AIの定義や医療分野における役割・重要性などの基礎知識について解説します。
●医療AIの定義
医療AIとは、機械学習や深層学習、自然言語処理、画像認識といったAI技術を医療分野に応用し、医療の質の向上を目指した取り組みのことです。医療AIはゲノム医療や画像診断、手術支援、治療企画の立案、医薬品の開発、介護など幅広い領域で利用されています。AIが人間の知能や学習能力を模倣したり、医療データの分類・分析を行ったりすることで、業務の効率が向上。さらに、医師不足による都市部と過疎地域の医療格差の是正につながる可能性もあるとして注目されています。
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AI技術を用いて医療の質の向上を目指す取り組み
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医療分野における幅広い領域で利用が可能
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AI技術の活用によって業務の効率化や向上を実現
●医療分野でのAIの役割と重要性
医療分野におけるAIの役割としては、画像診断支援や診断・治療支援、医薬品開発、手術支援などが挙げられます。その中でも特にAIの活用が進んでいるのが、画像診断支援です。AIによる画像診断によってMRI画像やレントゲンの異常部分を検知でき、疾患見逃しの減少や早期発見、医師の作業削減などにつながるとして期待が寄せられています。
厚生労働省が発表した「保健医療分野におけるAI開発の方向性について」では、AIの活用により期待される成果として以下の3点を掲げています。
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全国のどこからでも最先端の医療を安心して受けられる環境の整備
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医療・介護従事者の負担を軽減して患者の治療などに専念できるようにする
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新たな治療方法や診断方法の創出
これらの成果により、現在の日本の医療現場が抱えている医療従事者の不足や地域による医療格差、医師の過重労働、ヒューマンエラーなどの課題解決につながると考えられています。
出典:厚生労働省「保健医療分野におけるAI開発の方向性について」
●現在の医療AIのトレンド
AIの深層学習の弱点を補う技術として注目されているのが、現在研究が進んでいるXAI(説明可能なAI/エックス・エーアイ)です。XAIとは、AIがデータを分析して結果を出力した際に、いかにその結果に至ったのかを説明できる技術を指します。これまでのAIは膨大なパラメーターからコンピュータ自身が、機械学習アルゴリズムが学習するための入力データ個々の要素である特徴量を選択して学習を行っており、結果に至る過程を人間が理解することは基本的にできませんでした。
ただ、それだとAIによる動作で何らかのトラブルが生じた際に、AIの判断の根拠を説明できないとトラブルに関する責任の所在があいまいになってしまいます。特に医療分野は患者に病気の内容や治療法について説明する必要があり、命にかかわることも少なくないため、診断結果の理由を明確にするXAIが注目されているわけです。
また、膨大な保険医療データの収集・分析にAIを活用することにより、適切な医療や介護サービスの提供をはじめ、医薬品の安全性の向上、新薬開発などにつながるのではないかと期待されています。
医療AIのメリット
医療AIを導入するメリットとしては、業務の効率化や医師の働き方改革の促進、医療の精度や患者満足度の向上、医療資源の最適化が挙げられます。それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
●業務効率化が図れる
医療AIは電子カルテの情報抽出や医療画像の解析などを得意としており、診断支援や事務作業の自動化によって業務の効率化を図れます。例えば、病歴や検査結果などのデータを自動分析して診断や治療をサポートしたり、カルテの作成を支援したりすることが可能です。そのほかにも、受付業務やレセプト作成などの事務作業もAIで自動化でき、医師や看護師、事務職員などの業務負担の軽減や労働環境の改善につなげられます。
医療AIの導入によって業務の効率化や自動化を進めることにより、これまでよりも多くの時間を患者のケアや診療に費やせ、医療サービスの質の向上やコスト削減を目指せるというメリットもあります。また、手入力や手書きではないため、入力ミスや読みにくい文字を誤読するといったケースも減らせるでしょう。
●医師の働き方改革の促進
日本の医療現場では医師の長時間労働が常態化しており、過酷な労働環境が問題視されていました。そこで医師の長時間労働の改善および健康を確保するために2024年4月に医療法が改正され、時間外労働の上限規制が盛り込まれています。
医療現場では時間外労働の大幅な削減が求められることから、医師の業務の負担軽減や業務の効率化が急務となっています。診断や治療のサポートを行える医療AIの導入は、医師の働き方改革を促進するための取り組みとして有効です。また、問診やカルテの作成などを自動化することで業務の効率化や患者への支援の拡充などを図れ、生産性の向上効果も期待できます。
●医療の精度向上
医療AIを活用すれば膨大な医療データを迅速に解析でき、時間をかけずに精度の高い診断を行えるのが強みです。医師が見落とした異常パターンやリスク因子をAIが検出することで、病気の早期発見や治療につなげられるのはもちろん、医療過誤の防止や患者の健康状態の改善にも役立つというメリットもあります。また、患者の医療データを詳細に分析して最適な治療方法を提案することもでき、医療の精度や質の向上にも医療AIを活用できるでしょう。
●患者の満足度向上
医療AIを導入して高精度な診断を迅速に行える体制を整え、さらに最適な治療方法の提案や医療過誤の防止に取り組むことで患者の安心感と信頼を獲得できます。また、特に複雑な症状や状態の場合は、人間が判断するよりも時間をかけずに診断できるので患者の待ち時間も短縮され、患者満足度の向上にもつながります。
そのほか医療AIを使って遠隔地からでも専門的な診断や最適な治療を提供できるようになれば、問題となっている地域間の医療格差の解消にもなるため、いっそう医療AIの進歩や浸透が期待されているのです。
●医療資源の最適化
高齢化に伴う医療需要の増加や少子化による医師のなり手不足を解決する手段として、AIによる医療資源の最適化が期待されています。
例えばAIの活用で膨大なデータの解析や定型業務を自動化できれば、医療機関の運営の効率化とコストの削減を実現できます。さらに、AIを利用して入院患者のリスクを予測し、重症度や予後の悪い患者に医療資源を優先的に配分することも可能です。
このように医療資源の有効活用や効率的な配分によって、より多くの患者に質の高い医療を提供できるようになります。
医療AIの導入方法と注意点
医療AIはただ導入すればいいというものではなく、適切なAIツールの選定や効果的に活用するための準備が重要になってきます。また、導入にあたって注意すべき点もあるので、導入前にしっかりと把握しておきましょう。
●導入の流れ
医療AIをスムーズに導入するには、以下のポイントを押さえておく必要があります。
導入前に自院のニーズを明確にし、適切なAIツールを選定
医療AIを導入する前に、自院が抱えている課題を整理し、医療AIの導入が本当に必要かどうかを検討しましょう。例えば小規模な病院や個人経営のクリニックの場合、医師1人にかかる負担が大きくなりやすいため、医療AIの診断・治療のサポート機能によって業務負担を軽減できます。また、十分な診療・検査体制を整えている大規模な病院でも検査数の増加によって見落としのリスクが高まるため、医療の質を維持するための対策として医療AIの導入は有効です。
現場の状況や施設規模を踏まえたうえで現在の問題点や改善点を明確にし、必要とされる機能をリストアップしましょう。そのうえで必要な機能を備えた医療AIツールを調べ、費用対効果の検証をはじめとするさまざまな観点から検討しながら、適切なAIツールを選定します。
AIを活用するためのシステムインフラを整備
医療AIを導入するにあたって、運用に必要なハードウェアやソフトウェア、ネットワークといったインフラを整備しましょう。また、AIツールの活用や管理を適切に行える人材の確保も欠かせません。ツールを使いこなすためのAI教育を行うほか、メーカーのサポート体制も重要になります。発展の余地が多く残されている医療AIだからこそ、AIツールを選定する際は機能を適宜ブラッシュアップできるサポート体制が整っているかも確認しましょう。
そのほかにも、AIを活用するにあたって患者のプライバシー情報を含むデータを取り扱うことになるため、強固なセキュリティは必須です。個人情報の中でも、病気やケガに関するものは特にプライベートな情報となるため、漏えいは絶対に阻止しなくてはなりません。
●活用時の注意点
医療AIの導入によって患者の個人情報がオンラインで取り扱われることが多くなるため、データのプライバシー保護と適切なセキュリティ対策が必須です。医療ビッグデータの利用に関する法律も施行されたので、法律を遵守した運用が求められます。
また、AIを活用するうえで、内部の動作や意思決定のプロセスが不透明な点にも注意してください。診断や治療の根拠が不明確だと、命を預かる医療現場においてはリスクとなるので、AIの診断にうのみにせず、専門知識を持った医師や看護師などが確認・判断することも重要になってきます。
AIの診断結果はトレーニングデータとアルゴリズムに依存するため、使用するデータセットの公平性とアルゴリズムの透明性を確保するようにしてください。
医療AIの活用事例
医療AIを効果的に運用するには、ほかの医療機関での活用事例を知ることも大切です。注目したい医療AIの活用事例をピックアップして紹介します。
●膀胱内視鏡診断システムなどの成功事例
医療AIによる診断支援技術を研究している産総研人工知能研究センターでは、内視鏡検査や病理診断、乳房超音波検査を主な研究対象としています。その中でも膀胱内視鏡の診断支援システムの研究において、2020年と2021年に日本泌尿器科学会総会・総会賞を受賞。「白色光およびNBIにおける深層学習に基づいた膀胱内視鏡診断システム」と「ハンナ型間質性膀胱炎の内視鏡診断支援システム」をテーマとした研究で、いずれも製品化にはまだ至っていません。ただ産総研人工知能研究センターでは数年先の活用を目指した技術の研究開発を行っており、実用化が待たれます。
●外科手術や放射線治療でのAI活用例
新潟大学の医学部保健学科では、宇都宮准教授を中心にがんの放射線治療におけるAI技術を活用したアプローチの研究に取り組んでいます。人為的に発生させたエラーを含む大量のデータをAIに学習させることで、これまで多くの時間と労力を費やしてきた異常発生時の原因の早期解明が可能に。さらに線量分析の測定データからパターンを抽出して効率化を図っており、精度の向上も実現しています。
現在は現場の放射線技師や医学物理士とも連携を図りながら複数のAIソリューションを組み合わせたシステムの構築を進めており、AI技術の応用による検証作業の自動化を目指しています。
参照:新潟大学ウェブマガジン Evergreen「人工知能(AI)技術を応用し高精度放射線治療の発展に貢献する」
●AI問診の導入で業務の効率化や医療資源の最適化を実現
沖縄県本島南部および離島の3次救急を担っている浦添総合病院では医療サービスの質の向上と働き方改革に取り組んでおり、その一環としてAI問診を導入しています。
これまでの紙による問診では患者の記入が済んだ問診票を確認後、看護師による追加の問診やカルテへの記載が必要となり、医師の診察までにタイムロスが発生していました。AI問診の導入によって患者の症状に応じた質問の出し分けができるようになり、従来の画一的な問診よりも詳細な問診が可能です。カルテへの転記作業もコピー&ペーストで完了するため、業務負担の大幅な軽減や効率的な診療を実現しています。
また、問診担当看護師制度を廃止して患者支援やリリーフナース制度を新たに導入し、人員の最適化や患者への支援の拡充の両立も叶えています。
参照:PRTIMES「『医療の2024年問題』に向け問診時間を1/2に短縮し院内全体の働き方改革を実現」
自院にあった医療AIを導入して業務効率化へ
医療AIを活用して業務の効率化を実現するには、適切なシステム開発会社の選定が重要です。自院の課題やニーズを明確にしたうえで外注するシステム開発会社を選ぶことで、スムーズな導入を図れます。
ただ、自院に合ったAIやシステム開発会社を選ぶにはノウハウも必要となり、システム開発の依頼経験がないとAIや開発会社を探すのは大変です。「自院に合ったシステム開発会社を選定して医療AIを効果的に活用したい」「業務の効率化に急いで取り組みたいので選定になるべく時間をかけたくない」とお考えのご担当者様は、発注ナビのご利用をぜひ一度ご検討ください。
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