近年、さまざまな企業や業界がAIを導入しており、AI技術はより身近なものとなっています。業務の効率化やコスト削減などを図るために自社でもAIを搭載したシステムの開発を検討しているご担当者様もいるはずです。ビジネスにAIをうまく活用するためにも、AIの基礎知識や導入事例などを押さえておきましょう。
本記事では、AIとはそもそもどういったものなのかをはじめ、AIの種類や業界別の導入事例、AIの将来性などについて解説しています。
目次
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AI(人工知能)とは?
AIとは「Artificial Intelligence」の略称で、「人工知能」と訳されます。人工的に作られた知能を持つコンピュータシステムやソフトウェアを指しますが、AIに関する明確な定義はありません。大まかにまとめれば、AIとは「人間と思考プロセスが同じような形で動くプログラム」または「人間が知的と感じる情報処理や技術」と捉えることもできるほか、「人間の知的行為の一部を、ソフトウェアを使って人工的に再現したもの」としても広く認識されています。
●AIの特徴
AIは自分で学習し、認識・理解をすることができます。この認識や理解といった学習力を用いれば、問題の解決だけでなく予測や計画の立案といった人間の知的活動を行うことが可能です。
例えば、通常のコンピュータは「値が1以上だった場合はAの行動」、「0だった場合にはBの行動」、「-1以下だった場合にはCの行動」というように、設定されている動きしかできません。しかし、AIを搭載したコンピュータは、その時々に応じて臨機応変に判断し、対応する特徴があります。
●身の回りのAI技術
AIはこれから先の未来の技術という印象を抱きがちですが、すでに身の回りには多くのAI技術が活用されています。
例えば、コールセンターではAIの自動音声認識を活用し、質問を自動で返すシステムやチャットボットの導入が進められています。コールセンター内部では、自動音声認識によってオペレーターへ迅速につないだり、自動でテキストを書き起こしたりといった補助機能も活用されており、品質の向上を促進しています。
また、AIによる株取引の自動化も進んでいます。最も適切なタイミングでの買い注文や売り注文を、AIが膨大なデータから自動的に予測します。人間の「もっと儲けたい」「損をしたくない」といった感情から冷静な判断が不可能な場合もありますが、AIを活用することでデータに基づいた客観的な判断を行うことができます。
AIチャットボット
2022年末に発表され、注目を集めている「ChatGPT」が代表的なAIチャットボットの一つです。
OpenAIによって公開されたChatGPTは、ユーザーが入力した質問に対して、AIがまるで人間のように自然な文章で回答することが可能です。質問に対する回答の速度、精度ともに優れており、ユーザー数はリリース後わずか2ヶ月で1億人を突破しました。2023年3月には、より性能が向上した「GPT-4」がリリースされ、有料プランであるChatGPT Plusに課金したユーザーが利用できるようになりました。従来のChatGPTが文章対応のみに対し、「GPT-4」は今後、文章だけでなく画像や音声など、形式にかかわらず内容を理解し、文章化することが可能なモデルになる予定です。
ChatGPTは、「GPT」という言語モデルがベースになっています。GPTモデルは元々、小説の自動生成やゲームの会話など、自動で文章を生成する目的で開発された言語モデルです。インターネット上にある膨大な情報を事前に学習することによって、テキストで指示を与えると高品質な文章を生成し、質問の応答や要約をするなど多様な対応が可能です。
AIチャットボットは、ChatGPTだけでなく、LINEでChatGPTが使える「AIチャットくん」や「Claude」「新しいBing」などさまざまなサービスに用いられています。
音声アシスタントAI
私たちの身近なものであるスマートフォンに搭載されている「音声アシスタント機能」もAIが活用されています。
代表的なものは、Apple社のiPhoneに搭載されている「Siri」や、Androidスマートフォンの「Googleアシスタント」などです。音声アシスタントAIは、まず、スマートスピーカーやスマートフォンに話しかけられた言葉をAIが認識し、どのような言葉が発せられたのかを捉えます。次に、捉えた内容を分析して処理した結果をテキストにし、音声によってユーザー返答する仕組みになっています。
画像生成AI
画像生成AIとは、人間がテキストで指示をすると自動で画像を生成することができるAIのことを指します。
指示をする際のテキストのことを「プロンプト」と呼びます。例えば、「犬」「飛んでいる」といったプロンプトを入力すると、まるで犬が空を飛んでいるような、現実では起こり得ない画像の生成が可能です。
画像生成AIは、まず、AIが入力されたテキスト(プロンプト)を分析し、事前に学習しているデータの中から画像の特徴を探し出します。学習した画像データにノイズを与えて変動を起こすことによって、指示にあった複数の要素を組み合わせ、学習済みのデータに似た画像を生成するという仕組みです。
AI予測ツール
AI予測ツールは、AIの技術を活用し、ユーザーの行動履歴を記録したデータや過去の取引データなどといった大量のデータをもとに、将来の事象を予測するツールです。
AI予測ツールは、大きく分けて2つの役割があります。
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将来起こる事象:これまでのデータをもとに、予測対象がどのような行動をするか
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過去に起きた事象が再度発生する可能性:過去のデータを参考に、同じようなことが今後起こるか
AI予測ツールは、株取引の需要予測や、ECサイトを訪れた際の行動データをもとにおすすめの商品を表示する機能などに用いられています。
医療AI
医療AIとは、AIを使用して医療の質や診察の効率化などを図ることをいいます。
利用領域は多岐にわたり、以下の領域で活用されています。
-
ゲノム医療
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診断(問診や画像診断など)
-
治療(手術の支援や治療計画の立案)
-
医薬品の開発
-
介護
上記の中でも、特に画像診断の分野で医療AIの技術が進んでおり、医師の作業効率化に役立っています。
AIの種類
AIの種類としては、主に「特化型人工知能」「汎用人工知能」「人工超知能」「生成AI」の4種類に分けられます。
AIの種類 | ||
---|---|---|
名称 | 概要 | 具体的な用途 |
特化型人工知能(ANI) | 特定の領域に特化して能力を発揮するAI | 囲碁、チェス、自動運転 |
汎用人工知能(AGI) | さまざまな用途を想定した汎用的なAI | 自己制御や自己理解を行うコンピュータ |
人工超知能(ASI) | 人間の知能をも超えるAI | 人間が不可能なアイデアを生み出す |
生成AI(ジェネレーティブAI) | オリジナルコンテンツを生成できるAI | コンテンツ生産、創造的なアイデアの提案 |
●特化型人工知能(ANI)
特化型人工知能とは、特定の領域に特化して能力を発揮するAIのことを指します。ANIは「Artificial Narrow Intelligence」の略称です。すでに人間を超える能力が証明されている分野であり、囲碁やチェス、将棋などでは、AIが人間のプロプレーヤーに勝利して話題になっています。また、トヨタ自動車やGoogleなどの企業では、自動運転技術の研究が進められています。自動運転技術だけでなく、前述で紹介したコールセンター業務での例なども、個別の領域のみで使用される特化型人工知能の一種です。
●汎用人工知能(AGI)
汎用人工知能とは、一つの分野だけでなく多岐にわたる領域で多彩な問題を解決するAIのことを指します。AGIは「Artificial General Intelligence」の略称です。人間のように自己制御や自己理解を行うコンピュータで、設定時の想定を超えた事象が起こっても対応可能な解決力を有します。SF映画やフィクションの世界では、「人間と対等に会話をするロボット」などがしばしば登場しますが、これも汎用人工知能の良い例だといえます。
●人工超知能(ASI)
人工超知能とは、その名のとおり人間の知能や行動を学習したうえで理解し、さらにそれを超えるAIのことです。ASIは「Artificial Super Intelligence」の略称です。
人工超知能は、人間が思いつけないアイデアを生み出すことが可能で、人間よりも問題解決能力や判断力が優れているといわれています。社会問題や環境問題などといった、現時点では人間が解決することが困難な問題の解決策の提示に期待が高まっています。その一方で、人間の知能をも超えるという観点から、法の整備や世界レベルでの規定が必要とされているのが現状です。
●生成AI(ジェネレーティブAI)
生成AIはユーザーが入力したデータと膨大な学習データをもとに、テキストや画像、動画、音声などのオリジナルコンテンツを生成するAI です。生成AIの代表例としては、ChatGPTが挙げられます。生成AIがオリジナルコンテンツを生成できる理由は、AI自らが学習する深層学習(ディープラーニング)という技術が搭載されているためです。膨大な学習データから抽出したパターンや規則性をもとに新たなデータを生成することにより、状況に応じた柔軟な判断や回答を可能にしています。
生成AIはコンテンツの大量生産や創造的なアイデアの提案を得意としており、キャッチコピー案やブログ記事のテーマなど制作業務との相性が良く、プログラミングのコード・関数を含むテキストの生成も得意分野です。
AIのレベルと4段階の機能
人工知能は機能によって、以下の4つのレベルに分けることができます。
AIのレベル | ||
---|---|---|
レベル | 概要 | 搭載されているもの |
Level1 | 設定されたことのみを行う | 自動調節機能が付いた冷蔵庫やエアコン |
Level2 | 多彩な動きや判断ができる | 掃除ロボット、チャットbot |
Level3 | 自動的にパターンとルールを学ぶ | 検索エンジン |
Level4 | 学習に必要なサンプルを自動で収集する | 自動運転機能搭載の自動車 |
●Level1.単純な制御プログラム
制御工学やシステム工学などの分野で用いられている、設定されたことのみを行うコンピュータが、最も単純なAIのレベルにあたります。主に家電や簡易的なコンピュータで利用されており、普段の生活において体験できるAIです。
単純な制御プラグラムは、家電製品で幅広く活用されています。例えば、気温の変化や省エネのレベルに応じて自動で温度・湿度を調整するエアコンや、中に入っている食材に合わせて最適な温度調節をする冷蔵庫などがすでに発売されています。これらは、「人工知能搭載エアコン」や「人工知能搭載冷蔵庫」など、「人工知能搭載◯◯」という紹介がされることが多いです。このようなキャッチコピーは、新しい家電好きの方や、効率的で便利な家電が好きな方への効果的なアピールだといえます。
●Level2.これまで一般的だったAI
従来は、設定されたプログラムに応じて、一つの動作ではなく多彩な動きや判断が可能なコンピュータが一般的でした。判断のもとになる大量の知識が集積されたデータベースを備えているのが特徴で、将棋や囲碁、チェスのプログラムがこのレベルに該当します。そのため、同じ箇所に同じ駒が打たれたとしても、その時の状況によって異なる判断が可能です。
これまで一般的だったAIは、特化型人工知能に当てはまります。将棋や囲碁、チェスといったプログラム、コールセンター業務で質問に答える人工知能(音声認識、文字認識)など、ルールを教えることで一つのことに対応できるよう特化させた人工知能です。
AIを搭載した掃除ロボットが代表的なものの一つで、人気を集めています。自動で床掃除をしてくれる掃除ロボットは、センサーによって部屋の形状や家具の配置を理解し、学習しながら効率的に漏れなく掃除するルートを選択します。
●Level3.自動的に学習するもの
相応のサンプル数から、自動的にパターンとルールを学ぶことができるレベルです。自分で考え、適切なものを選択できます。学習に必要なサンプルは人間が用意しますが、その後はコンピュータが自分でパターンやルールを学んでいきます。
GoogleやYahoo!などの検索エンジンは、ある程度のサンプル数から自動的に学習するAIの代表的なシステムです。Webサイト内のテキストやテキストの量、単語と単語の距離といったさまざまな情報から、質の低いコンテンツや有害コンテンツを見分けて検索ランキングの順位を下げたり、反対に質の高いコンテンツはより多くの方に読まれるように順位を上げたりします。検索エンジンは自動的に学習しており、ほぼリアルタイムで毎日自動的に変更が行われています。学習に必要なサンプルさえあれば、さらに良い判断が可能です。
●Level4.学習に必要なサンプルを自力で獲得・学習できるもの
さらに上のレベルのAIは、学習に必要なサンプルやパターンまで自分で収集することが可能です。AI自らが集めた情報から学んだデータを知識データとして積み重ね、最適解を導き出します。高度な分析機能が求められ、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる機械学習技術が必要です。サンプルやパターンまで自分で収集し、知識を取り入れるレベルのAIは、人工知能の目指すべきゴールだといえます。
また、研究機関によってはさらに上の段階として、Level5を設けるケースもあります。こちらは、人間と同じように思考し振る舞いを行える人工知能が該当します。
参考:松尾豊『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA 中経出版)
参考:オルタナティブ・ブログ「【図解】コレ1枚でわかる AIと言われるもの」
AIの学習パターン
AIが学習するパターンは、以下の2種類に分けられます。
-
機械学習:AIにおける学習のこと。機械自身が学習するという意味が込められている。
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深層学習:多層化したニューラルネットワークを用いた機械学習の手法。
●機械学習
機械にデータを学習させることによって、さまざまな課題に対処できるようにすることを機械学習といいます。AIを支える技術の中では、重要な役割を担っており、後述の深層学習も機械学習の手法の一つです。膨大なデータから法則性や特徴を導き出し、それをもとに予測や判断を行うのが機械学習の特徴です。機械学習は、以下の3つの学習方法に分けられます。
教師あり学習
教師あり学習とは、入力データに対して理想的と考えられる出力のことを指す、「教師信号」を与えることによってAIを一つの方向に学習させることです。この学習には、大量のデータが必要です。大量のデータがあることで、ニューラルネットワークがより正確にパターンを学習し、出力結果の成否を判断できます。
学習していない事例に関しても例題をもとに予測し、判断や行動することが可能です。しかし、人間が事前に知識を与えることができない未知の事象については対応できない点や、模範解答を与えた人間以上に賢くなることがない点がデメリットだといえます。過去のデータをもとに傾向を導き出し、今後の数値を予測する特徴を活用した売上の予測や、未知のデータを自動的に分類する画像分類などの用途で用いられる学習方法です。
教師なし学習
AI自身が活動したことをもとにデータを蓄積し、自ら学習をするのが教師なし学習です。先ほどの教師あり学習と対になる学習方法だといえます。
教師なし学習は、模範解答や大量のデータを必要としない一方で、「正しく学習することができる環境」が必要です。
整合性のある環境が必要不可欠であり、シミュレーションすることができない事象については学習することができないデメリットがあります。
教師なし学習の例として、蓄積したデータから共通点を見つけ出してグループを作る「クラスタリング」が挙げられます。クラスタリングは、顧客の行動履歴などの類似性から特定のパターンを見つけ出す用途で活用されています。
強化学習
AIが自ら試行錯誤し、最適な行動を導き出す方法が、強化学習です。AIが自身の認識と行動を明確に認識することが重要なポイントになります。AIは、置かれた環境の中で導き出した結果に対する評価を学習の手掛かりとすることで強化されていきます。
強化学習を活用しているものは、囲碁AIや将棋AIなどです。ゲーム中にAIが自ら学習し、より良い行動を探る仕組みを用いています。
また、お掃除ロボットも強化学習を活用しています。掃除をしながら、多くのゴミを集めることができるルートを学習し、適したルートを継続的に選択する仕組みになっています。
●深層学習
深層学習は、ニューロンの構造と働きをモデルにしたAIである、ニューラルネットワークを活用した学習方法のことを指し、ディープラーニングという言葉で表すこともあります。
ニューラルネットワークはデータを入力する「入力層」、入力層から流れてくる情報を処理する「中間層」、最終的に結果を出力する「出力層」で構成されています。
一般的に、データ分析は入力データと出力データの関係を直接分析しますが、深層学習は中間層を設けることによってより多層化して学習する仕組みです。中間層を多層化することで、より複雑な情報に対応することが可能になり、データの分析精度も向上します。
深層学習により、従来はデジタル化することが困難だとされていた、画像や自然言語、音などの非構造化データをAIが学習できるようになりました。iPhoneの顔認証や音声アシスタント機能、機械翻訳などといったさまざまな分野で活用されている学習方法です。
AIの活用方法
AIは、今後さまざまな分野での発展が期待される技術の一つです。国が掲げているDX推進にも活用することが可能なため、さまざまな企業がビジネスに活かしており、今後ますます身近な存在になっていくといえるでしょう。ここでは、AIの活用方法の事例についてご紹介します。
●横須賀市役所の事例
2023年4月20日より、横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証が開始されました。自治体としてのChatGPTの活用は、初めての事例です。普段職員が業務で使用している自治体専用のチャットツールにChatGPTを連携させることによって、文章作成、文章の要約、誤字脱字のチェック、またアイデア創出などに活用をしています。
業務の効率化だけでなく、職員が広く活用していくことによってさまざまなユースケースが生み出されることが期待されています。
●フリマアプリの出品システム
フリマアプリを運営しているメルカリも、AIを活用している企業の一つです。
フリマアプリで商品を売る際、商品の写真を撮影し、商品情報を入力する作業が必要になり、出品者は手間がかかる傾向にあります。しかし、メルカリでは、AIの画像認識機能を活用したことにより、商品の写真をアップロードするだけで商品の情報が自動で入力される出品システムを開発しました。出品する商品のジャンルによっては、金額までも自動的に入力され、出品完了までの時間はわずか1分という短時間を実現させました。
●動物園の画像データ収集によるマーケティング
千葉動物公園では、入園ゲートやレストラン、駐車場の入り口に設置したカメラから収集した画像をAIによって分析するという方法でAIを活用しています。AIが分析したデータは、レストランのメニューの開発などのマーケティングや、集客施策の実施、適切な人員を配置した施設運営など、さまざまな用途で活かされています。
●農業の効率化
農業支援制御システムの開発にも、AIが活用されています。プラントライフシステムズが開発した「KIBUN」は、日照時間や雨量のデータに基づいた適切な量での水やりのタイミングや収穫時期などを、スマートフォンを通じて生産者へと指示するシステムです。
長い経験を積んだ農業経験者ではなくても、システムからの指示に従うことで農作業が続けられる仕組みになっており、効率化だけでなく、新規参入のハードルを下げる役割も期待されています。
●自動翻訳機能による海外売上アップ
コレクター向けの数多くの商品を販売しているまんだらけは、ECサイトも展開しており、海外ユーザーが増加しています。しかし、適切な翻訳ソリューションがなく、ユーザーに商品の情報をうまく伝えることができない、という課題を抱えていました。
商品が日々追加されていく中で翻訳が追いつかないという状況でしたが、自動翻訳・翻訳支援のAIツールを導入したことが課題解決につながりました。APIを利用しながら、毎日更新される商品情報を送信し、機械翻訳による翻訳結果をサイトに戻すという仕組みによって、海外からの売上アップに成功し、AI活用の効果を数字によって表しています。
●ロボットパトロールによるチケット転売対策
チケット転売はエンタメ業界における大きな課題ですが、スポーツ業界も同様の課題を抱えています。2019年に「チケット不正転売禁止法」が施行されましたが、チケットの不正転売はなくなっていないのが現状です。
チケットの不正転売という課題を解決するべく、サッカークラブを運営する川崎フロンターレは、富士通との協力のもとにRPAパトロールロボを導入しました。RPAパトロールロボの見回りによって不正転売を一覧化し、収集したデータをもとにチケット転売サイトへ取り消しの依頼を実施するという仕組みです。業界全体へのチケット不正転売撲滅啓蒙にもつながっています。
●新商品のCM作成
飲料メーカーの伊藤園が、生成AIを活用して制作した新商品のテレビCMを発表しています。人気の高い芸能人やタレントなどを起用するのが一般的だった従来のテレビCMに対し、伊藤園はAIで生み出したAIタレントに新商品のペットボトル飲料を持たせ、お茶の間にアピールを行ったのです。本物の人間を起用しているようなクオリティの高さから、SNSで話題を集めました。より創造的なアイデアの提案やオリジナルコンテンツの生産を得意とする生成AIをクリエイティブ領域にうまく持ち込んだ、代表的な事例の一つといえます。
●製造現場における運用ナレッジの蓄積
自動車部品をはじめとした金属部品を製造している旭鉄工では、製造現場におけるさまざまな改善事例の蓄積に取り組んでいます。しかし、社員それぞれが紙やファイルで個別に保管していたことから、組織全体で運用ナレッジを相互共有できていない点が大きな課題となっていました。課題解決を図るためのツールとして旭鉄工が採用したのが、生成AIの一つであるChatGPTです。
蓄積していた改善事例をChatGPTに学習させることで社員が個別で保管する必要がなくなり、さらにAIに質問すれば必要な情報がすぐに手に入るという仕組みを実現しています。
●システム開発の補助
LINEヤフー株式会社は、Microsoft の子会社のGitHubが開発したAIツール「GitHub Copilot」をシステム開発に活用しています。GitHub Copilotは人間が入力した自然言語の内容をもとに、プログラミングコードを自動生成するツールです。GitHub Copilotの活用によってコード作成にかかっていた作業時間が短縮され、エンジニアの負荷軽減や生産性の向上に貢献しています。
●商品画像の自動生成
サイバーエージェントは、生成AIを活用して商品画像を自動生成するための機能「極予測 AI」を開発。これまでは商品画像を撮影するためにロケーションや天候、機材などの要素を考慮しなければならず、多くの時間とコストがかかることが課題となっていました。AI機能を活用することにより、実際に撮影したような高クオリティのいろいろな商品画像を自動で生成しています。ロケーションや天候などを気にせずに商品画像を確保できるようになったことで、大幅な業務効率化やコスト削減につながっています。
参考:サイバーエージェント「極予測AI、生成AIを活用した商品画像の自動生成機能を開発・運用開始へ」
●AI美容アドバイザーによるサービス
化粧品会社ロレアルでは、生成AIを活用した美容アドバイスアプリ「Beauty Genius」を提供しています。チャット形式での悩み相談や肌画像による診断などを通して、AI美容アドバイザーがユーザーに適した美容法やおすすめ商品を提案。これにより自分に合った商品をより探しやすくなったほか、実際の美容アドバイザーには対面で伝えにくいニキビや抜け毛などの悩みも気軽に相談できる効果が期待されています。
参考:PRTIMES「美のグローバルリーダー ロレアル グループ:最先端バイオプリント皮膚技術と生成AIコンテンツ・ラボでビューティテックを加速」
参考:L’Oréal Paris Beauty Genius
AIの誕生から現在に至るまでの道のり
目覚ましい進化を遂げているAIですが、その歴史は1950年代にまでさかのぼります。1970年代に一度は冬の時代を迎えたAIがいかに発展してきたのかについて、これまでの道のりを見ていきましょう。
●1950年代:人工知能が注目され始める
AIの歴史はイギリスの数学者アラン・チューリング氏が発表した論文で、機械が人間と同等の知能を持てるのかを試すためのチューリングテストを提唱したことが始まりとされています。1956年には、機械が人間と同等の知能を持つことができるのかという研究の成果を発表するダートマス会議が開催。AI研究の本格的な幕開けとなるイベントとなり、同会議にて計算機科学者で認知科学者でもあるジョン・マッカーシー氏が「人間のように思考する機械」をAI(人工知能)と名付けました。
●1960年代:世界初の対話型AIの誕生
1960年代は第一次AIブームが起こった時期で、生成型AIの研究が本格的に始まり、世界初の対話型AI「ELIZA(イライザ)」が誕生。ELIZAは心理療法士を模倣するように設計され、ユーザーの入力を解釈して人間の会話に似たテキストを生成するという現在の生成AIの祖先にあたる存在です。人間が事前に定めたルールをもとに会話を生成する方法が採用されており、現在のAIに比べてかなり単純なプログラムとなっています。それでも、AIの歴史において重要な一歩を踏み出したELIZAはその後のAI開発に大きな影響を与え、Apple社の音声アシスタントSiriの原型ともいわれています。
ELIZAのほかにもさまざまなAI開発が行われましたが、この時代はコンピュータの性能がまだ高くなく、さらにインターネットが普及していなかったため、学習データを収集するのにも限界がありました。それにより人々がAIに期待していた機能を実装させることができず、盛り上がっていたAI研究も1970年代に冬の時代を迎えます。
●1980年代:第二次AIブーム
1970年代に一度下火になったAI研究ですが、1980年代にコンピュータ技術が進歩したことで生成型AIの研究が再び活発化します。1986年にはニューラルネットワークを利用した生成型AIプログラム「Backpropagation(バックプロパゲーション)」が誕生。ニューラルネットワークとは人間の脳の神経細胞を模造した計算機の構造で、バックプロパゲーションはAIを使ってテキストや画像の生成を可能にした最初のAIプログラムとなります。
1980年代に第二次AIブームを迎えたAI研究は、1990年代後半に入って新たな一歩を踏み出します。それがIBMの開発したスーパーコンピュータ「Deep Blue」です。スーパーコンピュータがチェスの世界チャンピオンに勝利し、AIが人間の能力を超えることを示した画期的な出来事として世界中で注目を集めました。
●2000年代:機械学習技術の発達
1980~90年代は、コンピュータが与えられた知識をもとに問題を解決するエキスパートシステムの研究・開発が行われたものの、コンピュータが自ら学習するまでには至りませんでした。コンピュータに学習させるには人間が大量の知識をコンピュータにインプットする必要がありましたが、第三次AIブームとなる2000年代にAIの歴史は大きなターニングポイントを迎えます。
コンピュータの技術の進化やインターネットの普及によって、AIは「機械学習」が主流となり、急速な進化を遂げていきます。さらに、ディープラーニングの出現もAIに大きな進歩をもたらしました。ディープラーニングの出現によってAIに大量のデータを学習させ、画像認識や自然言語の処理などが自動で実行できるように。さらに2012年には、ディープラーニングの新たな手法となるディープニューラルネットワークを利用した画像認識モデルが登場。写真やイラストなどを解析して内容を判断する技術で、従来よりも高精度な画像の識別が可能に。人間の目よりも正確に物事を認識できるAIが誕生したとして話題を集めました。
急速に進化するAIの未来
2000年代の将棋プログラムソフトは、プロ棋士にはまったく歯が立ちませんでした。しかし2017年には、将棋プログラムが棋士界の中でもトップクラスの棋士に勝利するなど、AIの分野は急速に進化しています。
中でも特化型人工知能の進化は著しく、自動運転や自動翻訳など、生活や仕事をより豊かにしてくれるAIが続々と登場しています。人間の仕事や作業を完全に代行してくれるAIが登場する可能性も否定できません。
近年AIが身近な存在になり、世の中がますます便利になる一方で、AIの発達により人間の仕事が奪われることを危惧する声も高まっています。
●気になるキーワード「シンギュラリティ」とは
シンギュラリティとは、「技術的特異点」を表す言葉です。AIにおけるシンギュラリティは、人の脳と同等かそれ以上のものが生まれると考えられています。また、そもそも特異点とは、それまでの常識やルールが通用しなくなるような重要な変化の瞬間を表す言葉です。
シンギュラリティは、1980年代から、AIの研究家の間で使用されるようになりました。
人間の脳と同等のレベルになったAIは、シンギュラリティを起点とし、加速度的に進化を遂げると予想され、AIの発展によってDXがさらに進むことで、AIの在り方だけでなく人間の在り方も変化することが予測されています。
シンギュラリティという言葉が注目されるきっかけとなった米国の発明家レイ・カーツワイル博士は、著書「The Singularity Is Near(シンギュラリティは近い)」において、2045年にはシンギュラリティへ到達すると予想しています。
●シンギュラリティ否定派の声もある
一方で、人工知能の権威であるスタンフォード大学の教授、ジェリー・カプラン氏は、シンギュラリティは来ないという見解を示しています。「ロボットには独立した欲求や目標がない」ということを理由に、AIの知力はあくまで人間のためのものであり、人工知能と人間を同一視する考えを否定しました。
発達したAIが人間を超えることを危惧する声も少なくありませんが、AIはあくまで人間の思考や行動をアシストするために開発されており、現状ではシンギュラリティに到達してすぐに人間を超える存在になるとは考えられていません。とはいえ、進化が著しい分野であるからこそ、常にアンテナを張り続け、将来に備えて使いこなせるようにしておきましょう。
●注目されている「小規模言語モデル」
2023年は次世代のChatGPT-4やGoogleによるGeminiの発表など生成AIの能力が大きく向上した年でした。一方で、テキストや画像、音声、動画など幅広いコンテンツを生成できる大規模言語モデルは、開発・運用だけでなく利用するにも多大なコストが発生することが、生成AIの社会実装を図るうえで課題となっています。
そこで注目されているのが、小規模言語モデルです。小規模言語モデルとは、大規模言語モデルに比べてパラメータ数が少なく、計算リソースの消費を抑えながら高いパフォーマンスを発揮できるAIモデルのことです。コスト面でのメリットが大きいことから、MicrosoftやGoogleをはじめとする海外の企業が小規模言語モデルの開発に乗り出しており、日本でもNTTやNECなどが軽量を強みとする事実上の小規模言語モデルの生成AIをリリースしています。
●自然言語処理技術の進化
自然言語処理とは、私たちが普段利用している自然言語をコンピュータ上で処理する技術のことです。代表的な例として、AIによる言語翻訳が挙げられます。自然言語は人によって多様な表現があるほか、時代によっても変化するため、決められたルールに沿って処理を進めるコンピュータではうまく対応できませんでした。
しかし、ディープラーニングが登場したことによって、自然言語処理の課題が劇的に改善。自然言語処理技術の進化で生まれたAIモデルのChatGPTを見てもわかるように、AIと自然な対話ができるまでになりました。ChatGPTを利用したカスタマーサポートやチャットボット、文章自動生成なども登場しており、ChatGPT はAI技術を身近なものにした立役者といえます。
より高度な業務にもAIを活用できる可能性があるため、自然言語処理技術のさらなる進化が期待されています。
●ノーコードのAIツールにも期待
さまざまな現場でAIの導入が進んで需要が高まっている一方で、AIを扱える人材不足が課題となっています。特に少子高齢化で労働者人口が減少している日本では、人材不足の問題は今後さらに深刻になっていくことが予想されます。
AI需要の増加に対応するための解決策として注目されているのが、ノーコードAIです。これまではAIを扱うにはデータの準備や加工、AIモデルの選定、評価など専門知識が求められました。それがノーコードAIならプログラミングを行う必要がないため、専門人材を確保せずにAIを導入できます。
誰でも簡単に操作できることから、ノーコードのAIサービスの利用拡大が期待されています。
業務効率化による労働力不足の解消や生産性の向上、コストの削減などを図るために、さまざまな業界や分野でAIの導入が進んでいます。より身近な存在となっているAIですが、目覚ましい進化に伴って情報も複雑化しているのが現状です。自社に適したAIシステム開発を外注するにしても専門的な知識や情報が求められるため、開発パートナー探しにお悩みのご担当者様もいるでしょう。
発注ナビであれば、全国6000社以上の開発会社の中から、ご要望や案件内容に合った開発会社を厳選してご紹介いたします。「自社に合った開発会社がわからない」「選定にできるだけ時間をかけずにスムーズに導入したい」とお考えのご担当者様はぜひ一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
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