企業が、第三者に業務を依頼する際は、必ず「契約」という形で約束ごとを取り交わします。
業界や業務によって、交わされる契約の種類が異なりますが、数ある契約形態の中でも、システム設計やプログラミングなどの依頼に適した「請負契約」について学んでおきましょう。
目次
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請負契約とは
請負契約とは、その名の通り契約形態の一種です。具体的には、発注側が「仕事を完了させること」を依頼し、受注側も「仕事を完了させること」を請け負う契約を指します。主に開発や制作業務で締結される契約で、発注側に完成品が納品された時、受注側へ報酬が支払われる仕組みです。逆に言えば、期日までに完成品が納品されない限り、報酬が発生しない契約でもあります。もしも納品物に不備があれば、発注側が受注側に修繕を要求することも可能です。
わかりやすく言えば、「発注した仕事が、期日を守ったうえで依頼の内容通りに完了する」ことで初めて報酬が発生する契約形態と言えるでしょう。ちなみに、請負契約を結んだ場合、完成品を作る過程は受注側に一任されます。発注側が仕事の方法を指示することはできず、受注側が「完成までの責任を負う」という点も、請負契約の特徴です。
●委任契約とは何が違う?
業務委託契約 | |||
---|---|---|---|
請負契約 | 委任契約 | 準委任契約 | |
主な契約義務 | 依頼された仕事を完成させる | 依頼された仕事を行う | |
締結する主な業務 | 製作に関わる業務 | 法律に関わる業務 | 法律に関わらない業務 |
報酬の対象 | 完了した仕事、成果物 | 労働時間 | 労働時間 |
請負契約は、外部に業務を依頼する「委任契約」と混同されることもあります。双方の主な違いとしては、請負契約が「仕事を完了させること」に契約を結び、委任契約は「仕事を行うこと」に対して契約を結ぶ仕組みです。業務を行うことで報酬が発生する点を見れば、委任は請負よりも軽い契約内容と言えます。
また委任契約は、弁護士や税理士のように法律に関わる仕事にのみ使われる契約形態という点も特徴です。反対に、法律に関わらない業務で結ぶ契約については、委任契約ではなく「準委任契約」と呼んで区別しています。システム設計やプログラミングといった製作業務の外注には請負契約を、システムの保守や運用などの完成品が存在しない業務の外注には準委任契約を結ぶ形になるでしょう。
ちなみに請負契約、委任契約、準委任契約のように「自社の業務を外部に委託する契約」を総称して、業務委託契約とも呼びます。
IT業界における請負契約について
報酬の支払い義務が「仕事を完了させる」という点にある特性上、請負契約は「製作」に関わる業務で頻繁に用いられる契約形態です。例えば、建築会社にマイホームの建築を依頼した場合、「家を完成させること」を条件に、成果物に対する報酬額や具体的な納期などを取り決めたうえで請負契約を結びます。
請負契約が用いられるのは、IT業界においても例外ではありません。システムやアプリケーション開発を担うIT企業では、外注の契約を結ぶ際に請負契約が用いられるケースがしばしばです。例えば、企業が「自社専用の人材管理ソフトが欲しい」、「ECサイトの制作を依頼したい」と検討をした際、システム開発を担う企業と請負契約という形で、ソフト開発やサイト製作を依頼します。
とはいえ、製作に関わる業務のすべてで請負契約が結ばれるわけではありません。とりわけシステム開発の工程は「システムの要件定義」や「保守運用」といった完成品が存在しない、もしくはどの段階で完成と見なすかわかりにくい業務も存在します。そのためIT業界における請負契約は、「システム設計」や「プログラミング」といった製造工程で結ばれることが多くなっています。
請負契約で発注するメリットとは
●求める成果物を入手しやすい
先に挙げた通り、請負は具体的な納期と納品物の仕様を取り決めたうえで契約を結ぶ仕組みです。指定した基準の物が納品されるため、納品物の品質が安定しているうえ、万が一契約不履行があった際も、受注側に修正対応を依頼することができます。IT業界だけに限りませんが「〇〇日までに△△を納品してほしい」というケースにおいては、請負契約という形で発注する方が良いでしょう。
●開発にかかるコストを把握しやすい
自社でシステムの設計や開発を行う場合、エンジニアの増員や機能の追加で、予定よりも開発コストが増えてしまうこともあります。トラブルで開発が滞れば、想定の予算内でシステム開発が完了しないことも少なくありません。ですが、受注側が製造方法を決める請負契約であれば、製造の際に発生するコストも受注側で支払うことになります。発注側は、納品物に対して報酬を支払う必要こそありますが、受注側に責任があるぶん余計な開発コスト自体は発生しにくいでしょう。
請負契約で発注するデメリットとは
●エンジニアのスキルが上がりにくい
内製で開発するシステムやアプリケーションは、社内で開発を行う分、ITエンジニアの成長も見込めます。ですが請負契約は、外注という形で発注を行うという特性上、開発の知見が自社に蓄積されにくくなります。ノウハウの蓄積を求める場合においては、必要なぶんだけ請負契約を利用するようにしましょう。
●仕様の変更が困難になる
求める成果物を入手しやすい一方で、請負契約は「発注後の仕様変更が難しい」のが欠点です。もしも設計に不備があったままシステム開発を依頼してしまうと、「不備を抱えた成果物」がそのまま納品されることになります。請負契約が「契約通りの物を納品する」という仕組みである以上、発注後に追加で修正を依頼するのは困難です。そのため、システム開発で請負契約を結ぶ際は、要件定義をしっかり行ったうえで、「何を作ってもらうか」を明確にする必要があります。
請負契約を依頼する方法は?
アプリケーションやソフトウェアの開発をシステム会社へ発注する場合、成果物の完成を目的とする場合は、請負契約を結ぶことになります。ただし、契約の際に取り交わす契約書は、発注する業界や業務で記入する項目が変化することを留意しておきましょう。システム会社に請負契約で仕事を依頼する場合、何を製作するのか、報酬はどのように支払われるのか、などを明確化しておく必要があります。
契約書の項目 | 詳細 |
---|---|
目的 | 契約の具体的な目的や内容は何か |
有効期限 | 結んだ契約の有効期限はいつまでか |
定義 | 契約書に使われている単語や言葉の定義 |
仕様 | システムの完成形はどのようなものか |
実施場所 | 業務を行う場所はどこか |
納期 | いつまでに何を納品するか |
報酬 | 具体的な報酬金額や支払い方法は |
不具合対応 | 納品物に不具合があった際の補償内容は |
権利 | 納品された成果物の権利は誰が所有するか |
システム開発の請負契約書に用いられる主な項目は表の通りです。
このほかにも、開発の際に受け渡した資料の管理方法や、損害が生じた際の賠償金額、保守サービスの内容などが記入されることもあります。契約の内容を細かく取り決めておけば、トラブルが発生した際の対応も円滑に行われやすくなるため、必要な項目はすべて契約書に記載するのが賢明です。とはいえ、項目の多い契約書を一から作成するのは難しいため、雛形(テンプレート)の契約書を利用しても構いません。インターネットや法律事務所で公開されている契約書の雛形には、請負契約の際に必要な項目があらかじめ記入されているため、労力をかけずに請負契約書を作成できます。
最後に、請負に関する契約書は「2号文書」と呼ばれる課税対象の書類であることを留意しておきましょう。契約金額によっては非課税となりますが、発注のために契約書を作成する際は、収入印紙を貼って印紙税を支払う必要があります。具体的な課税金額について、詳しくは国税庁のホームページにてご確認ください。目的の成果物を正しく納品してもらうため、システム開発を第三者に発注する際は、契約の仕組みや契約形態ごとの特徴をしっかり把握しておくことが重要となるのです。
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