近年、AI(人工知能)や機械学習の技術が飛躍的に進化し、ビジネスや日常生活における利用が広がっています。AIを開発するにあたって、オープンソースの機械学習ライブラリとして活用されているのがGoogleによって開発された「TensorFlow(テンソルフロー)」です。本記事では、TensorFlowの概要やメリット、使い方、導入時の注意点について解説します。初心者から上級者まで幅広く利用されるTensorFlowの魅力をご紹介します。
目次
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TensorFlowとは
TensorFlow(テンソルフロー)は、Googleが開発した機械学習やディープラーニングのためのオープンソースライブラリです。特に、データをもとにパターンを学習し、予測や判断を行う仕組みを構築するために使われます。TensorFlowは、画像認識や音声認識、テキスト解析など様々なタスクに利用でき、初心者から上級者まで幅広いユーザーに対応できる柔軟性が特徴です。
●機械学習ライブラリとしての役割
機械学習は、データを利用してコンピュータに「学ぶ能力」を与える技術です。TensorFlowは、この学習プロセスを支えるフレームワークであり、データをもとにモデルを構築・訓練し、そのモデルを使って新しいデータの処理や予測を行えるようにします。例えば、猫と犬の画像を学習させると、新しい画像を与えても猫か犬かを判断するモデルを作れます。
TensorFlowは、「ディープラーニング」と呼ばれる高度な機械学習技術にも対応可能です。ディープラーニングでは、大量のデータと複雑なアルゴリズムを使って、人間のような認識能力や判断力を持つモデルを構築します。TensorFlowはこのプロセスを簡素化し、効率的に実行できるよう設計されているのです。
●様々なプラットフォームに対応している
TensorFlowは、様々なプラットフォームで動作できます。パソコンやサーバーだけでなく、スマートフォンやWebブラウザ、さらには小型デバイスでも利用可能です。例えば、スマートフォン向けには「TensorFlow Lite」、Webブラウザ向けには「TensorFlow.js」という専用のバージョンが用意されています。また、高速な処理が求められる場合には、GPUやTPUといった専用ハードウェアに対応しており、大規模な計算も効率的に実行できます。このように、TensorFlowは幅広い環境で活用できる柔軟性を持ち、実用性の高いツールとして位置づけられています。
TensorFlowの特徴
TensorFlowの特徴について、ニューラルネットワークや分散学習、GPU・TPUの観点から説明します。
●ニューラルネットワークの構築
ニューラルネットワークとは、人間の脳の働きを模倣した仕組みです。脳が情報を処理する際には、神経細胞(ニューロン)が働きますが、ニューラルネットワークもこれに似た方法で情報を処理しています。例えば、画像から「これは猫だ」と判断したり、音声を聞いて文字に変換したりといったことができるのも、ニューラルネットワークのおかげです。
TensorFlowでは、このニューラルネットワークの仕組みを人工的に作り出せることが特徴です。「画像を入力すると何が写っているかを教えてくれるAI」を作りたい場合、TensorFlowを利用して複雑な計算やアルゴリズムを扱えます。
●分散学習のサポート
分散学習とは、大量のデータや複雑な計算を、複数のコンピュータやプロセッサで分担して効率的に処理する方法です。普通のパソコンで大規模なAIモデルを学習させようとすると、とても時間がかかってしまいます。しかし、複数のパソコンや専用の高性能な計算機を連携させることで、短い時間で結果を得られるようになります。
TensorFlowは、この分散学習を簡単に設定できる仕組みを持っています。私たちがAIモデルを学習させる際、TensorFlowが自動的に複数の計算資源を使って処理を分担し、作業をスピーディーに進めてくれるのです。
●GPUやTPUの活用
GPUはコンピュータで画像や映像を処理するために開発された装置です。現在ではAIの学習でも活躍していて、大規模な計算が得意です。一方、TPUはGoogleが開発したAIのための計算装置で、さらに効率良く学習できます。
TensorFlowは、これらのGPUやTPUを自動的に活用できる仕組みを持っており、高速でAIモデルを学習させることができます。AIを使ったリアルタイムの音声認識や翻訳など、スピードが求められるプロジェクトでも、GPUやTPUを活用すればスムーズに動作するAIモデルを作れます。
TensorFlowのメリット
TensorFlowのメリットは、汎用性やその規模感にあります。
●汎用性の高さ
TensorFlowの一番のメリットは、その汎用性の高さにあります。画像認識や音声認識、自然言語処理といった広範な分野で活用できるだけでなく、強化学習や予測モデルの構築にも対応しています。例えば、医療分野では病変画像の解析、金融分野では市場予測など、あらゆる場面で役立つことが特徴です。さらに、同じライブラリを使うことで、異なる分野のプロジェクト間でも一貫した開発が可能になるため、効率的に作業を進められるという点も強みです。
●開発者向けのツールが豊富
TensorFlowには、開発を助けてくれるツールが豊富にあります。その1つが「TensorBoard」で、モデルの学習状況をリアルタイムで可視化できるツールで、エラーの減少具合や学習の進捗をグラフで確認できます。
また、「TensorFlow Hub」というサイトでは、あらかじめ訓練されたモデルをダウンロードして再利用できます。ゼロからモデルを作成する手間を省き、プロジェクトにすぐに組み込むことができます。これらのツールを使うことで、コードの効率化や学習の見える化が簡単にできるので、開発スピードが格段に上がります。
●大規模コミュニティと情報の豊富さ
TensorFlowは世界中で多くの開発者に利用されており、活発なコミュニティがあります。そのため、困った時にはインターネット上で情報を見つけやすく、質問をすれば親切な回答が得られることも多いです。
さらに、公式のドキュメントやチュートリアルも充実しているので、独学でも学びやすい環境が整っています。Googleが開発・サポートしていることもあり、継続的にアップデートが行われています。新しい機能やライブラリが随時追加されるので、最新の技術をすぐに取り入れることができます。
TensorFlowの利用方法
ここでは、pipを使用してTensorFlow をインストールする方法について紹介します。
●インストールと環境設定
WSL2(Windows Subsystem for Linux 2)でのインストール方法を紹介します。
(1)システム要件の確認
TensorFlow をインストールする前に、システムが必要条件を満たしていることを確認しましょう。
-
Windows WSL2:Windows 10 19044 以降(64 ビット)
(2)GPUのセットアップ
TensorFlowをGPU上で実行したい場合は、NVIDIA(エヌビディア)の公式サイトからGPUドライバーをダウンロードし、インストールします。CPU 上でのみ実行する場合は、この手順をスキップしてください。
-
NVIDIA GPU ドライバー
(3)pipを最新バージョンにする
TensorFlow をインストールする前には、pipのバージョンを最新にする必要があります。以下のコマンドを実行して、pipをアップグレードします。
pip install --upgrade pip
(4)TensorFlow のインストール
最新バージョンにしたpipでTensorFlow をインストールします。
・CPU
pip install tensorflow
・GPU
pip install tensorflow[and-cuda]
(5)インストールできているか確認する
TensorFlowがインストールできたかを確認します。CPUではtensorが返されたら、GPUではGPU デバイスのリストが返された場合に正常なインストールができています。
・CPU
python3 -c "import tensorflow as tf; print(tf.reduce_sum(tf.random.normal([1000, 1000])))"
・GPU
python3 -c "import tensorflow as tf; print(tf.config.list_physical_devices('GPU'))"
※参考:TensorFlow公式サイト
●サンプルコードの実行
ここでは、TensorFlowとKeras(API)でできる初歩的な機械学習の手順を紹介します。学習に用いるのは、オープンデータセットとして有名なMNIST(エムニスト)です。MNISTは手書きの数字を画像から認識するためのデータセットで、0から9までの手書き数字の白黒画像が訓練用として60,000枚、テスト用として10,000枚記録されています。
(1)TensorFlowのセットアップ
TensorFlowライブラリをインポートします。
import tensorflow as tf
(2)データの準備
MNISTデータセットを読み込みます。この時、手書き数字(MNISTデータセット)の画像データを0~1の範囲に正規化しています。
mnist = tf.keras.datasets.mnist (x_train, y_train), (x_test, y_test) = mnist.load_data() x_train, x_test = x_train / 255.0, x_test / 255.0
(3)モデルの構築
機械学習モデルを構築します。
model = tf.keras.models.Sequential([ tf.keras.layers.Flatten(input_shape=(28, 28)), tf.keras.layers.Dense(128, activation='relu'), tf.keras.layers.Dropout(0.2), tf.keras.layers.Dense(10) ])
(4)トレーニングの準備
損失関数、オプティマイザー、評価指標を設定します。
model.compile(optimizer='adam', loss=tf.keras.losses.SparseCategoricalCrossentropy(from_logits=True), metrics=['accuracy'])
(5)トレーニング
モデルをデータでトレーニングします。
model.fit(x_train, y_train, epochs=5)
(6)性能の評価
テストデータで精度を確認します。損失値(Loss)が小さいほどモデルが正常に動いているため、この値が最小になるようにパラメータを調整します。
model.evaluate(x_test, y_test, verbose=2)
※参考:TensorFlow公式サイト
TensorFlow導入時の注意点
TensorFlowを導入する際にはいくつか注意点があります。以下で詳しく見ていきましょう。
●高性能なマシンが必要
TensorFlowは高度な数値計算を伴うため、その分高性能なマシンが必要です。特にディープラーニングや大規模データセットを扱う場合、GPUやCPUの処理能力が重要になってきます。GPUについては、NVIDIAのCUDAに対応した製品が適していますが、VRAMが少なくとも8GB以上あるモデルを選ぶと学習効率が向上します。
CPUの場合、マルチコア対応で高性能なものが推奨され、メモリは16GB以上、可能であれば32GB以上を備えることで快適に作業が行えるでしょう。また、データの読み書き速度を考慮すると、ストレージにはSSDを選択することが望ましいです。
もし、これらのハードウェアを用意するのが難しい場合は、Google Cloud PlatformやAmazon Web Services、Microsoft Azureといったクラウドサービスを利用することも選択肢の1つです。
●コードがやや難解
TensorFlowは独自の概念である「テンソル」や計算グラフを基盤としているため、コードがやや難解に感じられるかもしれません。特にプログラミングの経験が浅い方には、操作や理解にハードルがあると言えるでしょう。
そのため、初心者はTensorFlowの公式チュートリアルを活用して基礎から順を追って学習することをおすすめします。また、TensorFlowにはKeras(ケラス)という高レベルなAPIが統合されており、このKerasを利用すればディープラーニングのモデルを直感的に構築できます。その際、インターネット上で公開されている豊富なサンプルコードを参考にすることで知識を積み上げやすくなるでしょう。
●その他の導入時の考慮点
TensorFlowの導入時には、環境の互換性や依存関係にも注意が必要です。TensorFlowは頻繁にアップデートされるため、使用するPythonのバージョンやNumPy(ナムパイ)やPandas(パンダス)などほかのライブラリとの互換性を事前に確認することが大切です。
また、仮想環境を利用するのも1つの方法です。例えば、Pythonのvenv(ブイエンブ)やconda(コンダ)を使用してプロジェクトごとに環境を分けたり、Dockerを使ってコンテナ化することで環境構築をシンプルにできます。
さらに、GPUを使用する場合はCUDAやcuDNNといった必要なライブラリを正しくインストールし、バージョンの適合性を確かめることも忘れないようにしましょう。
TensorFlowでAI開発を加速
TensorFlowは、初心者から上級者まで活用しているライブラリです。最初は難しく感じる部分があるかもしれませんが、ハードルを乗り越えることで、AIモデルやアプリケーションを生み出せます。AI技術を取り入れてビジネスを加速させたいと考えている方は、ぜひTensorFlowを活用してみてください。
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