技術力では負けてはいない、実績もある、それなのに「なぜか成約できない」。そう悩むシステム開発会社は多いだろう。発注ナビの加盟企業である株式会社Undershaftは、さまざまな工夫で成約率アップを実現している。どんなことをしているのか。同社取締役の伊藤 一記氏に伺ったノウハウを3回連載でお届けする。第3回目は、受注した後に継続的に成約率を高めるためのTipsを「システム開発中」「運用開始後」「中・長期」の視点で紹介する。
<本連載の話者紹介>
株式会社Undershaft 取締役 伊藤一記氏
大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社。
大手電機メーカーや保険会社を対象に、組織開発やIT戦略のプロジェクトに従事。中⻑期的な成⻑戦略に基づいたIT組織立ち上げや内製化をテーマに、アジャイル開発や、組織変革を支援。
2020年 株式会社Undershaftを設立し、現取締役。
製造業・リース業をクライアントに、大型業務システムや新規サービスの、戦略定義・要件定義・開発・ 運用から内製化までを一気通貫で支援。
「受注=ゴール」ではない、継続して成約率を高めるために
前回までは成約率を高めるためのTipsを紹介した。見事、受注に至ったら次は何を考えるか。システム開発では『受注=ゴール』ではない。受注して実際に開発プロジェクトが動き出し、システム開発に取り掛かっている間にも、「継続的に成約率を高めていくには、開発が終わった後を見越して、次の受注に向けての準備を進めておくことが大切です」と伊藤氏は言う。具体的には、後続の開発案件への提案だ。
第2回で触れたとおり、同社では見積書の作成プロセスの間に、発注者にビジネス上の中・長期的な方向性や課題感を聞き、システムの将来像や理想形を共有しておくようにしている。「例えば、システムの開発期間が3カ月であるなら、2カ月で開発して、ラストの1カ月は次の提案に向けた準備にあてるのが理想的です」(伊藤氏)。実際、同社では、ラストの1カ月で翌期の提案に向けたディスカッションをすることが多いという。
仮に『このシステムが完成したら案件はひとまず終了』という発注者の場合でも、『その後の運用はどうしますか?』といった話をする。発注者が気づいていないことでも、こちらから提案していくことで、次の開発案件につながることも多い。運用での困りごとや改善点などがあった場合には、すぐに費用を見積もる。競合がいない中で、悠々と独自提案ができるのだ。
とはいえ、全員で開発に集中しなければならないような小規模のシステム開発会社では、先を見越した提案をする余力がないことも多い。そうしたシステム開発会社で、継続的に成約率を高めるためにできることとは何だろうか。
伊藤氏は「人員・工数の問題はあるが、とにかく簡単なヒアリング、簡単な資料を作っての提案など、できる範囲でかまわないのでやってみる、実践してみることが大切です」と強調する。たしかに、提案があったのかなかったのかは「0か100」ほどの違いがある。提案内容が良かったかそうでなかったかとは次元が異なる違いともいえる。少しでも提案したという実績が残れば、次の案件の『第一候補』として名前を残せるだろう。中・長期的に成約率を高めるためにとても重要なことだと言える。
お客様と一緒に「小さな成功体験を繰り返す」提案で継続受注を
後続の開発案件を継続的に受注するには、システム開発が終了した後、実際に運用が始まる、あるいは始まって数カ月の時点で『何を提案するか』も重要になる。多くのシステム開発会社では、システムの運用・保守で顧客接点を維持し、後続案件の受注につなげようと考えるだろう。
それはひとつのセオリーとも言えるが、忘れてはならないことがある。顧客にとって有償での運用・保守は『コストセンター』にほかならないということ。有償での保守・運用を喜んでくれる顧客はそれほど多くはなく、それをやっているからといって顧客接点が維持できているとも言い切れない。もっと顧客のニーズにマッチした提案が求められるが、どうすればいいのか。伊藤氏は「それまでのシステム開発の過程の中にヒントが隠されている」と話す。
実際にシステム開発を進めていると、途中で『こういった機能が欲しい』、『あんなこともできるようにしたい』と顧客からさまざまなリクエストが出されることは多い。通常は、その機能の重要性はもちろん、予算や納期、仕様変更ができるかどうかなどを含めて考えて、リクエストをシステムに反映させるかどうかを決めていく。そのときに大切なのが、システムに組み込まないリクエストの扱いだ。「当社では、開発途中にお客様からでてきたリクエストは全てプールしておきます」(伊藤氏)という。そして、「フェーズ2の開発テーマとしてご提案しています」というのだ。
もちろん全てのリクエストをそのまま踏襲して提案するのではない。『実際にシステム開発の過程で見えてきた課題』と『システムが動き出した後の状況』を照らし合わせることで、より必要性の高い機能を明確にして、それを踏まえて提案するのだ。漠然と『フェーズ2の追加開発をしませんか』と提案するより、はるかに説得力がある。
それだけではない。優先順位をつけてリクエストを実現していくことで、顧客は小さな成功体験を繰り返すことができるようになる。伊藤氏はこれこそがポイントとしたうえで、「お客様と一緒に小さな成功体験を繰り返すというスタンスでフェーズ2以降の開発に臨む。これが後続案件を継続的に受注し、お客様から信頼されるITパートナーとなるためにとても大切なことです」と語る。
ビジネスを理解し課題を明確にして「先回りして」提案する
さて、顧客から中・長期にわたって後続の開発案件を継続的に受注するには、現在のシステムを延長線上だけを見据えた提案をするだけでは難しい。もう少し広い視野でシステム開発全体を見渡した提案が必要となる。例えば、顧客の現在の売上高や利益、中長期的な売上目標などから来期以降のIT投資を算出し、その予算の中で顧客のビジネス拡大に貢献するような新たな機能やシステムを提案するといった取り組みだ。
実際、システム開発をきちんと実施するには、システム開発の上流工程にあたるコンサルティング、開発計画の立案、必要となると考えられる機能やシステムの選定など開発の周辺にある業務をしっかりとこなさなくてはならない。つまり、こういった業務を担い、実際にシステム開発のプロジェクトが動き出す以前から、顧客のビジネスの方向性を理解し、そのために必要なシステムを考え、ときにはシステムを中心としたビジネス全体の青写真を描くことができれば、具体的なシステム開発についても継続的に受注できる可能性は高くなる。中・長期的な受注のためには、システム開発の上流や周辺にある業務を担うこともひとつのポイントとなるのだ。
そして、こうした取り組みを進めていると、顧客のさまざまな課題が見えてくる。伊藤氏は「システムを開発する立場にある我々は、じつはお客様の本質的な課題を知ることができるのです」と語る。顧客がシステム開発会社に示す課題は表層的なもので、本質的な課題は別のところに隠れていることが多いという。しかも、「お客様はそのことに気がつかないことがほとんどです。だから、そこを先回りして提案することが大切です」と説明する。
伊藤氏はある企業の基幹システム構築プロジェクトで、海外拠点で収集される顧客データを全て日本国内に集約して活用できる構成を提案した。顧客は将来的に海外展開を視野に入れていたが、海外拠点で収集されるデータを拠点ごとで管理してしまうとデータドリブンなグローバル戦略をスピーディーに展開することのネックになりかねいという課題に気がついていなかったのだ。「大切なことはお客様の中・長期のあるべき姿をお客様と共有すること。ビジネスを理解し課題を明確にしたうえで『先回りして』提案する」(伊藤氏)、それが中・長期的に後続案件を受注するための重要なポイントだ。
これまで第1回から第3回を通じて、成約率アップと継続的な受注のためのノウハウについて、Undershaft 取締役の伊藤 一記氏に伺ってきた。実際にお話しを聞いてみると、この連載に書き切れないくらいの豊富なノウハウをお持ちであることもわかった。この3回の連載では、Undershaft、そして伊藤氏が日々実践していることの、ほんの一端をご紹介したに過ぎないことにも触れておく。
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