組織の業務フローを抜本的に見直し、業務の効率化や生産性向上を推進するのに役立つ手法が「BPR」です。BPRの基本的な情報をはじめ、BPRを実現するメリットや推進時の注意点、具体的な計画の進め方について紹介します。
目次
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1.BPRとは?
BPRとは、「Business Process Re-engineering(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」の頭文字を取った言葉で、現在の業務フローや組織内の構造、使用している情報システムを見直して再構築し、業務改革することを指します。
米国の大学教授マイケル・ハマー博士と経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏による共著「リエンジニアリング革命」で広まった考え方であり、90年代から日本企業でも導入されてきました。
BPRの概念が生まれた背景には業務が専門化・分断化された分業型組織への反省があります。このような組織になると、各部署の目標が異なって部分最適となり、結果としてさまざまな非効率が発生するようになります。その状況を改善するのがBPRであり、全社で共通した目標を設定して、全体最適を目指すアプローチを行うのが特徴です。
2.BPRで意識すべき4つの要素
BPRを導入する目的は、業務フローを根本から大きく変革することで、飛躍的な効果を得ることです。そのためにも、BPRの実施にあたり意識すべき4つの要素があります。ここでは各要素についてご説明します。
●「根本的」に行うこと
BPRを行う際には根本的な確認・検証が大事です。現在行っているプロセスを当たり前の前提とせず、「なぜ現在この業務を行っているのか」「なぜその業務を現在の方法で行っているのか」「この業務は本当に大事な業務なのか」「簡略化や省略できる内容がないか」など、常に根本に立ち返って確認・検証するようにしましょう。
●「抜本的」に見直すこと
業務を見直す中では抜本的にゼロから見直すことが大切です。そのためには古い慣習にとらわれず、不要な業務であれば捨て去るべきです。既存のものに手を加えたり、表面的な改革に終始したりせず、抜本的に見直しましょう。
●「劇的」な改革を目指すこと
BPRにおいては小さな改善を行うのではなく、劇的な改革を行うことが重要です。業務効率の改善など、大きく飛躍する効果が得られなければ、BPRを導入する意味も薄れてしまいます。
●価値のある「プロセス」を設計すること
BPRでは業務の手順の流れを「プロセス」と呼んでいます。従来のプロセスを見直すことは、効率化や品質向上に役立ちますが、それだけではありません。BPRで企業の目的や付加価値を明確にできれば、ビジネス目標や顧客価値の実現につながります。
3.BPRが注目されている背景
かつて日本では、BPRの概念は1990年代に注目されていました。当時はバブル崩壊の時期にあたり、多くの企業が経営を立て直すためにBPRの導入を検討していたのです。
そんなBPRが近年も再び注目を集めるようになった背景には、少子高齢化による労働人口の減少があります。これに加えてグローバル化による影響で、ビジネスの競争は激化していくことも想定されています。
少子高齢化社会によって労働人口が減少した状態でも、ビジネスを成長させて競争力を確保するため、BPRによる企業の業務改革が今こそ求められているのです。政府による働き方改革やDXの促進を踏まえたBPRを導入しましょう。
4.BPRと類似する用語の違い
BPRには、業務改善やDX、ERPなど、類似する用語は少なくありません。それぞれの特徴とBPRとの違いや関係性について、以下で解説します。
●BPRと業務改善の違い
業務プロセスや組織構造を全体的に見直すBPRに対し、「業務改善」は一部の業務フローや内容を見直すことを指します。また、BPRと業務改善では見直しのスケールにも違いがあります。BPRは業務プロセスに大きな改革を起こすのに対し、業務改善は業務単位で少しずつ、部分的に改善を進めます。BPRと業務改善を比較すると、BPRのほうがより大きな影響を与えるものだといえます。
●BPRとDXの違い
BPRとDX(デジタル・トランスフォーメーション)の違いは、ビジネスモデルを変革するか否かにあります。DXは、IT・デジタルツールを用いて「ビジネスモデル」を変革することが目的です。対するBPRの目的は、「組織内のプロセス」を改革することにあります。とはいえ、「ゆくゆくは業務の改革につなげる」という大きな目的は共通しているといえます。
●BPRとERPの違い
ERPとは、「経営資源計画」のことで、組織内の資源を適切に管理・活用するための計画を指します。くわえて、経営資源計画を進めるための各種システムも同じく「ERP」と呼ばれます。ERPを導入することで、業務や組織全体の情報を正確に掴めるようになり、業務改革がより効率的に進みます。ERPはBPRを推進するための一つの要素です。
●BPRとBPOの違い
BPOは業務全体を外部に委託する手法を指す言葉です。一方で、BPRは全社にわたって業務プロセスを見直す業務改革の手法を指しています。そのため、「BPRにより社内リソースをコア業務に集中させるためBPOを活用する」というように、目的と手段の関係にあるといえます。
●BPRとRPAの違い
RPAはプログラムにより業務を自動化するツールやシステムを指します。従って、BPRとRPAも目的と手段の関係にあります。RPAは、BPRによる業務改革を行うための手段の一つです。
5.BPRのメリット
BPRを実現することで、組織はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。業務の効率化や経営判断のスピードアップなど、BPR実現によって得られる主なメリットについてご紹介します。
●業務効率化につながり、全体最適を実現できる
BPRにより、全業務のフローやプロセスが可視化されます。これにより、業務ごとにある効率化を阻む課題点が見つけやすくなります。例えば、「複数の部門で業務が重複し、ロスが発生している」「作業マニュアルが整備されておらず部門ごとの生産性にムラがある」といった課題点が明らかになります。複数の部門にまたがる無駄や部分最適となっている箇所を発見できるため、全体最適となるように改善が可能です。適切な改善策を立てることで、業務効率化につながります。
●スピーディーな経営判断につながる
BPRに取り組むことで、迅速な経営判断や意思決定を妨げている要因も特定されます。くわえて、意思決定のフローが最適化される効果も期待できるようになり、経営判断のスピードアップにつながります。経営判断がスピーディーになることで、機会損失のリスクを防ぎ組織全体の競争力が向上することも見込めます。
●従業員のやりがいや顧客満足度向上にもつながる
BPRによって業務が効率化されれば、従業員の業務負担が軽減されます。形骸化していたルールや非効率なフローが撤廃されることで、従業員が働きやすくなるだけでなく、より重要度の高いコア業務に注力しやすくなるため、商材やサービスの品質向上も期待できます。商材・サービスの品質が高まれば顧客満足度が向上し、組織全体の価値が高まります。
●コスト削減・利益最大化につながる
BPRは業務効率化に役立つため、コスト削減につながります。例えば従業員の残業が減ることで人件費を削減でき、また、システムをクラウド化すれば、保守・管理費用を削減できます。BPRの導入には一定の初期費用がかかりますが、長期的にはコスト削減につながるといえるでしょう。また、コストを削減できるため、企業の利益最大化にも貢献します。
●業務の属人化を防ぎ、リスクマネジメントに対応可能になる
業務が属人化した状態が続くと、担当者の異動や退職の際に業務が滞るおそれがあります。また、フローが不透明な状態では事前にリスクを察知しにくくなってしまうため、リスクマネジメント対応の観点からも、BPRは重要です。
6.BPRのデメリット・注意点
BPRを実践するにあたり、押さえておきたいデメリットは以下の2点です。メリットだけでなくデメリットもしっかりと把握した上で、BPRの計画を進めていきましょう。
●コストがかかる
BPRの対象範囲は社内全体となります。計画の内容によっては、業務フローの抜本的な見直しや、情報システムの変更・新規導入、一部業務のアウトソーシングを行うこととなるため、費用面の負担も大きくなりがちです。限られた予算や状況の中でBPRを進めていくためにも、まずは、施策の優先度を決めていきましょう。
●時間がかかる
BPRは社内全体の業務改革が目的のため、実施するには多くの工数や時間が必要となります。基本的に、BPRによるプロセスの再構築は途中でやめることは難しく、もし完遂できずに途中で断念してしまうと、大きな混乱と損失だけが残ることにもなりかねません。
●社員の負担が大きくなり、軋轢が起こるおそれがある
BPRは社内全体を巻き込むため、社員一人ひとりの負担が大きくなる可能性があります。結果的に現場の社員の業務が圧迫されて思うように理解が得られず、経営層と社員の間に溝が生まれることもあります。社員の協力を得るためには、事前の周知や情報共有を徹底することが大切です。「何のためにBPRを行うのか」「BPRを実践することでどのような恩恵を受けられるのか」という点を、社内全体に根気強く周知しましょう。また、経営層のみで話を進めるのではなく、現場のキーパーソンを企画段階から巻き込むことも大切です。
7.BPRの主な手法
一言でBPRといっても、その手法は多様です。業務の仕分けを行ったうえで適切な手法を選び、組み合わせて実践することが大切です。以下では、BPRの主な手法をピックアップしました。
●ERPシステムの導入
EPRとは、「Enterprise Resources Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)」の略称で、予算・財務会計や在庫、人材など組織内の幅広い情報を一元的に管理できるシステムです。ERPシステムを導入することにより、部署や部門間でバラバラに管理していたデータを集約でき、BPRの推進に役立ちます。くわえて、経営資源に関する課題も見つけやすくなり、経営資源計画の適正化にもつながります。
●シックスシグマの実践
シックスシグマとは、1980年代に開発された、統計学に基づいた品質管理のフレームワークのことです。以下の内容をもとに業務プロセスを改善していきます。
Define(定義)
Measure(測定)
Analyze(分析)
Improve(改善)
Control(管理)
自社が抱える課題を定義したうえで、各業務プロセスで発生する工数やサービス・商品の品質のばらつき(エラー例)を測定分析し、改善のためのアクションを実践するのがシックスシグマです。
●業務仕分けの実施
現在行っている全ての業務を洗い出し、現状を可視化する作業です。具体的には、業務の流れや部門間の連携などを図式化して分類し、不要な業務の削減、効率化のための再構築などを行います。
これにより、企業は業務の重要性に基づいて優先順位を付けることが可能になり、重要な業務に社内のリソースを集中させることができるようになるので、生産性向上につながります。
●BPOの検討・導入
BPOとは、「Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」の略称です。業務プロセスを、一括してアウトソーシングすることを指します。通常のアウトソーシングとは異なり、業務プロセスの一部分ではなく、一つの業務プロセス全体を丸ごと、一括してアウトソーシングするのがBPOの特徴です。これによって社員の業務負担が軽減されるだけでなく、コア業務に集中しやすい環境もつくれます。BPOの対象となる業務として挙げられるのは、受付や経理、ヘルプデスクといったバックオフィス業務が中心です。
●シェアードサービスの検討・導入
シェアードサービスとは、企業グループの全社のバックオフィス業務(間接業務)を、専門の部署や子会社など一ヶ所に集約させることを指します。バックオフィス業務の集約により、各社の業務削減や人材配置・データ活用の効率化、コーポレート・ガバナンスの強化などにつながります。なお、BPOは外部の企業に行う業務委託であり、その点でシェアードサービスとは異なります。
●SCMの検討・導入
SCMとは「Supply Chain Management(サプライ・チェーン・マネジメント)」の略称です。サプライチェーンとは、サービスや商品が生産されてから顧客へ供給されるまでの流れのこと。SCMでは、それぞれの情報を部門間・企業間で共有し、サプライチェーンの最適化・効率化を目指します。
SCMを実践し、在庫の最適化や販売チャネルの見直しを行えばさらなる業務効率化につながります。くわえて、サプライチェーンが最適化されれば消費者の満足度向上も期待できます。
8.企業でBPRを実施するステップ
BPRを成功させるためのステップを、以下で解説します。ステップごとに解説していきます。
●Step1:BPRの目的・対象範囲を明確にする
まず、「何の目的でBPRを実施するのか」「BPRの対象となる部署や業務はどこか」「期待する効果」といった目的を明確にしましょう。対象となる部署や業務を絞り込み、目的(ゴール)を決定することで、計画の迷走を防げます。対象の絞り込みやゴール設定が曖昧だと不要な作業が発生してしまい、思わぬコストがかかることも考えられます。
●Step2:現状分析を行い、課題を把握する
明確化した目的や対象範囲を踏まえて、現状分析や課題の把握を行います。例えば、対象業務の従事者にヒアリングを実施するなどして、現状分析を行いましょう。
また、業務の棚卸しも重要です。社内全体の業務フローを明らかにすることで不要な工程が見つかったり、形骸化している作業が明らかになったりします。業務効率化のボトルネックとなっている箇所を発見できるため、現在抱えている経営課題の顕在化につながります。業務フローの見直しを通して、業務改革を阻んでいる課題点の全体像をハッキリとさせておきましょう。
これらの作業を通して現状を把握・分析し、現在の業務課題を明らかにしていきましょう。
●Step3:戦略や方針を決定する
現在の業務の課題が明確になったら、具体的な改革方法を立案します。例えば、「この業務は本当に必要か・簡略化できないか」「BPOの考え方に基づいてアウトソーシングできるか」「システムの導入で自動化できないか」といった観点から戦略を立てるのがおすすめです。抜本的な改革を行うという性質上、BPRは企業のトップや役員などが中心となって計画を進行します。ただし、BPRを成功させるためには全社員の協力が不可欠です。事前の周知を徹底することはもちろん、戦略や計画の策定には現場の社員を交えて意見を交換しあい、方向性を定めていくことが大切です。
●Step4:決定した施策の実行
戦略や方針が決定したら、計画を実行するフローへ移行します。BPRの旗振り役は企業のトップや役員が担いますが、情報共有が後手に回ると現場に混乱が生じやすくなります。事前共有はもちろんですが、計画実行中にもリアルタイムで情報共有を行い、混乱を最小限に抑えましょう。各部門にBPR推進のプロジェクトリーダーを置き、部門ごとの進捗状況を把握・管理するとスムーズに進みます。
●Step5:モニタリングを行い、必要に応じてPDCAを回す
計画を実行した後でも、PDCAを回してBPRの効果を検証しましょう。業務のプロセスに問題が起こらなかったかなどモニタリングを行い、BPRの効果を測定し、達成度を評価するようにします。効果が不十分の場合は、その都度計画を修正する必要があります。また、期待どおりの結果が出たとしても、検証を続けてより高い効果を追求するのも良い方法です。なお、成功と失敗のどちらにしても、再び業務改革を実施する時に備えて、計画や実施の内容を細かく記録しておくことをおすすめします。
9.BPR推進で重要な役割を担う基幹システム
BPRを推進する手法の一つとして、「各種基幹システムを導入して業務を効率化する」という方法があります。基幹システムとは、その名のとおり企業が業務を遂行するうえで必須となる機能を備えたシステムのことです。具体的には、「販売管理システム」「在庫管理システム」「受注管理システム」「会計システム」などが基幹システムにあたります。
●販売管理システム
商品の販売を管理するためのシステムです。販売管理業務の負担軽減につながります。
商品をユーザーへ届けるまでのお金と商品の流れを一元管理できるシステムだと考えると良いでしょう。売上や見積もりを管理できるほか、在庫管理機能や購買管理機能が搭載されているシステムが多くみられます。また、受注管理システムや会計システムなどの外部システムと連携可能なものも少なくありません。販売業務に関する情報を一元管理できるためミスの防止にもつながり、結果的にBPRの推進にも役立ちます。
●在庫管理システム
在庫管理業務全般の機能が搭載されたシステムです。在庫の検索や、入出荷情報をリアルタイムで確認しながら管理できるため、在庫の適正管理には欠かせません。在庫管理システムを活用することで、在庫管理・棚卸業務の負担を軽減できます。くわえて、手動・目視による入力ミスや計算ミスも防げるため、正確なデータを割り出せます。
●受注管理システム
商品を受注してから生産・発注するまでのプロセスを管理するためのシステムです。これまでの受注業務では、電話やメール、FAXで受けた注文内容を伝票へ出力したり、Excelへ転記したりといった作業が必要でした。受注管理システムを導入することで注文をWebから一括で受け取れるようになり、転記の手間を省けます。手入力する必要もないため、記入や転記ミスの防止にもつながります。
●会計システム
会計業務全般を管理するシステムのことです。会計業務は、日々の支払い管理や帳票の作成、仕訳入力など煩雑な作業が少なくありません。これらの作業をすべて手動で行うとなると、業務負担が増加する原因となります。
例えば、会計システムを導入すると、仕訳データを入力するだけで試算表や帳票などの書類を自動作成でき、各種作成作業を簡略化できるようになります。転記漏れによるミスも防止でき、会計業務全般の精度が向上するのもポイントです。
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