発注者からの要望に対して『このようなシステムを作ります』、あるいは『(ご要望を実現するには)このようなシステムが適しています』といった内容をまとめたものが提案書だ。システム開発会社からの提案を伝えるドキュメントだが、発注者はそれほどシステムに詳しくないことも多く、どう作れば提案をきちんと伝えることができるかに悩むことも多い。発注ナビの加盟会社で大手エンドユーザーから数多くの案件を受注している国際テクノロジーセンターで営業を担当する友成 祐二氏に、『発注者に”刺さる”提案書』の作り方を伺った。
<本連載の話者紹介>
株式会社国際テクノロジーセンター 事業部長 友成祐二氏
音楽大学卒業後、10年間にわたりフリーランスとして演奏活動に従事。
その傍ら、ソフトウェア業界に足を踏み入れ、エンドユーザーからの勧めに応じて転職し、主に図書館システムに関連する業務に従事。
SIerからの誘いを受け、プロジェクトマネージャとして多数のエンドユーザーのプロジェクトに参画。
現職の株式会社国際テクノロジーセンターでは、エンドユーザーの業務システムや新規サービスに関する企画、要件定義、開発、運用までを一貫して支援。
提案書には『最低でも40時間はかけろ』
エンドユーザーのシステムに詳しくない担当者にも『刺さる』ような、良い提案書とは、どのようなものなのでしょうかという問いに対して、友成氏は「分厚ければいい、反対に数ページで簡潔にまとまっているほうがいいなど、一概には言い切れません」と説明する。よく提案書や企画書は1枚で簡潔になどと言われることもあるが、それはあくまでも経営層など多忙で提案の詳細までを把握する時間がない人たちに向けてのもの。いわゆる『エレベータートーク』が有効なように、経営層には短い時間でメリットが伝わるような1枚提案書は刺さる可能性がある。
しかし、システムの提案となると1枚ではとても提案内容を伝えきれない。開発側が構築するシステムをどこまで理解しているか、とくに『どんなシステムを、どう構築して、どのようなメリットを提供しようとしているのか』といった部分は、きっちりと提案書の中で書き切らないと発注者には提案の良し悪しが伝わらない。
それでは、発注者にきちんと伝わる提案書をどう作ればいいのだろうか。「私が前職でSIerに在籍していた頃によく言われていたことがあります。それは『提案書の作成には最低40時間はかけろ』でした」(友成氏)。
念のために記すが、時間をかければいいということではない。熱量の話である。「本気でそのシステム開発の案件を受注したいのであれば、最低でも提案書に40時間をかけるくらいの熱量が必要ということ。1日8時間勤務とすれば5日間をかけて徹底的に提案を考え抜けということ。私も5日間とまではいかないまでも、2日くらいかけて真剣にどんなシステムにするかを考えました」(友成氏)。発注者に刺さる提案書を作成するために、まず必要なことは『熱量』と言えそうだ。
ポイントは『システムの概要』と『システムの目的』
ただし、いくら熱量を持って時間をかけたとしても、内容が伴わなくては発注者に何も伝わらない。発注者に刺さる内容とするには何が必要か。友成氏は、実際の提案書を引き合いに、具体的に説明してくれた。
まずは、提案書の構成についてだ。「冒頭にはまず『はじめに』という、あいさつと自社紹介を記載します。ここは形になっていれば問題なく、内容までを細かく気にする必要はあまりないでしょう。ポイントとなるのは次に記載する項目で、おもに『システムの概要』と『システムの目的』に該当する項目です。ここがきちんと書けているかが第一関門です」(友成氏)。
発注者のお困りごとをお聞きし、発注者の要望を把握し、それをどのようなシステム(システムの概要)で解決して、発注者がどのようなメリットやベネフィットを得られるようにするのか(システムの目的)、これらを開発側がしっかりと理解していることを具体的かつ明確に示すのが『システムの概要』と『システムの目的』の項目だ。
「システムの概要とシステムの目的のページからは、その開発会社が発注者の業務やお困りごと、要望をきちんと理解できているかどうかが『透けて見えてくる』と思ってください。ほとんどの発注者は『はじめに』をすっ飛ばして、ここから確認し始めるでしょう。ここで発注者に概要や目的が『ズレている』と思われてしまうと信頼してもらえず、発注してもらえません」(友成氏)。以降のページでどれほど良いことが書いてあっても、『何もわかっていないシステム開発会社が言っていること』となってしまい発注者には届かないことになる。
そして、友成氏はこの『システムの概要』と『システムの目的』を書く上での重要なポイントとして次のことを示す。「概要、目的の2項目をできれば1ページ以内、長くても1項目を1ページで2ページ以内におさめること。長々と書かずに、お客様に『そうそう、こういうこと。わかってるじゃないか』とパッと認識してもらうことが大切です」と強調する。
システムのイメージを共有できる『イラスト』を
ここまで説明した提案書の『はじめに』から『システムの目的』、『システムの概要』を伝えるページまでの役割は、言ってみれば構築するシステムの全体像を言葉(文章)で発注者に示すことだ。その次に記すのが、システムの全体像を発注者と受注者で共有できるように目に見えるようにするページだ。そこでは図式化がポイントになる。
友成氏は「発注者が『どのようなシステムになるのか』をイメージできるような図を用意することが重要です。それもエンジニアが作成するようなシステム構成図やフローチャートではなく、発注者に『こういうことができるようになるのか』とすっとわかってもらえるようなイラストに近いイメージです」と話す。
そのうえで、「イラストのような図の中では、そのシステムを使う人たちが、どのような恩恵を受けられるのか、メリットがきちんと伝わるようにすることが大切です」(友成氏)という。どういうことか。
例えば、新しいシステムに刷新することでデータの二重入力が解消され業務効率が向上するのであれば、「発注者の業務フローを記載し、その業務フローの『ここに、こういうシステムを導入・活用することで』、『業務がこう流れるようになり』従業員の二重入力の負荷が軽減され、業務効率がアップするといったメリットが生まれることを見てわかるようにします。『二重入力解消』、『業務効率アップ』といったキーワードをイラストの中で明確に記載することも良いでしょう」(友成氏)。
もうひとつ、図式化にあたって重要なポイントがある。それは、提案書は見積書と紐づいているという意識を持つことだ。例えば、先の例でいえば二重入力を解消するための仕組みについて、「システムに詳しくない人でもイラストで示された部分が見積書のどこに該当し、その構築にどのくらいの工数がかかって、費用はいくらなのかが見てわかるようにすることが大切です。それがわかると発注者は金額の納得感を得ることができます」(友成氏)。
提案書には本番のUIのビジュアルを盛り込む
さらに、友成氏は図式化するときには、スマートフォンのアプリの画面やWebシステムの操作画面は、できるだけ本番の仕組みをイメージしたビジュアルを盛り込むことが重要だという。つまり、提案書の段階でこういう操作画面のアプリやシステムができあがることを発注者と開発者で共有して認識できるようにしているということ。そのために、同社では社内のデザイナーにも協力をしてもらい、本番に近い画面を制作して提案書に盛り込むようにしているという。デザイナーに依頼できない場合には、「自分でデザインすることもあります」(友成氏)というほどに重視している。
なぜ、そこまで重視しているのか。「システムの構成やアプリの操作画面などをテキストだけで説明すると、相手が複数の場合には『相手の数だけ違ったイメージが頭の中に浮かんでいる』と考えたほうがいいでしょう。デザイナーが本番に近いUIの図を作り込んで見せることで、発注者との間で具体的な共通認識が生まれます。この開発会社になら任せられると思っていただけるのです」(友成氏)。
そして、提案書の末尾には、自社の実績を紹介する事例集のページを付けておくことも忘れてはならない。提案対象の開発案件を失注した場合でも、この事例集が目に留まれば、別の案件の相談をいただける可能性が広がるからだ。
さて、末尾に事例集を付けたら提出前に今一度、提案書を最初から最後のページまで見直して欲しい。注意していただきたいのは、全体の『見やすさ』だ。イラストでわかりやすく図式化したページ、アプリやシステムの操作画面などについてはデザイナーに依頼して本番のUIのビジュアルを盛り込むことは説明したが、それと同時に提案書全体の見やすさも最後に確認していただきたい。友成氏は、「社内のデザイナーを活用してまで、『見やすさ』にはこだわっています」と話す。見やすさとはわかりやすさに通じる。わからないと発注者に刺さらないのだ。
初回のヒアリングには2名以上で参加
ここまで、発注者に刺さる提案書という視点で、その構成や作り方のTipsについて説明してきたが、言わずもがなではあるが、提案書に盛り込む『システムの概要』や『システムの目的』といった項目は、発注者へのヒアリングによって得られた情報をもとに作成する。すなわち、ヒアリングがきちんとできないと、どんなに構成や見せ方を工夫しても内容がともなわない提案書となってしまうのだ。
とくに初回のヒアリングの良し悪しは、提案書の品質に直結する。どのようなことに留意すべきなのかを友成氏に聞いてみた。すると「初回ヒアリングは時間も限られていることが多いので、まずは信用してもらうことを重視します」という。
もちろん発注者の業務内容などを下調べして打ち合わせに臨むことはマストであるが、1時間程度の初回のヒアリングで発注者の業務内容や課題などをすべて理解するのは難しい。だからこそ、まずは信用してもらうことを第一に考えているというのだ。
もうひとつ、同社ならではの工夫がある。それは、2名以上で参加するということ。とくに、システムに詳しいエンジニアと一緒に参加するようにしているという。友成氏がいろいろと質問するヒアリング役に徹し、エンジニアは議事録をとりながらシステムの全体像をイメージするというように「役割分担をして、ヒアリングに臨んでいます」(友成氏)。二人がお互いに補完し合うことで、確認したつもりで聞き忘れたことなどがないようにしているのだ。
なお、発注者の都合でヒアリングの時間が取れず、メールのやり取りだけで提案書を作成しなくてはならないこともあるだろう。そうしたとき、同社では電話を活用しているという。「たとえ長電話になっても発注者の都合が許せば、できるだけ詳しくヒアリングをします。実際、一度も会ったことがなく電話だけで徹底的にヒアリングをして提案書を作り、受注できたという案件もあります」(友成氏)。
提案書作成の極意とは
ここまで、発注者に刺さる提案書の作り方についてお話を伺ってきたが、最後に友成氏は、いつもヒアリングのときに実践しているユニークな取り組みを教えてくれた。それは、発注者の表情を読むということだ。対面してお話を聞いていく中で、「どのような提案に反応し、どのような言葉に表情を曇らせたか、どのような話を振ったときに饒舌になったかといったことをつぶさに観察します」(友成氏)という。
同社ならでは、いや友成氏ならではのTipsかもしれないが、なぜ表情を読むことを重視しているのか。理由はすべての発注者が『自分が本当はどうしたいのか』、どう思っているのかを明確に口に出して、理路整然と説明できるものではないからだ。
「表情を読むことで、発注者の本音、本当は何を求めているのかが見えてきます。じつは、それが一番大事。そこがずれてしまうと、どんなに発注者が言った通りに構築しても『なんか違う』となってしまい、ご満足いただけないのです」(友成氏)。発注者の表情を読み、本当は何を求めているのかを見極める、提案書作成の極意といえそうだ。
その上で、友成氏は「発注者の表情を読みながら『この提案には興味を持っていただけそうだ』、『この提案には難色を示すだろう』と考えます。そして、『言われた通りの100点満点』ではなく、『夢を乗せて130点』の提案書を作成することを心掛けています」と話す。130点の提案書は、発注者にこういったこともできるのか、こういった提案もあるのかと気づいてもらうきっかけにもなり、「仮に今回の案件を失注した場合でも次回以降の受注につながる可能性があります」(友成氏)という。表情を読み、夢を乗せて130点にする。提案書作成の極意といえそうだ。
新規案件開拓の課題は「発注ナビ」で解決システム開発に特化したビジネスマッチング
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