システム開発における工程はどれも大切な要素ではありますが、中でも最も重要だといっても過言ではないのが「要件定義」です。
要件定義を行ううえで役立つのが「ヒアリングシート」です。ヒアリングシートを活用することによって、要件定義の品質が向上し、システム開発を効率的に進められます。
しかし、システム開発におけるヒアリングシートの作成方法について、お悩みを抱えているご担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、システム開発のヒアリングシートの基礎知識やメリット、作り方、ヒアリングを成功させるコツなどについて詳しく解説します。
目次
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システム開発のヒアリングシートとは
システム開発におけるヒアリングシートとは、要件定義の際、クライアントへの要望を聞く過程で作成するシートを指します。
要件定義の際に、ヒアリングが不十分だったり、漏れがあったりすると、クライアントと開発側の認識に齟齬が生じ、修正の発生や、ことによってはクレームにつながりかねません。そのため、クライアントに対する事前のヒアリングは、システム開発を要望どおりに進めるための重要なポイントの1つといえます。ヒアリングシートを作成する主な目的として、以下の2つが挙げられます。
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ヒアリングを漏れなく行って質を高める
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プロジェクトの進行をスムーズにする
開発するシステムの品質を向上し、プロジェクトを効率的に進めるためにも、事前にヒアリングシートを準備しておく必要があります。
ヒアリングシートのメリット
ヒアリングシートは、システム開発を行ううえで必須の資料ではありません。しかし、ヒアリングシートを作成することによって、数多くのメリットが得られます。ヒアリングシートのメリットとして、以下の点が挙げられます。
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必要なことを聞き忘れない
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担当者のヒアリングスキルに左右されにくい
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内容をプロジェクトで共有しやすい
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テンプレート化して社内で応用できる
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質問しながら情報を整理しやすい
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クライアントの課題や要望を深く理解できる
ここからはさらに詳しく、1つずつみていきましょう。
●必要なことを聞き忘れない
ヒアリングシートを用意せずに要件定義の打ち合わせに臨んだ場合、質問すべき項目や確認しなければならないことについて、ヒアリング漏れが生じる可能性があります。ヒアリング漏れが起きると、クライアントが解決したい課題や、システム開発における必要な機能などの共有が漏れてしまいます。その結果、開発工程時における修正の発生や、想定以下のシステムが完成したことによるクレームにつながりかねません。このようなことを防ぐためには、必要なことを聞き忘れないように注意することが大切です。
また、ヒアリングシートがないと、聞き漏れたことをメールや電話などで何度もやり取りする可能性があり、手間がかかります。開発側はもとより、クライアント側にも手間がかかるため、顧客満足度にも影響を与えかねません。ヒアリングシートで事前に確認すべき点を整理しておくことで、ヒアリング漏れの発生や不要なやり取りを防げます。
●担当者のヒアリングスキルに左右されにくい
担当者によってヒアリングスキルが異なるため、情報収集の量や精度にばらつきがあり、それらが課題になっているケースも少なくありません。この課題が生じないよう、ヒアリングシートでヒアリングすべき項目を事前に準備しておくことで、担当者のスキルに左右されないヒアリングを行えます。
●内容をプロジェクトで共有しやすい
ヒアリングした内容をプロジェクトにかかわるメンバー内で共有する際にも、ヒアリングシートは役立ちます。チームメンバーとともにプロジェクトを進めるシステム開発において、口頭のみのヒアリングでは情報の正確性に欠けるデメリットがあるぶん、トラブルになる可能性も。しかし、ヒアリングシートを活用することで、正確な情報をメンバー間で共有できます。その際、ヒアリングシートはデータ化しておくのがおすすめです。データで管理しておくことで、さらにプロジェクトを効率的に進められます。
●テンプレート化して社内で応用できる
1度ヒアリングシートを作成し、テンプレート化すれば社内で応用ができます。システム開発において、必ず確認すべき点は一貫しているため、テンプレート化しておくことで効率化が図れます。
また、作成したヒアリングシートを活用し、改善を加えてテンプレート化することでヒアリングのクオリティを担保できるのもメリットの1つ。情報をリスト化しておくことで、担当者が不在でも対応が可能です。
●質問しながら情報を整理しやすい
ヒアリングシートの項目に沿ってヒアリングを進めることで、情報を整理しやすくなります。ヒアリングシートを準備せずに打ち合わせに臨んでしまうと、会話が脱線した際、再度主題に戻すのはなかなか難しいものです。ヒアリングシートを用意しておけば、そのような場合でも順を追ってヒアリングが進めやすくなります。情報が整理しやすいぶん、より踏み込んだ内容の質問ができるのも大きなポイントです。
●クライアントの課題や要望を深く理解できる
ヒアリングシートを利用することで、クライアントが今抱えている課題や要望を深く理解でき、クライアントと開発側の認識がより合わせやすくなります。
また、会話のみで質問するよりもヒアリング効果が高まるぶん、課題を早く解決できるのも大きなメリットです。クライアントが抱える課題をクライアント自身が把握していない場合、ヒアリングシートで細かく問題点をヒアリングすることで、課題や改善策が明確になり、迅速な解決につながります。
ヒアリングシートの作り方
実際にヒアリングシートを活用した際のヒアリングの流れは以下のとおりです。
- ヒアリングシートの作成
- ヒアリングシートをクライアントに送付
- ヒアリングを実施
- ヒアリング内容の整理・分析
ここでは、シート作成の流れや必須項目、混同しやすい要件定義と要求定義の違いについて解説します。また、ヒアリングシートの作成に役立つツールやテンプレートを使用するポイントもあわせてご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
●シート作成の流れ
ヒアリングシートを作成する手順は、以下のとおりです。
1.クライアントの情報を集める
まず、クライアントの情報を集めましょう。企業の情報や競合他社だけでなく、業界全体の市場傾向などを、インターネットや社内のメンバー、上司から収集します。過去の情報だけではなく、タイムリーな情報も確認しておくことがポイントです。
2.改善策を事前に準備する
ヒアリングシートを作成する前に、改善策を考えます。課題が不明確な場合は、仮説を立て、ヒアリングシートにメモをしておくことが大切です。ヒアリング時、メモ内容から具体的な改善案を提案できる可能性もあるため、課題解決のきっかけにつながります。
3.ヒアリング項目を考える
ヒアリングシートを作成する際は、具体的な回答が得られるような質問を考えることが重要です。主にヒアリングに必要な項目は以下の4つが挙げられます。
・現状と課題
システム開発で解決したい課題を明確にする必要があるため、クライアントの社内状況や抱えている課題に関する項目を準備します。
・システムに関する印象・疑問点
システム開発側の一方的な考えでヒアリングを進めてしまうと、クライアントがあやふや状態で話が進む可能性があります。クライアントが感じるシステムの印象や疑問点の項目を用意しておくと、価値観をすり合わせた状態で話を進められます。
・スケジュール
相手のスケジュールを事前に把握できていないと、スムーズにヒアリングが進まないことが考えられます。効率良くヒアリングを進めるためにも、事前にクライアントの希望スケジュールや納品日を確認しておくことが大切です。
・予算・価格
ヒアリング時に価格を口に出して伝えにくいケースもあるため、予算や希望価格を確認できるヒアリングシートの作成もポイントの1つです。事前に予算や重視すべきポイントを把握したうえで、効率的なヒアリングを行えます。
そのほか、システム開発におけるヒアリングシートの項目として、以下内容が挙げられます。
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システムに関する疑問
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システムに求める機能や要望
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利用中の類似・関連サービス
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既存システムや外部サービスと連携する必要性
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セキュリティに関する要望
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決裁権や稟議フロー
ヒアリングシートを活用していくうえで、追加すべき項目が出てきた際には、その都度ブラッシュアップすることがおすすめです。
4.メモのスペースを作る
ヒアリングシートには、質問に対して得られた回答内容をまとめておくスペースも必要です。クライアントから質問項目外で発言が出た際にも役立ちます。
●要件定義と要求定義の意味と違い
ヒアリングシートを活用するのは、システム開発における「要件定義」の工程です。システム開発は、大きく分けて以下の流れで行います。
- 要件定義
- 外部設計
- 内部設計
- プログラミング
- テスト
- リリース(引き渡し)
- 運用・サポート
要件定義と混同しやすいものとして、「要求定義」が挙げられます。
要件定義とは、システム開発のプロジェクトを開始する前に、必要な機能や実現方法を明確に定義する作業を指します。システムの機能、性能、操作性、品質などを具体的に明示し、クライアントと開発側が、開発範囲や設計・テスト内容などを明確にして共有する、システム開発における重要な工程です。
一方で要求定義とは、システムを使うことになるユーザーからの要望やニーズを収集し、整理する作業を指します。そのため、システムを利用する発注側が行う作業です。
実際に現場の業務で抱えている課題や問題を洗い出し、システム化によって実現したいことを明確化したうえで、要求定義書を作成します。要求定義はあくまで希望・要望であり、そのすべてがシステム化で実現するとは限りません。開発側は、発注側の要求定義書をもとに、要件定義を決定し、要件定義書を作成します。要件定義と要求定義は役割と焦点が異なり、要求定義は、要件定義の情報収集の一環として行われる傾向にあります。
要件定義において必要な項目は以下の表のとおりです。
名称 | 内容 |
---|---|
機能要件 | 発注側がシステムに求める機能を定義する |
性能要件 | システムに求める機能性を定義する |
品質要件 | システムの品質基準を定義する |
実行計画 | システム開発の要件を実行するために必要なコストや工数を決定すること |
●作成ツールやテンプレートの活用
ヒアリング作成ツールとは、Web上でアンケートの作成から回答の集計までを行えるツールを指します。ヒアリング作成ツールを活用することで得られるメリットは以下のとおりです。
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短期間でアンケート結果を集計できる
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複数ユーザーに対応しているツールを使えば、スピーディーに共有・情報分析ができる
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利用シーンに適したテンプレートを用いることで、質の高いヒアリングシートが作成できる
インターネット上でヒアリングシートのテンプレートを提供しているWebサイトもあるため、ぜひ参考にしてみてください。作成ツールやテンプレートを活用することで効率的に作成できます。
システム開発のヒアリングを成功させるコツ
システム開発のヒアリングを成功させるコツとして以下の3つが挙げられます。
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受注側と発注側がシステム化の目的を認識する
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ヒアリング時の記録を残すことで「いった・いわない」のトラブルを防ぐ
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ヒアリング内容をアウトプットするスキルや傾聴力を鍛える
1つずつみていきましょう。
●受注側と発注側がシステム化の目的を認識する
システム化の目的は、プロジェクトにおいて羅針盤のような役割を担っています。そのため、システム開発の目的や、導入することで解決したい課題を受注側と発注側で明確にすることが大切です。目的が曖昧のまま進めてしまうと、完成するシステムに大きな影響を及ぼす可能性があります。受注側と発注側に目的に対する認識の齟齬がないかも、ヒアリングの際にしっかりと確認してください。
●ヒアリング時の記録を残すことで 「いった・いわない」のトラブルを防ぐ
システム開発において「いった・いわない」のトラブルが起こるケースもあります。要件定義を終え、テストの際に「要望した機能が搭載されていない」「その機能は不要だといわれた」などといった水掛け論が起きると、時間の無駄になるだけではなく、大きなトラブルに発展しかねません。ヒアリング時に決定したことは、ヒアリングシート内に記録を残すことによって「いった・いわない」のトラブルを防げます。
●ヒアリング内容をアウトプットするスキルや傾聴力を鍛える
ヒアリングで確認した内容を記録として残す際、誰がみてもわかりやすいようにアウトプットをする必要があります。
また、傾聴力を鍛えることも大切です。傾聴力を高めることで、相手のニーズや本音を聞き出せたり、信頼関係を築いたりすることに役立ちます。傾聴力を高める方法として、相手が話しやすいよう「相手7:自分3」の割合を意識するほか、話をさえぎらずに最後まで聞く、話すテンポやトーンなどを相手に合わせることが挙げられます。これらのポイントを意識したうえで日頃からコミュニケーションをとってみてください。
ヒアリングシートはシステム開発成功の鍵を握る重要なポイント
システム開発において、要件定義は重要な要素の1つです。要件定義のヒアリングの際に、クライアントの要望を聞き漏らしてしまうと、後々修正の対応やクレームにつながる可能性があります。
要件定義を固める方法として、ヒアリングシートの活用がおすすめです。ヒアリングを漏れなく行えるため、品質の向上につながります。ヒアリングシートに必要な項目をしっかりと把握したうえで作成を行い、クライアントとの打ち合わせに臨んでください。
ただし、本記事を読んでいる方の中には、システム開発を考えているものの、自社にはノウハウがないと悩んでいる方がいらっしゃるかもしれません。その場合は外注を利用するのも1つの手です。「自社に合った開発会社がわからない」「選定にできるだけ時間をかけずにスムーズに導入したい」とお考えのご担当者様はぜひ一度発注ナビのご利用をご検討してみてはいかがでしょうか。
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